2-3







試合は一試合目が黄瀬君と森川先輩。二試合目が早川先輩と小堀先輩。そして三試合目が黄瀬君と笠松先輩という順番になった。結局黄瀬君が二回出ると押し切ったらしい。チームは全八チームあり、二チームずつABCDと割り振られていた。私達はBチームだった。
相も変わらず黄瀬君達は他の人達より頭一つも二つも飛び出ているらしく、一回戦はすぐに勝負は決まった。勿論勝利だ。

「この位のレベルだったら、意外と楽に賞品ゲット出来そうっスね!」
「君の勇姿はバッチリとこの目に焼き付けたよ、有希ちゃん!」
「ど、どうも…やっぱり二人とも凄いですね。相手大学生だったのに」
「大学生って言っても昔バスケ部だったってだけでしょ。動きも何かショボかったし」
「あれをショボかったっていう黄瀬君が凄い…」

一回戦は大学生との試合だった。見た目がチャラくてただ一緒に参加させた彼女に良い所を見せようと参加したらしい。勿論あっという間に私達に大差をつけられ、寧ろ格好のつかない姿を彼女に曝け出す結果に終わった。
黄瀬君は手加減のつもりだったのかダンクを見せてはいない。だけどそれでも普通に点は入っていたし、森川先輩の独特のフォームで3Pを決めたりと圧巻だったのだ。
彼女もバスケ経験者ではないらしく、基本私がマークについていたのだが、運動が得意というわけでもないらしい。それどころかパンプスでバスケをやっていたくらいだからスポーツとは無縁の人だったのだろう。ある意味私は助かった。

「水野もかなり動けてたじゃないか。次はもうちょいしたらあるが、大丈夫そうか?」
「パンプスでバスケをやってる人に負けたくはないです。ちょっとキツイかもだけど、何とか頑張ります」
「ああ頑張れ」
「はい、本当にお手柔らかにお願いします…」



『……………………ピピーッ!!ゲームセット!Bチームの勝ち!』



「…っ………!」
「うおっ水野?!キツそうだが大丈夫か?」
「…バ、バスケの10分をちょっとなめてました…運動量が違い過ぎる」

試合終了の笛と共にその場に倒れこむ有希。半端じゃない、バスケの運動量が文字通り半端じゃなかった。下手したら冬にやる体育での持久走を上回るのではないか。秋となって肌寒い季節になったというのに、有希は最初に着ていたパーカーを既に脱ぎ捨てていた。暖冬はやはり嘘ではないらしい。ここに来る前感じたあの鳥肌立つ感じは一体どこにいったのか。半袖になっても汗が引くどころか、寧ろ頬を伝ってくる。
ああ、女子って面倒だ。もし自分が今男なら黙ってタンクトップになったのに。

「…って言うかですね!一試合目からわざと私にボール回してくるんですか?!私本当に初心者って言いましたよね…!」

…そう、私がこんなに疲れているのは二試合フルに出ただけじゃない。他にもちゃんと理由があった。有希はシャツの首元の部分で汗を拭いながら(特に黄瀬)を睨みつけるように見上げた。
私が座り込んでいるのに対して皆はまだまだ体力に自信があるのか、立って私を見下ろしていた。背の高い彼らを見上げると肩が凝る。

「特に黄瀬君とか!まさか面白がってた?」
「ち、違うっスよ!…いや、本当水野サンが初心者にしてはやけに良いポジションにいるもんだから…つい、ね?」
「そ、そうそう!反射でボール回しちゃうんだよな」
「それに水野サン、運動神経いいからシュート意外と入ってたしいいかな、って。ほら、俺がやり過ぎて点差つけすぎるのもあれだし?」
「入ってないし、やむを得ず打って速攻もらわれたりしてたよ!あと嫌味ストップ!」
「お(れ)がいるぞ、水野!」
「二試合目は確かに早川先輩が頼もしかったですけど…」
「うおーっ、褒め(ら)れたっ!」
「意味わかんないっすよ、先輩」
「ズルいっ!」
「お前はもっと意味わかんねぇよ、森山」

