ONE PIECE | ナノ


あなたが思うよりずっと(ペンギン)


「ズルい」
「は?」
「ズルいよ、ペンギン」
「…一体何のことだか全く理解できないんだが」
「…私ばっか、なんだもの」
「?」

片手には彼女が入れてくれたコーヒー。目の前には山積みになった仕事の束。そして横にはリスの様に頬を膨らましたシイナが。
取り敢えずペンギンは、どうしたんだと彼女の頭をいつもの様に撫ぜながら、そっと手に持っていたコーヒーカップを机に置いた。

「おれが何かしたか?」

心当たりなんて自分では見当たらない。それでももしかして自分が気付いていないところで何かやらかしたのではと思いシイナに尋ねても、彼女は少し顔を歪めて首を横に振った。

「違う」
「は?」

今の言い方は自分に非がある様だった。なのに自分が何もしていないと彼女は言う。
グランドラインに入ってからは頭を悩ます様な気候や事件でめいいっぱい頭をかかえて回転させてきたつもりだが、彼女の女心と言うのはいつもその先に行く。グランドラインの怪奇現象は多少持ち合わせている知識を捏ね繰り回して理屈を繋げればそれなりの説明は付くのだが、所謂乙女心だとその手は通用しない。むしろ分かっていないと自分で墓穴を掘る事になる(実談)
だからそうなる前にペンギンは、彼女に直接原因を聞く様にしていた。今回も例外じゃない。

「じゃあ何がお前ばっかなんだって?何が違うんだ、言ってくれないとおれは分からない」
「…ニュアンスで、感じ取れない?」
「残念ながら、全くだな」
「そうね、ペンギンだもんね」

自分がお手上げだと言う様に両手を肩の高さまで上げ首をすくめる振りをすると、シイナは分かってたと言う様にクスリと笑った。それを見てペンギンは良かったと心の奥で安堵のため息を付く。シイナは完全に不機嫌ではないらしい。

「じゃあ何なんだ?」
「う…わ、笑わないで聞いてくれる?」
「ああ、絶対に笑わない」
「…そう断言されると、逆に言いにくいわね」

シイナは先程と一変し、少し頬を赤らめながら口をひらいた。

「あのね…こんなの言っていいのか分からないんだけど…」
「何だ?」
「私ばっかだと思うの。…その、色めいた事に慌ててるの」
「は?…あ、なんだ。仕事で構ってやれないから不満に思っているのか?それなら悪いが待っててくれ、今日に限ってこんなに沢山…」

ほら、と机を示して仕事がすぐに終わらない事を示して見るが、シイナからはちがーう!と叫ばれた。

「私だって船のクルーよ!そんなこと分かってるし、不満になんて思うわけないし、まさか邪魔する気もないし…!むしろ何かあるなら手伝おうと」
「それは助かる」
「…ってああ、そうじゃなくて!」

シイナは上手く言えないと、自分のセットしていた髪をくしゃくしゃと掻き回す。ペンギンはそんな彼女を見て、今日も彼女の髪は綺麗で、よく海の上でこんなにも髪質保っていられるな…なんて的外れな事を考えていた。もちろん彼女のこの髪はペンギンのために必死にシイナが髪質を保っているのだが。

「だから…ペンギンは私と手を繋ぐのも、キ、キスするのもさらりとやってしまうでしょう?私はいつもされる度に慌てるし…別に今に限ったことじゃないけど、ペンギンは寂しいとか思わなさそうだし…」
「?やっぱり構って欲しいのか?」
「?!もう、違うったら!だからっ、私ばっか余裕無いみたいでなんか嫌なの!私の気持ちだけが強すぎるみたいで…っ」
「!」

自分の要領得ない性格のせいだろうか。ついにシイナは切れる様に自分が隠し持っていた爆発物を自分にぶつけてきた。ペンギンはあまりにも唐突な事だったので理解するために何度か瞬きをしていれば、シイナは何を勘違いしたのか、それともらしくない事を言って途端に羞恥に駆られたのか、あっという間に顔を真っ赤にして眉を下げた。

