金の眼を半分ほどに細めながら、嫉視する先では母娘のなんとも穏やかな姿。
犬夜叉は思い切り口をへの字ひん曲げて、じとりとした視線を送り続ける。
視線の先にある愛しい妻の膝の上は、かつては自分のものだった。
よく、柔らかな腿に頭を乗せて、薄い腹に鼻先を押し当て息を吸えば、大好きな匂いがつま先まで染み入って、幸せに胸が解れたものだ。
それがいつの頃からだっただろうか。
かごめの膝が自分ひとりのものでなくなったのは。
今、あそこで寝転ぶ我が子も勿論可愛い。当たり前だ。
目に入れても痛くない、という言葉に頷くほどに。
可愛くて、愛しくて、大切で――――。
ただ、近頃は犬夜叉と張り合うようにかごめを取り合うのだ。
さすがの犬夜叉も娘に大人気ないことなどできるはずもないし、ムキになればかごめに諌められることもあり、すごすごと耳を垂らしてぶすくれることも少なくない。
そういったことが続いたからだろうか。
今、あの膝を堪能している娘に嫉妬を抱いてしまうなど。
父となり多少の余裕が出たと思ったのはどうやら勘違いだったようだ。
まだまだこんなにも、かごめのことを独り占めしたい。
あの膝に頭を乗せて、髪を梳いてもらいたい。
優しい声で名を呼んで、花が咲くように微笑んでほしい。
そうして少しばかり、いい夢を見させてほしい。
犬夜叉が思わず深々とため息すると、かごめが彼にしか聞こえないくらいに小さく名を呼んだ。

「犬夜叉」

嫉視はそのままにちらりと見遣ると、かごめがにこにこと微笑みながら手招きしている。
そして空いた片膝をぽんぽん、と叩いた。
まるで、むずかる子をあやしているようだ。
犬夜叉は眉根を顰め、真一文字に唇を結びながら、少しだけ逡巡し、結局愛しい膝元へ頭を寄せた。
すぅ、と息を吸えば、かごめの匂いで身体の中がいっぱいになる。

「犬夜叉」

呼ばれた名は優しく、見上げた笑顔は温かな木漏れ日のように輝いていた。
思わず伸ばした手が、かごめの頭を引き寄せる。
そっと触れ合わせた唇は柔くて甘い。
音もなく離れていくそれに寂しさを感じながらも、穏やかに髪を梳く感覚が気持ちよくて、つい目蓋が重たくなっていく。
すぐ近くでは零れる小さな寝息や、時折むずがる愛らしい声が聞こえる。
穏やかな昼下がり。
柔らかく風は吹き、緑が揺れる。
(あぁ……幸せだな……)
犬夜叉はかごめの手に指を絡めると、頬を擦り寄せた。



   


















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