>>見切り発車オーライ


帰り仕度をしている時、耳に馴染んだメロディーが携帯から鳴る。もう2年程は使っている、母からの着信を知らせるものだ。
メールの内容は「住所移しました(はーと)」のこと…。

は?私、何も聞かされてないんですけど!?
今朝は何時もとなんら変わりなかったはず。珍しく今日のバイトは朝一だったので、家族に行ってきますと言って家を出た。はずなんだけど…。え、住所移すって事は引っ越しって事だよね?いつの間に…。否、私何も片付けしてないよ!?私の荷物どうしたんだよ!

携帯を無言で睨むように見ていれば、右肩を軽く3回叩かれた。あ、嫌な予感。




「渡部さん、今まで長い間本当に助かったよ有難うね。引っ越し先でも頑張るんだよ」


言葉なんて出なかった。
カレンダーを見る。3と書かれた数字が大きく主張している。あははは!店長お茶目なんだから!エイプリールフールにはまだ少し早いですよ。
それにしてもこれはあれだろうか?よくあるリストラの風景、もう君は明日から来なくていいからね…とか。ああダメだ、混乱してる。

今日までの分の給与と、それと同時に渡された白い封筒には、よく見慣れた癖のある母の字で千鶴へなんて。中には『東京行き』の新幹線の片道切符が入っていて…。
くらりと眩暈がした。


この一通のメールは、これからの私の日常が非日常に変わる事を知らせる不幸のメールだったのだ。そんな事、今の私には到底理解する事など出来ないのだけど。



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