日暮れ前のポリリズム


「ちょっとオーバ、すぐ戻るって言ったじゃない。まだなの?」
「お、ナマエか。悪いな。今いいとこなんだ」
「もう、ミイラにはならないでねって言ったのに……」

一昔前のポケナビから、あからさまに機械をいじっているであろう二人の声が聞こえている。ドタバタと動き回る音を聞けば、ああもうご飯なんか覚えてないんだろうなということは一目瞭然だ。

はあ、まだポケナビは繋がっているというのにあからさまなため息をついてしまった。私は悪くない、帰って来ない二人が悪いんだ。はあ、もう本当、変わんないなあ。予定をほっぽり出してジム改築に勤しむ二人の声、もっと言うと何かが落ちた音やオーバの叫び声も全部、全然違うはずなのに昔と大差ない。摩訶不思議だ。

そう、シンオウ地方でペアとしても有名な四天王とジムリーダーことオーバとデンジは私の幼馴染だ。いつから一緒かなんて覚えていないが、少なくとも母親繋がりで知り合ったことは忘れない。最初はお互い不干渉でいたものの、いつぞやから「3人トリオ」と呼ばれるほど常に一緒にいるようになった、まあ言わば腐れ縁だ。

旅を始めたのも同じ日だったし、最初の一歩をせーので踏み出したことは今でも記憶に新しい。自分の最初のパートナーとして親から譲り受けたのも皆同じポケモン、イーブイだった。全員揃ってたくさんのジムに挑んで、いつのまにか三者三様の仲間と旅をして各々の道を歩んだ。

特にイーブイの進化は、私たちの道の分岐点でもあったのだと思う。元々機械マニアだったデンジは旅の終わりと共にジムリーダーになって、今は故郷・ナギサシティで改造マニアを余すところなく発揮している。オーバはデンジを追うようにリーグになだれ込んで、本人曰く「あつい きもち」でチャンピオン手前までこぎつけた。しかもそのままの勢いでチャンピオンリーグ・四天王入りまで果たしてしまったのだから大したものだ。一方で私はポケモン達と海の上に漂うことに興味を覚え、223番水道で整備やレスキューなんかをするようになった。

シンオウ地方は決して狭くない。旅の中で知ったのは強さだけではなかった。旅の途中で余計なほどに知識をつけた私は、幼いながらにもう二人と関われはしないだろうと思うこともあったしそれで塞ぎこんだりもした。しかし、熱すぎる男がいたのが原因してか、さてはて、こうして奇妙にもこのトリオは続いているのである。


「ねえ、二人とも本当に聞いてる?」
「ああ」

聞いてない、これは絶対に聞いてない。デンジに四天王昇格の話が持ちかけられた時には、「部屋の改造禁止」というだけで断念したという話を聞いて絶句したものだが、この様子を見てると納得せざるを得ない。



「あと3分でご飯ができるの。準備はこっちでしておくから、それまでに帰ってきてよね」
「おう、任せろ」

終わりの兆しが見えたのか、ようやく聞きたかった一言が飛んできた。この分なら5分と少しで戻ってくるだろう。となれば、こちらも準備という任務を遂行しなければ。

切り忘れたポケナビから、デンジの不穏な声がするまでは。

「あ」
「え、何。ちょっと?」

いきなりプツリと切れたポケナビが、TVが停電を知らせる。咄嗟に窓から街を見ればナギサシティ全体が停電に襲われていることがわかった。一瞬何が原因かと考え始めて、やめる。十中八九あの改造マニアだろう。



やがて、のこのこと帰ってきたデンジが暗いななどと呟くものだから、オーバと、そして何より私が頭を抱えて唸るのも無理はない話である。


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