「…っ、ごめん。やっぱこんな事言うもんじゃないよね。今のは聞かなかったことに…」
「すまない。シイナがそう思ってたなんて知らなかった」
「!…や、私は謝って欲しくて言ったんじゃ」
「だが、それはシイナの思い込みだ」
「?」

おれはシイナを前にすると、自分が後で情けなくなるぐらい余裕がなくなるんだ。
ペンギンはけして苦し紛れなんかではなく、心の奥からそう言った。だがシイナはそれを聞くやいな、うん臭そうな物を見る目でこちらを見た。明らかに信用できないと言った態度をあからさまに取られ、むしろペンギンは笑いが起こる。ペンギンは、信じてもらえない事を前提に更に続けた。

「それにおれは結構ヘタレだぞ」
「自分でよく言うわ。…ペンギンが告白してきてくれた時も、平然と返事がわかってるみたいに言ってきたくせに」
「あー…あれもおれはヘタレだったなァ」
「はぁ?」

今度はシイナの番だった。先程ペンギンがシイナに意味が分からないと言って首を傾げた様に、今度は全く逆の立場になって同じ事を繰り返している。更にペンギンは何がおかしいのかは知らないが、クククッと笑いを堪えている。

「…とにかく、だから心配しなくて良い。おれもお前がおれを想ってくれてるのと同じぐらい…いや、それ以上だからな」
「!!…っ、ほら!またそんな事さらりと言う!」
「悪いか?」
「!わ、悪く、…ない…」
「ハハ、そうか」

結局は自分に押し負けて黙り込んでしまうシイナ。側に置いてあった椅子を引き寄せては座り、何の対抗心か仕事を寄越せと悔しそうに自分に向かって呟いた。そんな彼女の姿も愛おしくてペンギンは、溢れ出る気持ちを手に込めて、シイナの頭をクシャリと撫でる事で気持ちを抑えた。
…きっと、シイナは知らない。

「ねぇ…シャチ。私もう限界だよ…」
「ああ?ならさっさと言っちまえばいいんじゃね?上手く行くと思うぜ?」
「簡単に言わないでよー!これで失敗なんてしたら後がどんなに気まずい事か…」
「?」


…実は、シャチにシイナが恋愛相談に乗ってもらっていた事を当の本人が聞いていたなんて。

「あー、ペンギンならそこらへんもカバーしてくれんじゃね?」
「うっわ、振られる事前提。サイテーシャチ」
「は?」
「って言うか気まずくなる原因を作ったのはこっちなのに、相手に気を使わせることが駄目なの。申し訳ない」
「じゃあお前が気まずくなんねぇ様に…」
「それが出来たらこんなにも悩まない!いやー、もうっ!」
「うぎゃー!女の恋愛ってちょーめんどくせぇ!!ってか、お前がめんどくせぇ!!」
「ちょっ、外に聞こえる!!」
「プッ…」


彼女は知らない。聞いていたからこそ、自分と同じ気持ちと知って、告白する覚悟が決まったこと。

「ククッ…おい、そこの二人。そこでなにしてんだ?」
「えっ…え?!ペンギン?!」
「お、丁度いい所に来たな!ペンギン、シイナが…」
「だ、黙れっ!!」
「ふげっ!」
「ペ…ペンギン?今の話聞いてたりなんて…」
「何だ?おれは大声が聞こえたからこっちきて見たんだが…どうせまた二人でバカしてたんだろ?」
「え、違う。…けどいいや」
「それよりシイナ。…少し、話がある」
「へ?」


そして彼女は知らない。もしこの事がなかったら、自分からあの関係を崩す気はなかったという事を。自分が彼女…シイナと全く同じ理由で、告白を躊躇っていた事を。

「(この事をバラしたら…切れそうだから、言わないけどな)」

だからおれはヘタレだと言ったろ?シイナ。

「ああー、またなんか一人で笑ってる!」
「ああ、気にするな」








*****

…自分でこんなのかけるんだなって、呆然としてます。私にしては甘々だったんじゃないでしょうか。
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