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「きょ、きょ…今日は、よろしく頼む…っ」
「は、はい…あの、大丈夫ですか?無理して私と喋らなくても…」
「ああ…いや、そこは男としてケジメと誠意をだな…じ、実際誤解されてたわけだしっ。あ、前のレモンの蜂蜜漬け美味かった、ぞ!」
「センパイ…水野サンあっちあっち。俺に向かって喋ってどうするんスか」
「ハ、ハードルいきなり上げふな!」
「(上げふな…)…先輩、試合大丈夫ですか?」
「ら、らいじょうぶ!」
「「ブッ!」」

私の顔から赤みが引いてちょっと時間が経った頃。結局破壊されたゴールを修繕するよりコートを変えた方が早いということで、別の近場のコートを借りることになった。距離はそこまで離れていないが、ゴールを壊す凄いプレイをする人達が出場していると噂が噂を呼んで、観客が凄い数になっていた。ちょっとしたイベント会場みたいな事になっている。この大会の趣旨としては大成功と言ったところじゃないだろうか。
黄瀬君も一応帽子と度の入ってない伊達眼鏡を着用。しかしちゃんとオーラがシャララと出ているので、隠し切れているのかは定かではない。私は私で少しでも女の子らしさを無くすようパーカーを羽織ったりしてみるのだが、やはりそれだけでは笠松先輩の緊張癖は取れないようだ。
今もコートの上に黄瀬君を挟んで並んでいるのだが…ずっとこの調子。足を出すのも精一杯で、そのうち本当に腕と足を同じ方から出しそうな勢いだ。
これで試合が成立するのだろうか。仮にも相手はゴールを壊すような人達なのに。

「にしても相手チーム遅いっスねぇ。ゴールを壊しといて、遅刻っスか…?」
「すみません、遅れました!!あと時間遅らせてしまって本当にすいません!…ほら、バカガミ!あんたも謝れっ!」
「イデッ…ちょ、髪抜けるっ!です!!」
「わお…」
「本当にすいません…あれ、黄瀬君じゃないですか」
「…黒子っち、火神っちに誠凛の監督さん?!何でここにいるんスか?!」

何か可愛い人がデカイ男の子引きずってんなーと思えば、どうやらその人達が最後の私達の相手らしい。女の子の方が先輩のようだ。あと一人は何処だろうと辺りを見回すと…目の前にいた。悲鳴をあげたくなったが、そこは理性でギリギリの所で堪える。なんて影の薄い子なんだ。

「っ…!…き、黄瀬君知り合い?」
「黒子っちは元チームメイトっす!」
「はい。黒子テツヤです。あっちはチームメイトの火神君と、監督の相田リコ先輩です。えーっと…貴女は、黄瀬くんの彼女…」
「え?」
「なわけないですよね。すいません、失礼な事を」
「(おお…)い、いえ…あ、私海常の水野です。よろしく」
「誠凛の黒子テツヤです。よろしくお願いします」
「ちょ、失礼な事って!黒子っちヒドイ!」

ギャン!と涙を流す黄瀬君。どうやらこの扱いは海常限定ではなく、いつもこのキャラのようだ。成る程。ますますモデルの扱いから離れていっている。もっとモデルさんはちやほやされてるイメージが…あ、女の子にはされているか。

「そちらのチームはあと…笠松さん、ですよね?」
「そうっスよ?」
「すみません…なんか、僕の知ってる笠松さんとはちょっと違ったので…」
「…って、笠松センパイ?!」
「あわわ…」
「イケル…イヤ…ダイジョウブダ、ユキオ。イツモドオリニヤレバ…!」

…どうやらコートの中に女が二人になったことで、先輩の限界が来てしまったようだ。
虚ろな目で片言。しかも黄瀬君のシャツを掴むという普段なら絶対にあり得ない事までしている。きっとそれですら無意識なんだろう。

