4.

「どこに証拠が眠ってるかわからんからな。それに…科捜研は野良犬並に鼻が利く上にゴキブリ並にしつこいと聞いたぞ。しかもお前、細いしな。天井抜ける心配がない」

「誰ですか!そんな酷いこと言ったのは!?そして最後のは余計です!」

主任が個人的に言ってると思うにオレは一票。
あと細いの気にしてたのか…

「忘れた。とにかく上がれ。上司の命令だぞ?」

「え?そんな…」

主任…さっきまで弱いものいじめがどうのこうの言ってませんでしたっけ?

「えっと…暗いですよね?」

おずおずと雨宮が尋ねると、その問いを待っていたとばかりに主任は晴れやかに笑った。

「安心しろ。明かりはあるぞ」

そう言って主任は懐から三つのペンライトを出した。

「…何故そんな物があるんですか?」

「別に良いだろう?ほら、好きなの使え」

動揺がまだ残っている雨宮にペンライトを押し付ける主任。
こちらに助けを求めるような視線を送る雨宮。
…目を逸らしたオレの判断は間違ってない。雨宮、オレを怨むなよ。

「えっと…上る場所ありませんし」
「押し入れから上がれるらしいぞ」
「あー…布団とか入ってませんか?」
「退かしてある。行け」
「…………はい」

雨宮の言葉をすべてバッサリと切り捨てニヤリと笑う主任。
雨宮は諦めたように肩を落とし、覚悟を決めたように押し入れを開けた。

「埃が凄いらしいからな。気をつけろよ」

「……マスクありますから」

そう言って雨宮はポケットから使い捨ての紙マスクを取り出し、主任に見せた。
…にしても埃が凄い、か。
ん?ちょっとまてよ。

「おっ、さすがだな」

「…そうですか」

押し入れから雨宮が上って行くのを確認した後、さっき疑問に思った事を主任に尋ねた。

「……質問なんすけどハルハル主任」

「なんだ?」

「雨宮上らせる必要、ホントは無かったんじゃ?」

「…何故そう思う?」

「……埃が凄いって言ったことは誰かが天井見た上でわかる事っすよね?しかも埃の上に足跡とか無かったから調べなかったんですよね?」

「あんどんにしては鋭いな」

マジか。
主任…すっげぇ楽しそーデスネ。
そして雨宮、ご愁傷様。
でもオレじゃなくてよかった。

「あと…ポッジョ知りませんか?」

「……は?誰だそいつ?」

不思議そうに首を傾げた主任。
あ、そうか。オレがつけた仮名言ってなかったからか。

「犬っすよ!白い犬!」

「勝手に名前を付けるな!アレは『シロ』。ここのお孫さんの飼い犬だ」

「案外安直な名前ですね。お孫さんいたんすか」

「…お前絶対に自分の子供の名前を奥さんに付けさせろよ。…名前は『美樹』。12歳。今は犬の散歩に行ってる」

「え?ちょっと最初!どういう意味っすか!?」

「お前のネーミングセンスが壊滅的だと遠回しに言ってやったんだ!」

はっきり言いやがったーーっ!
…確かに昔からペットの名前が個性的とは呼ばれていたけどな!

「ちょっと!酷くないで「…ただいま帰りました…ケホッ」
「うぉっ!?」

いきなり声をかけられかなり驚いた。
恐る恐る背後を見ると…白くなった雨宮がいた。
髪や肩、無駄に分厚い眼鏡にまで白い埃がついている。
現在付けているマスクと相まって正直怖い。今ならホラー映画に出ていても違和感がないだろう。
これだとスーツはもうクリーニングに出さなきゃダメだろうな…

「もう買い替えます…ゲホッ…」

「そ、そうか」

いつもより心なしかテンションの低い声で答えられ、どう声をかけるべきかわからなくなった。

そんな雨宮に容赦せず、満面の笑みで主任が話し掛けた。

「早かったな。何かあったか?」
「ケホッ…何もありませんでしたよ」
「そうか、残念だ」
「そうですか…ゲホッゴホッ…」

地味に咳込む様子と、なんか色々と失ってしまったような反応に少なからず同情する。
雨宮…髪にクモの巣ついてるぞ。

「鬼だ、鬼がいる」
「なんか言ったかあんどん!」
「いえ!何も言ってませんっ!」

小声で言ったつもりが聞こえてしまったらしい。
主任は、思わず敬礼をしたオレを軽く睨みつけ、雨宮に向き直った。
こえぇ…マジビビった…

「手がかりなし、か…」

「ああ…どこの部屋からはわかりませんが誰か喧嘩してるような声は聞こえましたよ…ケホッ」

雨宮がマスクを外しながらぽつりと呟いた。
…そのマスク効果無かったのか?

「お?本当か?」

「詳しくは聞き取れませんでしたが…若い男女だとおもいます」


To be continue...









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