「んもうっ、やになっちゃう!」

 かごめは梳かしていたブラシを放ると、ふわふわと癖づいた毛先を摘んで睨み見た。

 「どうしたんだよ」
 
 「もう髪の毛が全然まとまってくれないの」

 昨日は久方ぶりに実家へ帰り、心地のいい湯船に浸かってしっかり手入れをしたはずの髪は、ひと晩明けてみればものの見事に癖づいていた。
 それもこれも、だらだらと降り続く雨のせいだ。
 これでは少しいいシャンプーを使ったって、しっかりトリートメントをしたって、早起きしてアイロンをかけたって仕方ないではないか。
 かごめはもう諦めたように深々としたため息を零すと、目の前で豊かにたなびく銀糸を物欲しそうに見つめた。

 「いいなぁ、犬夜叉は。なにもしてないのにそんなに綺麗でさらさらで」

 『ずるいわ』と零れた声がまるで子どものようで犬夜叉は思わず苦笑する。

 「そうかぁ?」

 「そうよ」

 膨れた頬も相まって、ますます幼く見えてくる。
 犬夜叉はそれをつついてみたい気持ちを抑えながら、先ほどまで丁寧に梳っていた黒髪に手を伸ばした。

 「おれはいいと思うぞ。お前の髪」

 ふわふわしていてやわっこくて。
 おまけに甘くいい匂いがする。
 丸っこい毛先を指に絡めながら犬夜叉が緩めた目尻でそう言うと、かごめはぽっと頬を染めて俯いた。

 「そう……?」

 「おう」
 
 「……そっか」

 そんな愛おしそうにされてしまっては嫌いになどなれるはずもなく。
 かごめは放ったブラシを手に取ると、今度は頬を染め嬉しそうに梳かし始めた。
 無意識に緩んだ目尻が甘さを増す。
 絡めた指から零れた髪がふわりとやさしく香った。



   petal









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