ONE PIECE | ナノ


吊り橋恋愛理論(キッド)


「てめえ、名は」

目の前に真っ赤な赤が舞う。赤は赤でも沢山の赤があって、くすんだ赤。乾いて茶に近い赤。燃えるほど鮮やかな赤。色んな赤が私の目の中でカチカチと彩っていく。その中で最も目立つ赤は私の目の前に立ち憚った。私はそれの赤を認めた途端に抜けていた腰に力を入れ、地面を蹴って逃げることを算段するが、これが無駄だって事も頭のどこかで分かっていた。

「…………っ!」
「ちっ、逃げんな」

キラー、とあの低い声で名前を一つ呼べば私の目の前に現れる覆面を被った彼。これももうお決まりの事で、シイナは相手の思い通りになる事に対して隠しもせず舌打ちをする。
ーーーーー今日は完全に逃げ切ってやる。
シイナは横に大きく跳ぶと、キラーの真横をお手前の瞬発力で抜ける。キラーも抜かせまいと手を伸ばしてきたが、遅い。彼もそんなに私に興味がないようで、強く止めようともしてはいなかった。

「キラー」
「後は自分でやってくれ。いい加減に毎度毎度、俺を巻き込むな」
「…………ふん」

面白くねえと言うように、彼も私に倣ってか、隠しもせず舌打ちをする。彼の方が音が大きい分、苛立ちも大きいのかもしれない。だとしたら冗談じゃない。

「…………」
「っ…………キャ!?」

彼がこの大海賊時代を彩る世の中で「キャプテンキッド」として名を恐れられるユースタス・キャプテン・キッドが遠くで何かを呟いている気がした。彼は確か能力者だったから、何か能力を使ったのだろうか?デカイ声で痛い技の名を出されるような事がなくてそれは良かったとほっと胸を撫で下ろすがそれも刹那。この状況で能力を使われる対象と言うのは自分しかいないし、だとしたら私の体がキッドの元に引き寄せられているのもそれが原因だろうからこちらとしてはたまったものではない。恐らく両脇の腰にぶら下げているナイフと銃が引き寄せられていると言うことは予想付いたが、まさか愛用の武器を奴に渡すわけにもいかず、結局はキッドの元に引き寄せられてしまう。
ガッツリと体にフィットしているホルダーのせいでもあるのだろう。何があっても落としてはいけないとサイズを少しきつめに絞めた過去の自分が恨めしい。次いでに気の毒に、と言った様子でこちらを見ているキラーの事も、恨めしい。
本当にそう思っているのなら、私をキッドから解放してくれ。

「恨むべし、悪魔の実……」
「てめえが毎度のように逃げるからだろうが。名前を聞いてるだけだっつーのに」
「か、海賊に教えてやる名なんて無い!」
「どもってんぞ」

『海賊は悪いものなんだ、会ってもすぐに逃げるんだよ』
そう母親から教え込まれたんだ。実際に海賊に捕まったら当然の反応だと思う。
シイナは逃げる事もできなくて、でもそんなシイナを見たキッドはただ目を細めた。

「好き放題言ってくれる母親だな。ったく、いい迷惑だ」
「まあ……健全な母親ならそう教え込むのが普通だろうな。確かにこの世界は善良な奴の方が珍しい」
「おれたちゃ悪意があるって自覚があるからいんだよ」
「…………」

胸が高鳴る。ドキドキと、自分の胸の音聞こえてくるほどで、その音がキッドまで聞こえているんじゃないかと気が気でない。それは目の前の先程までの血の海がそうさせているのか、キッドの腕の中に閉じ込められていると言う事がそうさせているのかは分からない。だけど男慣れしていないシイナにとって、男に身を寄せられ耳の横で囁かれると言うのは刺激が強すぎたし、目の前の人の山は私から血の気を引くのには十分だった。…………手が、震える。キッドはその事にもすぐ気付いた。

「何だ?あんなに襲われといて、今更震えてんのか?」
「……別に、見慣れた訳じゃないもの」

シイナは自他共に認める程の、不幸を呼び込む体質らしい。あれやこれやと歩き回っているうちに達の悪い海賊に捕まったりしてしまう。その度に何故かキッド達に出会うのだから不思議だ。
シイナはキッドの言葉に皮肉を交えて返してやろうと思うのに、声が震え冗談を言うどころではなくなった。
何故か悔しい。キッド達が私に会ったときに危害を加えてきた事は一度も無いのだけれど、それでも目の前の残劇を目の辺りにしていると次は自分なんじゃないかという思いが溢れてくる。でもそれをキッドに悟られたくなくて、小さく「離してよ」と言うしかなかった。

「誰が離すかよ。てめえが指図すんな」
「…………っ!」

次の瞬間。シイナのお腹に回っていたキッドの腕の力がグッと増した。それにより更にキッドと密着する肌に面積が増え、当たってるところの温度も上昇する。私の顔にキッドのさらけ出した胸板が当たるもんだから、さっきと違った意味で余計に胸が高鳴った。

「別にてめえを取って食いやしねぇよ」
「あ……」
「……早く名前教えろ。てめえじゃ面倒くせぇんだよ」

背中に回った手が私を落ち着かせようと軽く上下する。だけどそんな行為に慣れていないのか、動く手もどこかぎここちない。

「…………、シイナ」

彼にそんな一面を持っているなんて知らなかったからかもしれない。私の口は勝手に自分の名を途切れ途切れ紡いでいた。きっとこれもキッドの悪魔の実の能力なんだと無理矢理自身を納得させた。

「シイナ、か。俺はキッドだ」
「…………知ってる」

キラーがずっと、そう呼んでいた。そう言えばキッドは嬉しそうに口角が上がり、妖しい笑みを私に向かって投げてきた。自分の胸がこんなにも高鳴っているのを感じるのは、今となっては目の前の恐怖のためかキッドのせいか、分からなくなっていた。





*****

何を書きたかったのか…




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