私と云う存在がこの世に生を受けたのは十数年前。忍びの里や小国を巻き込んだ小競り合いが長引く戦争の最中であった。
「キリもう少しでご飯が出来るから、お皿を出しておいて」
「わかった!」
食器棚の取っ手を引き、背伸びをしてギリギリ届く高さにある平皿を2枚取り出した。それを机に置き箸と湯呑みの用意もする。ジュワーと卵が焼ける音がした。この戦争という時代で卵を食べられ事がどれ程有り難い事なのか私は初めて知った。
「ん!出来上がり」
焼き上がった半熟の目玉焼きと少しのサラダが白い皿に盛り付けられた。これに白いご飯があれば文句無しであるが、貴重な食材だ。私のお腹中に入る事は滅多にない。
「ごめんね。今日はこれだけしか…」
「私お腹空いたよ!早く食べよう!」
にこにこ笑えば彼の表情は少しだけ和らいだ。
今の私に出来るのは何も知らないふりをして笑っていることだけ。邪気の無い純粋な笑顔は出来ないけれど、せめて貴方の眼には屈託なく笑う私が映っていればいいと思う。
ねえミナトさん、何も心配はいらないんです。私は私なりに器用に生き行けますから。