鬱蒼と覆い茂る樹木たち。
不気味な咆哮が響く。
辺りは暗くよく見えないが、湿った空気と急な斜面が確認出来た。たぶん山の中だろうと推測する。
ゆっくりと体を起こす。
手足が動く事を確認しつつ、付いていた泥をはたいた。
「ここ、どこだろ…」
空を見上げても深い緑が隠していて何も見えなかった。
肌寒く身震いをする。じっとしていてもどうしようもないし、此処は何か嫌な感じがする…、取り敢えず人がいる場所へ。
「動くな」
背後から声が聞こえたと同時に、首もとをヒヤリとした感覚。気温が一・二℃下がった気がした。
「何処の里の者だ」
サッと血の気が引き、冷や汗が吹き出してきた。その割には冷静な自分がいて。
何処の里って…里?
聞き慣れてはいないが、確かに覚えのある単語。バラバラだったパズルが組み立てられてゆくような感覚で脳内にはじき出した答えは、起こり得るはずのない事象。けれども首元に感じる冷たさは、事実以外の何ものでもない。
「あ、」
ゆっくりと目線を後ろに持っていけば、視界の端に映る黒衣。動物を模した白き仮面。首もとに当てられたのは、見慣れない、けれど知っている“クナイ”。
「―暗部」
全てのピースがカチリとはまり、それは真実となる。