「センパイ…」
「どうしよ…私がフード被って顔を隠せば少しは…」
「あ。それなら僕の帽子使ってください」
「ありがたいけど…黒子君はいいの?」
「はい、フードだとバスケしにくいですし。それに折角の機会です。笠松さんを含めお互い全力で戦いたいです」

黒子君は僕ので申し訳ないんですけれど、と躊躇無く自分の頭から帽子を取って私に差し出した。帽子を取る時に水色の綺麗な髪が揺れる。黄瀬君の髪も綺麗だとは思っていたが、これでは私の女子としての立場が危うくなりそうだ。
「ありがとう!」
「いえ、どういたしまして」
「えっ…ちょ、それなら水野サン俺の帽子を使うっスよ!ほら、」
「え?」
「黄瀬君はダメです。君だと女の子達にバレたらバスケどころじゃなくなります、変装のための帽子なんでしょう」
「そ、そんなぁー…」
「な、なんかごめんね黄瀬君」
「水野さんが謝ることじゃないです」

黒子君はそう黄瀬君を一蹴するとグダグダと怒られて拗ねていた怖そうな人、火神君とやらにも何やらけしかけていた。なかなかいい性格をしているようだ、黒子君は。
黒子君はよく分からないけど、火神君は明らかにバスケ上級者って感じだし、リコさんもやらも運動神経が悪いわけではなさそうだ。
二メートルに近い二人が同じコートに向かい合って立つことで圧迫感を多少感じながら、これは苦戦しそうだと有希はそっとため息をついた。
だけど…何故か、絶対勝つ!と言う様な目で火神君を威嚇している黄瀬君を見ていると負ける気がしなかったのが不思議だ。

「えーっと…水野さん、だったわよね?私初心者だけどよろしく!」
「はい、有希ですよろしくお願いします!私も初心者です」
「有希ちゃんね!私はリコでよろしく。…だけどあなた、運動部…ラケット競技よね?テニスかな。私まともに運動してるわけじゃないからちょっと厳しいかなぁ」
「へ?」

何でこの人がそんな事知ってんだ?
慌てて黄瀬君の方を向いてみるが黄瀬君はその意図に気づいて慌てて「何も言ってないっスよ!」と横に首を振る。
いや、別に言ってても良いんだけどね。

「監督の特技です。人の身体能力が数値で見れるそうですよ」
「え、リコさん凄い」
「やぁね、褒めても何もでないわよ!」
「カントク…感情だだ漏れだ、です」
「なっ…るっさいっ!」
「チップオフ!」
「あ、始まった」

そんなかんだで私達がダラダラと話し込んでいたからだろうか。キリが無いと判断した審判は無理矢理開始の合図を入れ込んだ。
皆も流石経験者ばかりというだけあってか、試合開始の合図を聞くや否やすぐに表情が変わった。完全にスイッチが入ったと肌で感じ取れるほどの迫力だった。思わず額から冷や汗が流れてくる。
特に黄瀬君と火神君が向かい合っている所なんか…後ろに猛獣が見えてもおかしくないくらいだ。笠松先輩も完全にスイッチが入って、先程の虚どりっぷりが嘘のよう。

「あいつら…絶対私達の事忘れてるわ」
「…」
「…有希ちゃん?」
「うえっ、はい?!」
「どうかした?」
「い、いえ…」
「まぁ、あれ初めて見んなら怖いわよねー」

いつもあんな感じよー、とケラケラ笑うリコさん。私はそうですねーとかいう相槌ができなくてただ曖昧に微笑んだ。
まぁ正直言って怖くないと言えば嘘になる。目付きは何時もより鋭くなってるし、醸し出す雰囲気もそもそも今までに見てきた黄瀬君とは全く違ったからだ。今までの試合はなんだかんだで本気を出していなかったのだろう…。こんなハイスペックである黄瀬君に挑発するということはつまり、それ程火神君が凄いプレーヤーだったということだ。
…だけど。

