ONE PIECE | ナノ


あんたにだけ(キッド)




ガシャンッ…とガラスがこすれ合う音がした。大宴会とかしている食堂では夜が更け切る前から大宴会が始まっていて、グラス同士の乾杯の合図がまるで楽器のように響いていた。野郎共の野太い声もそれに然りだ。
今は食堂を全員で占領するだけで留まっているが、甲板にでも出て騒ぎ出すのは時間の問題に違いなかった。

「?…おい、シイナは」

キッドがこの騒がし過ぎるほど騒がしい宴会場にシイナの姿が見当たらないと気付いたのは、意外に宴会が始まってすぐの事だった。いつもならこのタイミングでシイナが、野郎共が出来上がる前にやれ一気酒は止めとけやら、やれ自分で部屋に行く気力は残しとけやらと、まるでこいつらの母親の様に牽制しておく事が習慣になっていた。だからいつまで経ってもその声が上がらない事に疑問を覚えたのだ。野郎共はすでに宴会と言う言葉と酒に酔いしれ、いつもの言葉が無い事にも気付いていない。
疑問を何処と無く呟けば、近くにいたキラーが聞き取っていて、ちゃんと返答を返してくれた。

「シイナなら…多分部屋に篭ってる。いつものやつだろ」
「ああ?またか」
「行ってやったらどうだ?仮にもお前はあいつの男だろう。いつも放って置いては可哀想だ」
「…チッ、手のかかる奴だ」
「そう言っていられるのも、その関係の賜物だな」

キッドがいかにも態とらしく言葉を乱暴に吐けば、キラーはマスクの下で忍び笑いを漏らす。キラーの感情の変化が例えマスクの下でも長年の付き合いから分かるキッドは、その笑いを苦々しく受け止めたのだった。

シイナは何か嫌なことがあったり、考え事や思う事があれば、自分の部屋に必ずと言っていいほど籠る癖がある。それ自体には文句をつける気は一切無いつもりだ。
海賊の職業柄ずっと海の上では溜まることだって無い事は無いだろうし、シイナは数少ない女船員だから人一倍思う事だってあるはず。だけれどシイナは強い女だから、何でも一人で解決しようとする。彼女はそれができてしまう。だから、少しでもシイナの抱え持っている物を吐き出して欲しいと思うのは、当然じゃないのだろうか。

そんな事でウジウジするような奴はこの船に要らないと考えておきながら、そういう時は自分を頼って欲しいとキッドは柄にも無い事を、頭の中でモヤモヤとしながら考えているうちに、足をシイナの部屋の前で止めた。いつもならノックも無しに入って行くのだが、今日は何かしら前振りがいるだろう。一瞬だけどうするかと迷ったが、あまりドアの前で躊躇っているのも怪しまれるだろうと、ノックはせずに一声だけかけた。

「…オイ、シイナ。居るんだろ。宴始まってんぞ」
「…私は気にしないでさ、宴に行っておいでよ。私は気分じゃない」
「ざけんな。…何か抱えてんなら何故、おれに言わねえ」

こんな時はシイナが何か抱えて居る時だ。それが自他共々分かっているのでキッドは、あえて直球で切り込む。シイナもその辺りは認知しているようで、吐き捨てるように答えた。

「弱音をあんたに吐くなんて嫌だもの。それに…キッドだって、簡単に縋りついて来る様な女はもう十分でしょ?」
「ハッ、随分男前な台詞だな」
「自分で思うのもなんだけど、私が男だったらキッドよりモテてたと思うわ」
「言ってくれるな」

確かにそうかもしれない…と思ってしまうのは仕方の無い事ではないだろうか。
シイナはこんな男所帯に居るせいか、やけに男らしい一面がある。…けれど、今のシイナから発させた言葉は、きっとシイナの本心ではない。他に何かあるはずだ。
キッドは焦れったいやり取りを好まないため、更に一気に食い込んでゆく。

「確かによがって縋ってくる女はそこら辺の女で十分だな」
「それを彼女の前で言うか…って、言うのがキッドか」
「だがな」
「?」
「そこら辺にいねぇような…自称男前な女がたまに弱音を吐くっつーギャップってのも、おれぁ嫌いじゃねぇなぁ」
「!!」

そう言い切ってやれば、ドアの向こうでは息の飲む気配が感じる。…きっと彼女はドアの向こうで耳を真っ赤にしているに違いない。
男らしい、なんて言っても、シイナのそんな所はやはり女なのだ。
そして彼女の女の一面を目の前で見せつけられた時。自分で情けないと思うほどに胸の奥がギュッと締め付けられる。今も彼女の表情を見逃している事は、とても損しているような気がしてならないのだ。

「おら、さっと中に入れろ。いつまでおれをここに立たせておくつもりだ」
「全く…そんなのがお好みなら、来るのが遅いったら」
「ククッ、違いねぇ」

結局私も、あんたには弱いのよね。そうやって呟くシイナは内からやをらドアを引いた。ドアが開いてすぐにシイナの顔を見たキッドは、あァ、やはりなと言いたげに真っ赤なシイナの耳を見て堪らなくなった。

自分を急かすように体を部屋の中に滑り込ませると自分の腕の中に彼女の持った温もりを掻き抱いたのだった。







*****

最初見た時、うわ、いかにも海賊って感じだと感じたのがキッドでした。
彼は恋愛に関してはプライドとのジレンマが色々と凄そう(笑)



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