私はあくまで補助。と言うか規定を満たすための人数合わせ要員…の筈だった。だから試合で私はあくまで一人を徹底的にマークすればいいのではという考えだった。
だけど試合が始まってみればどうか。一人をマークするどころかまるで私に花を持たせるかの様に上手くマークを外した時にボールが回ってくる。味方からのパスも然り、スティールされたボール然り。慌ててボールを取り誰かに渡さなければと2人を見れば、必ずと言っていいほど打ってしまえというアイコンタクトを回してくるのだ。
だから私はやむを得ず初心者なりに必死に、自分がマークしていた人物にボールを取られないように無我夢中でドリブルをする。伸びて来る手を躱しながらゴールにシュートを放つのだ。ずっとマークしていた人物にマークし返されるというのはなんとも言えない気分になる。
有希はバスケという競技が両手を使ってはいけないという規定が無くて本当に良かったと思った。慌て過ぎて何度両手でドリブルしたことか。

ドリブルで相手を躱しつつ、しかもゴールを狙うと言う行為はかなり神経を使うものだ。ああやってボールが回ってくるたび、神経をすり減らしながら何とか試合をこなした水野が疲れ果てることは寧ろ当たり前なのかもしれない。黄瀬君達が疲れていないように見えるのはきっと日ごろの成果と慣れのせいだ。そう思いたい。

「…黄瀬君。確か、次が決勝戦だったよね。すぐにあるの…?」
「どうなんスかね?ちょっと見てくるっス…『大会に出ている皆さんにお知らせ致します。急遽、ゴールの破損のため、決勝戦まで時間を少し延長させていただきます。繰り返します、ゴールの破損のため…』…あ」
「ゴールの破損?」

そんな事があるのだろうか。有希ははて?と首を横に傾げた。ゴールの破損なんて、まさかあの部分が折れるなんてことはないだろう。ならばどうしてそんな事が起きるものか。
頭に浮かんだその疑問は隣にいた黄瀬君が答えてくれた。

「え、誰かダンクやっちゃったんスか!?折角俺、我慢してたのに!!」
「へ…ダンクで破損?で言うか我慢?」
「一度前に練習試合でうちの学校のゴール壊した奴がいるんスよ。今日のゴールも何かそん時の感じだったからやめてたのに…」
「そう言えばそんな事、小堀先輩から聞いた様な…黄瀬君の周りは中々粒揃いだね」
「!」

高校生でダンク。しかもゴールを壊す程の怪力の持ち主というのはいかほどのものだろう。最早その人は色々と高校生を脱してそうだ。
どんな人なんだろうかと黄瀬君に尋ねてみようかと思ったが、すぐにやめた。なんだか怖い感じの人しか想像できない。勝手な想像なのに、妙な迫力を纏っていらっしゃる。勝手な想像なのに。

「…それに折角水野サンに、いいところ見せる機会だったのになぁ…」
「え?」
「へあ?!や、今のは…」
「大丈夫だよ、既にちゃんと凄いところ見せてもらってるから。試合中の黄瀬君、すっごく心強いし」
「ええ、まあそういうことじゃないんすけど…そう言ってもらえると嬉しいっス!だけど俺の実力はまだこんなもんじゃないっスからね?」

男の子は根本的に女とは違う。女よりも勝負に熱くなり、やはり力を持ってる人はその力を誇示したくなるのだろう。ましてや黄瀬君はモデルだ。私みたいな平凡な人と違ってそういうことに抵抗はないに違いない。そういう意味で捉えた有希は笑って黄瀬君を褒めたのだが、黄瀬君は一瞬私の言葉に動きを止めて、そして不敵に笑った。
いつもの無邪気な笑い顔ではない。…男の顔だった。
その笑顔に胸の奥の何かが突き動かされたような気がして有希は、思わず黄瀬君から目をそらした。

「そうだ、これ有希サンにあげようと思って買っといたんスよ!」
「え…シークワーサージュース?こんなの売ってたの?」
「うん。なんか面白そーでしょ?実際にこれ、美味しいんスよ!あ、お金はいらないからね!今日のお礼っス!」

