2.

部屋に入ってすぐ目に入ったのは、珍しく空いたデスクと中途半端に閉まったカーテン。
そして、何もいない犬のケージ。

「は?留守…か?」

たしか朝はいたはずだ。
出かけるなんて聞いてないぞ。
頭の中にいくつかの疑問符が浮かんだ。

不意に携帯が鳴った。
画面を見ると“非通知”になっている。
誰だ?

「もしもし安曇で「知ってる。今から言う住所に雨宮と来い」

…主任だった。

「は?何を突然「場所は北区二○三一だ。車は駐車場の4番車種はアリオン。鍵はお前の机の上。早く来い」

言いたいだけ言って電話は切れた。
オレ、番号教えた記憶無いんだが…?
どこで知ったんだ?

まあ、仕方ない。
行くか…

◇◆◇◆◇◆

指定場所に着いて、目を疑った。

「は…?デカッ!」

「…間違いじゃありませんよね?」

長く続く高い塀、丈夫そうな瓦屋根、そして豪奢な門構え。

そこにはとてもじゃないがオレら公務員の給料では買えない純和風の豪邸が建っていた。

「いやでもここのはずだぜ?」

「大体用件は何だったんですか?」

「聞いてない」

「は?」

「聞く前に切られた」

雨宮が呆れたようなオーラを放っている。
…オレのせいなのか?
ついでにさっきからご近所さんから送られる視線が痛い。

「だって今の私達完璧に不審者じゃないですか」

たしかにそうかも知れない。
さっきからオレ達は5分程この豪邸の前をうろうろしている。
しかも俺も雨宮もスーツ姿だ。
屋敷の周りをうろつくスーツ姿の男二人…
うん、十分怪しい。

「…行くぞ」

「あ、待って下さい!」

雨宮を無視し、重たそうな扉の横に設置してあるインターホンを押した。

このインターホン、奥までちゃんと聞こえんのか?

『はい。真壁です』

「うおっ!」

はやっ!

『あの、どちら様ですか?』

慌てて目の前のスピーカーに話かける。

「え…お忙しい所すみません。わたくし警察の者です」

『はぁ』

「あの…」

ああーっ!何て言えばいいんだ!?
もとから敬語はあまり得意じゃないんだ!

『もしかして…晴崎さんの部下の方ですか?』

晴崎さん。ハルハル主任!

「はい!」

『ちょっとお待ちくださいね。今開けますから』

「了解しました!」

ガチャリと受話器が置かれるような音がして会話は途切れた。

緊張した…

「民間人に、了解しました!って…」

やっぱそこ聞くか。
オレもおかしいとは思ったんだ。

「仕方ねぇだろ!こんな事やったこと無ぇんだから!」

口からポロッと出たんだ!

「それにしたって」

「しばらく黙れ!」

オレは雨宮に手を伸ばしておもいっきり頬を引っ張った。

「!?いひゃい!ひゃなひ…」

ちっ、眼鏡が少し邪魔だ。

「その瓶底眼鏡はずせ!」
「ふぁ?ひょっま…」
「腕を掴むな!」
「あのー?」
「へ?」

声の方を見ると和服姿の女性がいた。

「わわっ!失礼しました!」

慌てて雨宮から離れるオレ。

「…痛い」

頬を抑える雨宮。

「あははは…」

苦笑いを浮かべる女性。

この状況恥ずかしいな…

「とりあえず、どうぞお上がり下さい」
「失礼します」
「お邪魔します」

玄関もなかなかの広さだ。

「こちらへ」

「はい」

女性を先頭に板張りの床を無言で歩いていく。
正直さっきの騒動のせいで何を話していいかわからない。
だいたいなんの用事なんだ?

それにしても本当に広い。
女性に付いて歩くうちに庭にたどり着いた。
片隅には桜らしき木が植わっている。来月は見頃だろうな。
本当にどこかの旅館の様だ。

女性が奥の方の一室で立ち止まり、障子を開けた。

「お待たせしました」

そこにはハルハル主任がいた。
畳の和室に正座している姿は妙に様になっている。

「ありがとうございます。わざわざすみません」

そう言って女性に微笑みかけるハルハル主任は…
誰だアンタ!?
そう叫びたくなる位ににこやかな笑みだった。
この一週間人を馬鹿にした笑みは見たがこんな友好的な笑顔は知らん!
雨宮なんて固まってんじゃねぇか!

「えっ…ハルハ、晴崎主任ですか?」

「あたりまえですよ。どうかしたんですか?安曇くん?雨宮くん?」

安曇くん…?
キモい!
なんか鳥肌が…

「お茶を持って参りますね」

「ありがとうございます」

和服の女性が出ていった途端にハルハル主任は友好的な笑みを崩し、いつもの人を馬鹿にした表情に戻った。






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