「(かっこ、いい…)」

真剣な目で向き合ってる黄瀬君が。真剣にバスケをしている黄瀬君が、今まで以上に魅力的だと感じてしまった。
今まではそりゃ、かっこいいとかモデルなんだから当たり前のように思っていたけれど、今の黄瀬君を見ている私は一体どんな顔をしているのだろう?
…きっと、人に見せられるような顔で無いことは分かっていた。

「…(いけない。集中しなくちゃ!)」

もう試合は始まっている。
そんな所に私にボールが回ってきた。

「有希ちゃん、先輩だからって手加減無用よ!」
「はい、最初からそのつもりです!」

笠松先輩は黒子君が。黄瀬くんは火神君がついていた。だから私とリコさんの一騎打ちだ。私は運動部の意地と、これまでの試合で培った経験と先輩達からのノウハウで素人ぐらいは何とか相手をできるようになっていた。確かこんな時は…

「フェイント!」
「っあ…!」
「よしっ」

運動神経はいいみたいだが、やはり日頃の運動量が違うせいだろうか。リコさんは簡単に引っかかる。これで私はフリーだ。ゴールも目の前だし、シュートを一か八かで…

「させるかっ!」
「え…って、ええええ?!」

嘘でしょ?!

「ちょ…火神っち?!」

誰か嘘だと言ってください。
私がリコさんを抜くと同時に目の前に何かが横切る。何だと見上げれば…火神君が黄瀬くんのマークを離れて私のところまで来ていた。

「カントクは笠松さんについてください!」
「ええっ、私が?!」
「カントクなら大丈夫です!黄瀬君は僕が…」
「黒子っち、それ卑怯っスよ!…ってか有希サン、ボールこっちに回して!危険っス!」
「き、危険て言われても…」

目の前に立ちはだかる巨体。手を抜く気は一切無いようで、今にも襲われそうな迫力を醸し出している。女だからと言って手を抜かれないのはこの場合…なんとも複雑だ。そんな有希でも、一つ分かっていることがあった。

「今、パスを回しても…確実に取られる…」

笠松先輩はまずリコさんが付いて使い物にならなさそうだし、黄瀬くんも黒子君のせいでプレイがやりにくそうだ。だからと言って私がこの人抜けるわけないし…てか、本当に怖いです、はい。
辛うじてボールをつくことを忘れないように視線は火神君に釘付ける。一瞬でも気を抜けばやられる。そりゃあそうだ、相手は黄瀬君が本気でかかるような相手だ。私なんかちっちゃい子供にしか見えないはず。…だけど。

「黄瀬君!」
「?!…ハイっす!」
「!」
「いっけぇ!!」

私のアイコンタクトと同時に黄瀬君は黒子君を振り切って走り出す。それと同時に私は、火神君からボールを取られないように何歩か一気に下がって、ボールを高く高く放った。火神君が絶対手の届かない所まで高く。

「無理に…打った!?」
「…っち!」
「げっ」

私はかなり高く放った筈なのに、それでも高さが足りなかったのかギリギリ火神君の手がボールに触れた。軌道が少しずれて、ボールはゴールに一度当たっただけで跳ね返った。
…だけど、私は自分のシュートが最初から入るなんて思ってはいない。

「黄瀬君!」
「任せろっスよ!」

ガコンッ!!
いい音を立てて入ったゴールは、流石に今度は壊れることはなかったけれど、それでも会場を静まらせるには十分なものだった。
決まった感動で思わず放心していると、それに気づいた黄瀬君が私に向かって最高の笑顔で私に拳を向けてくれる。その笑顔もとてもかっこ良くて、しかも時間的に日がだんだん沈んで夕日が彼の顔に反射して…。
もう、自分の気持ちに蓋をすることはできなかった。だから私は諦めて、思いっきり吹っ切れたように笑顔を彼に向け、そして拳をぶつけてやった。








*****

書いた後に思ったけど、帽子かぶった黒子なんで…反則だ!!絶対カッコ可愛いっ!!←




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