ONE PIECE | ナノ


必要なのは目に見える優しさ(ロー)


最近、ローはよく自分の部屋に籠るようになった。別に変わった事ではない。彼の気分次第でそう言う時はあったし、医学と言うものは常に変わって進歩していっている。海賊であっても医者の端くれである彼だって勉学に励んだりするので、だからそう言った意味では心配するほどの事でもなかった。
今回は後者のようだ。

「お疲れ、ロー。はかどってる?」
「…まぁな」

偶々ローが部屋から出てきた所でばったりとシイナと鉢合わせた。彼の顔を窺えば、いつもより目の下の隈がうっすら?と濃い。どうやら昨夜も徹夜したようだ。
いつも船の中でも被っている帽子を外して、寝癖の付いた髪を掻き回して。そんなローの姿がいかに寝不足かを物語っている。だが、そこに欠伸を一つでもすればどんな悪人面でも愛嬌が生まれるもんだから不思議だ。

「…こう言う時改めて思うけど、ローって本当の医者みたいだよね。いっそ白衣着ちゃえば?」
「みたいじゃねぇよ、医者だ」
「海賊らしくないって意味」

白衣に関しては「シイナがナース服でも着りゃ考えてやる」なんぞぬかしてきたので、シイナはその言葉を聞かなかったかのように「あんまり頑張りすぎんなよ」とだけ言っておいた。

「シャチとペンギンもローが根詰めすぎてないかって一応心配してたよ。医者の不養生ってまさにこの事だよね」

私はクスクスと苦笑を漏らしながらローの方へ歩み寄る。

「また濃くなってる」

いつもよりほんの少し黒い目の下を擦って顔を見上げれば、ローは不機嫌そうに眉を寄せた。だけどくすぐったいのか、少し肩を揺らす。

「お前はオレが籠る度そう言うんだな」
「そう?」
「少しは嫌味無しで心配出来ねぇのか?」
「嫌みなんて言ったつもりないけど………」
「自覚ねぇならなお、タチ悪ぃ」
「そう?」

でも確かに、本人にちゃんと体調を伺うようなことは言ったことは無い気がする。心の中で案じる事は数え切れないが、口に出した事は無い。シイナはローに言われてやっとその事に気付いた。
…言って、欲しかったのだろうか。

「じゃあ…って言っちゃ何だけど。これいる?」
「?」
「おにぎり。まだ籠るなら夜食にと思って」

私は手に持っていた、まだ温度を保っている二つのおにぎりを差し出した。元々これはローにあげるつもりで持ってきていたのだ。
ローは思いがけない差し入れに、先程まで眉間に寄せていた皺を伸ばして目を何度も瞬きした。

「…実はお前、いい女だな」
「何よ、付けて足したような言い方。…あ、それとね。私が食べたくてトリュフ作ってみたんだけど。いる?ちゃんとビターのやつ」
「ああ」
「最初はね。頭使ってるから飛びっきり甘いやつをあげようかと思って作ってみたんだけど。流石にローの嫌そうな顔が浮かんでさ」
「見た目だけは上等だな」
「誉め言葉として受け取っておきます」

はい、とトリュフの入った容器を差し出せば伸びてくる手。入れ墨の入った細くて角張った手はもう見慣れたものだが、その手を見る度ドキッと胸が高鳴るのは今でも止まらない。これも惚れた弱味だと言う事は分かっているが、そんな事が本人にバレたらこの減らず口が物凄い角度まで上がるのが目に見えていた。そうするとこの人は何をしでかすか分からなかったので、シイナは必死にその事を自分の心の奥に隠した。
ローの手が摘まんだ一つのトリュフは、ゆっくりと彼の口の中へと消えていく。

「っ!!…甘ぇ」
「え?」

…ローの眉間に寄る皺の深さが凄い。
ローの口から発される言葉にシイナは驚き、慌て容器の中に転がっているトリュフをガン見した。

「まさか…これが飛びっきり甘くしたってやつか?いくらなんでも甘すぎるだろ」
「間違って持ってきたのかな?」

そんなはずないのだがとシイナはローと同じようにトリュフを摘まむ。そもそもビターはチョコスプレー、ミルクチョコレートはココアで仕上げている。間違って持ってきたとも考えにくい。だけどビターが甘いはずもない。疑問は私がトリュフに口を付けた事で、解決した。

「あ、甘っ…これ、ベポ用だ」
「あ?」
「ローに甘くないの作るみたいに、ベポには飛びっきり甘くしたやつ作ってたの」

トッピングの材料もそんなにあるわけではなかったので、ベポ用のチョコレートにもチョコスプレーにしていた。それなのにビターの隣に置いてたりしたのだから、間違って持ってきたのだ。
ベポには毎度、皆より甘めの物を作ってはいるが味見はしていない。だけど彼がこれぐらい甘くした方がより喜んでくれていたのだから、その甘さは美味しい甘さだと思っていたのだが…。

「…あいつ、こんなもん毎回食べてたのか」
「…噛んでたらその内、砂糖がジャリッと言いそう」
「お前が作ったんだろうが」
「ベポはこれくらい甘い方が好きなんだもの」

甘党は甘党でも異常なものは考え物だ。
ローはこんなものばかり食べていたら糖尿病にかかるからと、今後一切ベポには特別甘い物を作るなと釘を刺された。勿論そんなことを言われなくても、私にももう、こんな甘ったるい物作る気はない。

「シイナ、お前もだ」
「え?」
「こんな甘いもん食わせやがって…覚悟は出来てるんだろうな?」
「い、いや。これは間違って…」
「ほう、そうか。お仕置きされたいんだな」

…ヤバイ。
経験上、長年の付き合いの上に築かれた勘が頭の中でひどく警告音を鳴らしている。

「来い」
「ああー…」

疲れているはずなのに、何て力なのだろう。シイナはまるで首の根っこを掴まれるかのようにローの方を引き寄せられ、そして連行される。その姿はさながら、連れていかれる猫だ。だけどシイナは、猫のように抵抗すれば逆に噛まれるのは私自身だと知っているので、それもできない。
シイナはとにかく手荷物の元凶を落とさぬよう、きゅっと胸の中に抱え込んだ。

…それで溶けてしまっても、知るもんか。









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