はい、と手渡されるボトルは二試合目のときに買ったのだろうか。少し汗をかいていたが、まだ充分冷たさを保っていた。正直二試合目の運動で喉がカラカラになっていた有希には有難い申し出で、申し訳なく思いながらも受けとった。

「!!美味しい…っ、何これ!」
「でっしょー?運動後にいいって、前にメイクさんに教えてもらったんスよ!水野サンにはもう一試合頑張ってもらわないとっスからね!」
「はは、今度は黄瀬くんと笠松先輩でしょう?結果は余程のことがない限り大丈夫だよ。ただ、私が足引っ張らないように頑張らなくちゃ…」
「水野サン?」
「ほら、私ただえさえ先輩には嫌われてるみたいだからさ。…せめてここで頑張んないと!」
「ちょ、ちょっと待って!なんでそうなるんスか?!」

私の二の腕をガシッと掴む黄瀬君。
待て待て待て、そこには私の脂肪が!
私はどうどうと黄瀬くんに落ち着くよう促した。だけど黄瀬君は目だけでもどういう事か問い詰めてくる。やけに目がキラキラしてると感じるのは、何故だろう。これがモデル力なのか。

「いや…だって会った時は距離取られるし、目合いそうになっても逸らされるし…?」
「ブッ!!!」
「何でここで吹き出すの?!」
「い、いや…ププッ…!」
「黄瀬君、これ結構マジなんだよ?!」
「プッ…安心していいっスよ、水野サン」
「?」

中々黄瀬君が笑いを止めてくれなくて、段々バカにされてるんじゃないかと思い始めた時。黄瀬君はやっと笑いを堪えてそう言った。少し私が涙を貯めれるくらいの時間だった。

「安心って」
「あのね?笠松先輩は…」

実は、女性が苦手なんスよ。だから、気にすることないっス。
フワッと爽やかな香りを感じたと思えば私の耳元には黄瀬君の顔。耳元で黄瀬君は少し名残で笑いながら、笠松先輩の弱点を教えてくれた。

「だってあの人、卒業アルバムの女子の写真すら見れないらしいんス。クラスの子とだって「ああ」と「違う」の二言でやりくりしてるらしいっスから」
「み、見事肯定と否定の二つ…」
「そうそう!…って、あれ水野サン?何か耳赤いっスよ?」
「…!!」

黄瀬君の言葉が脳に届く前に反射で有希は耳を塞ぐ。余りの勢いに、黄瀬くんもちょっと目を丸くしていた。

「い、いや…ほら、運動して汗かいたからかな?だから体熱いのかも」
「そうっスか?」
「だから…ほら、私汗臭いだろうからあんま近寄んないほうがいいかも…」
「え?そんなことないっスよ」
「わかんないよ」
「俺が大丈夫だから平気なんス!…それに」

黄瀬くんはこの言葉の後、眩しい笑顔を私に向けてくれた。

「水野サンからは、柑橘系のいい匂いしかしないっす」
「え?」
「俺ね。どんな人混みの中でも水野サンならすぐに見つけられる自信、あるんスよ」

恥ずかしげもなく、むしろ胸張ってそう言って笑う黄瀬君。
ダメだ。この子言う事までイケメンすぎる。
きっと慣れているからこんな事が言えるのだろうとは思うけど、それでもなんだか悪い気はしない。有希はそうとだけ素っ気なく返事すると、黄瀬とは反対の方を向いて、何か目止まりするものを探した。この耳が更に赤くなってしまったのを隠す為に。
そうなったのはこの人がモデルだから仕方のないことなんだと無理やり納得することにした。








*****

「俺ね。どんな人混みの中でも水野サンならすぐに見つけられる自信、あるんスよ」

言う人が言えば確実にキュン死出来るレベルのセリフなんだろうけど、黄瀬が言うと犬宣言してるようにしか聞こえない←
まぁ犬だからしょうがない。犬だから。実際に校門ではそうやって見つけてるしね


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