「んぅ、」

 そっと合わせた唇が、一度離れて結ばれる。
 絡んだ吐息を潰すように押しつけられて、思わず端から声が漏れ出た。
 阻む間もなく割り込む舌が、今度はやさしく歯列を辿りぐるりと粘膜を撫でていく。
 時折唇を食みながらやんわりと牙を立てるそれが、犬夜叉の癖だと気づいたのは最近だ。
 それと最後にぺろりと唇を舐めることも。
 (なんだか犬っぽいのよね)
 どこか動物みを感じる仕草にそんなことをふと思っていると、伏せていた目蓋が薄く開きその奥で黄金色の眼が鈍く光った。
 視線を絡めとられて『あ、』と気づいた瞬間には、唇をなぞっていた舌がぬるりと這ってかごめのそれを攫った。
 絡みつき執拗に追いかけ吸いつくと、鼻にかかった吐息はあまく熱くなっていく。
 気持ちいいのだけれども小さな咥内では逃げる場所もない。
 かごめが苦しさに首を振り迫り来る身体を押し返せども、がしりと抑え込まれてはどうしようもなかった。

 「ぅ、んんっ、ふ」

 最後に唇の端に少し深く牙を立てられて思わず震える。
 とけた目蓋を重たげに上げると、鋭い眼光に射抜かれた。

 「ぁ……」

 「集中しろ」

 低い声に耳がとろけて下腹が疼く。
 答える間もなくまた塞がれて、長い舌を迎え入れながら、かごめは項に腕を絡めた。




  愛咬








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