>>ネバーランドへの片道切符


「いいか、お前は往復切符だ!きっとそうだ!そうに違いない!…違い、ないんだよ…。そうでしょう?そうだと言って…」


…ぶつぶつ言っていたのはこの際気にしない方向でお願いします。



混乱状態の頭で何も考える事が出来るはずもなく、私は意外と素直に東京行きの新幹線に乗り込む。何かの冗談かと思っていた私には片道しかない切符の存在が恨めしい。





禁煙車両の左側最前列の窓側の席。乗り物酔いが特別酷い訳ではないが、偶に悪酔いをする。本当に稀に。そこに煙草の臭いがすれば確実にKOされる。その配慮がされた席だろう。人見知りもする方だし、目の前に壁があって何故だか安心する。…これ軽く対人恐怖症?今度病院に行ってみよう…。

ぼーっとどうでもいいことを考えていると隣に人の気配がした。ちっ、相席かよ。
外はもう夜の帳が落ちている。窓は車両内の明かりを反射して中の風景を写し出し、ほとんど外は見えない。隣の席の人がちらりと視界に入り、ほうと嘆息する。眉目秀麗とはこうゆう人の事を云うんだろうか。年齢は私より少し上か同年代の男性。年下という事は無いと思う。女性には困らなそうな顔だなぁ。個性的な服装をしているが、まぁ似合ってるんじゃないかな?センスが良いのか、綺麗な顔のお陰からなのか分からないけど。…オシャレって難しいね。
……遊んでそう…、とか思ってしまうのはやはり、私が多少ひねくれているからなのか?



…なんでこんな事つらつらと考えているんだろう私。だんだんと腹が立ってきた。大体なんで私の知らぬ間に引っ越しが決まっていたんだ!一言くらい言うだろ普通は!しかも東京ときたもんだ。東京の何処に住むか知らないけど、私達、関西に住んでたんですけど。急にバイト先で東京行きを告げられた私の気持ちを考えろ!呆けてたら店長に、アホっぽい顔してるとまで言われたんだよ。店長ひどい!

ふつふつと怒りが沸き起こるけれども、やはり戸惑いが己の大半を占めているようだ。少し不安になる。


そんな時、ふっ窓越しに隣席の人と目が合い、にこりと微笑まれてしまった。とっさに目を逸らし俯く。否、目が合ったと思ったのはわたしだけかもしれない。窓の外に誰か親しい人が居て、その人に対して笑ったのかもしれない。とにかく私の勘違いだと思うけれど、顔が良いだけに頬が熱くなった。赤くなった所を見られていなければいいけど。
それに、その微笑みに何か少し…薄ら寒いものを感じてしまった自分がいた。



頬の熱が冷めた頃。窓際の肘掛けに肘を付き、手の甲に顎を乗せる。酔いそうな時は寝るに限る。起きていたとしても、今の私の手元には何か暇を潰せる物もなく、退屈な時間を過ごすだけだろうし。





完全に寝る体制に入った私の横で男はほくそ笑んだ。
『私』と『彼』はこの広い世界の小さな街でまた出会う事になる。
そうそれも…近い内に。




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