3.

「遅いぞ」

「あ、え?すんません」

「すみません、だ。…とりあえず座れ」

日頃よく見るハルハル主任の表情に少し安心した。
正直に言うとさっきのような晴れやかな笑顔は気味が悪かった。

雨宮と並び主任の向かい側に座ると、雨宮に目を向けた主任が眉をひそめた。

「ん?雨宮、頬どうした?赤いぞ」

「あんどんさんにイジメられました」

「はあ?」

「ちょっ!違う!違います!」

人聞きの悪い事を言うな雨宮!

「あんどん、弱い者いじめは感心しないな」

「ですから違いますってー!」

くっ…主任…絶対わかってて言ってんだろ!

「大体ここはどこで、なんの用事でオレらを呼んだんすか?」

「すか?ですかの間違いだろ」

「…すみません」

敬語、やっぱキライ…。

「まあいい。用件は殺人事件の立件。そしてここは『雅』の本邸だ」

「え?“あの”雅ですか?」

驚いたような雨宮の声。
無理もない。
実のところオレもかなり驚いている。

『日本料亭・雅』外国にも紹介された事があり、とある有名な雑誌では二つ星をとった事もある高級料亭だ。
今のところこの土地にしか無いが、他地域への拡大の予定もあると噂好きな奴が話してたのを聞いた事がある。

「それがなんで殺人「それを今から説明してもらうんですよ」

そう言って主任がにこりと微笑んだと同時に障子が開いた。

「粗茶でございます」

先程の女性とは違い、今度は黒い着物姿の少し年配の上品そうな女性がお茶を運んできた。
若い頃は美人だったろうな。

「気を使わせてしまってすみません」

先程と同様に好青年風の笑顔の主任。…不気味だ。

「いえ、むしろこちらが無理を言ってしまい申し訳ございません」

心底申し訳ない。
お茶を配りながら、そんな口調で話す女性。

「恐れ多いのですが…僕の部下にもう一度お話を聞かせてはいただけませんか?」

僕…だと…?

「もちろんです。いくらでもお話致します」

お茶を配り終わったその女性はまず深々と一礼し名乗った。

「私は真壁由香利ともうします」

由香利さん…か、よし覚えた。

「私は雨宮です」

「え、オレ…自分は安曇です」

雨宮に続きオレも自己紹介する。
途端に頭をお互いに下げ合う不思議空間が生まれた。

「…では真壁さん。お話を伺います」

「はい。主人が…真壁総一郎が先週亡くなりました。病院では病死だと診断されてしまいました。ですが、私は納得してはおりません」

「え?なんでですか?」

そう女性に尋ねると彼女はスッと顔をあげ、きっぱりと言った。

「亡くなる前の日までは元気でした。それに仕込み作業もしていたんです。一月前の健康診断でもどこも悪い所は無かったと主人自身が申していました」

その姿は凜としていて、…この人は心から旦那さんを愛していたのだ。そう思わせる様な姿だった。

◇◇◇

由香利さんからの話を聞いた後、被害者・真壁総一郎が生前使っていたという部屋に通された。

「お邪魔になりますので私はこれで失礼致します」

「ご協力感謝します」

由香利さんが部屋から出ていき、足音が遠ざかる気配がした瞬間。

「安曇!お前まともな敬語使えないのか!?『なんでですか?』だと?」

主任に怒られた。

「小中高通して文系はダメダメっした!」

「駄目でした。だ、」

「すんませんっ!…主任ってもしかしてA型っすか?」

「ですか!だ。…悪いか?」

「いや、以外と堅物だったんで。あんま主任と話してなかったですし」

「………もういい。あんどん、好きに話せ」

ハルハル主任…なんか疲れたように見える。
今のは何が悪かったんだ?

次に、気を取り直したように今まで傍観していた雨宮に向き直った主任は、何かをたくらむような笑みを浮かべ、天井を指差した。

「鑑識だが…天井には上がってないらしいんだ。雨宮、行け」

「は?何故私なんですか!?」

突然話を振られた雨宮は、かなり驚いたようだ。
まあ、いきなり『行け』とか言われたら当然だな。






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