「あ、あのね……」

名前を呼んだきり、口をもごつかせるかごめに、犬夜叉は首をかしげて眉根をひそめた。
不機嫌な眼は、先へ進もうとする動きを止められたからに他ならない。

「なんだよ、はっきり言え」

黙って続きを待ってはいたものの、いつまでも堪えられるはずもない。
阻まれた手で、ついにかごめの胸をやわやわ揉むと、慌てた声で制された。

「あ、ね、待って」

思わず零れた声にいくらか機嫌をよくして、ついでに首筋に吸い付き舌を這わせ、肌を味わう。
執拗に舐めるのは痕を残せない代わりだ。
本当はそこかしこに、花を咲かせていきたいのに、かごめは決して首を縦には振らない。
以前、勢いあまってつけた後で、地面に埋まるほどの言霊をくらった。
もうあんな目には遭いたくはないが、反面、あれで済むなら安いものか、などと思うこともある。
そんなことを考えつつ、犬夜叉は痕がつかない程度にちゅうちゅうと肌を吸い続ける。
その可愛らしく鳴る音に流されそうになりながらも、かごめは犬夜叉の胸板をぐっと押し返した。

「あのねっ……あの、これ、つけてほしいの……」

ひと握りの理性で身を離した犬夜叉に、かごめはサイドランプの下の引き出しから取り出したものを渡した。

「なんだ、これ?」

「えっと、あの……コンドームっていうの……」

「こんどーむ?」

摘みあげた小さな四角い袋をまじまじと見ながら、かごめの言葉を繰り返した。
少し濃いピンク色の袋は透けていて、何やら安っぽい厭らしさが漂う。
その真ん中にある輪になった柔らかいものを、犬夜叉は物珍しそうに触りながら、再び首を傾げた。

「で、これなんなんだ?」

「ひ、避妊具よっ、」

かごめが恥じらいを込めて言うと、目の前の白い耳は頭につきそうなほどに、へたりと垂れた。
自分はかごめを、かごめは自分を想っているはずなのに、なぜ避妊などという言葉が出てくるのか。

「かごめは、おれとするのが嫌か……?」

「犬夜叉、違うのっ。そうじゃないの」

五百年前の、犬夜叉たちの生きる時代であれば、想い合う者同士、一緒になるのであれば、そんなことは考えないであろう。
尚且つかごめの歳であれば立派な大人で、子を成してもおかしくはない。
けれども、現代ではまだ中学三年生。
青春を謳歌するよりも、学業に専念しなければならない大切な時期。
しかもこの旅が、いつまで続くかも分からない。
かごめが犬夜叉のことをどれだけ想っていたとしても、それは変わることのない事実だった。
それをぽつぽつと説明すると、犬夜叉は悲しげな眉を持ち上げて、かごめを抱きしめた。
そしてひとつ息をつくと『わかった』と頷いた。

「で、これ、どうやって使うんだ?」

「へ?」

話もまとまり、いざ続きを、と挑もうとした矢先。
使い方など知るはずもない犬夜叉が、当然の疑問を口にした。

「だから、その、被せて……」

かごめは黒い瞳をうろうろとさ迷わせて、コレをドコになどとは言えないながらも、尻すぼみになる声でそう説明する。
ナニに被せるかなど、犬夜叉だって説明されずとも分かっている。
しかし手に持ったそれを見つめると、犬夜叉は思いついたようにかごめへと渡した。

「お前がつけてくれよ」

「はっ!?」

「だってそうだろ。おれじゃ使い方わかんねぇしよ」

もっともらしい理由をつけながらも、金の眼の奥は愉しげに笑う。

「え、でも」

「それとも止めにするか?つけなきゃできねぇんじゃ仕方ねぇよなぁ」

犬夜叉はふっくらとした膨らみに手を置きつつ、もう片方の手を腿の内側に割るようにして滑らせた。
白くて柔い、すべすべとした感触を楽しむように撫でながら、震える肌に眦を垂らす。
恥じらい狼狽える姿がたまらないと欲がもたげる。
羞恥は振り切れるほどにあるのに、止めるとは言えないだなんてどこまでも厭らしくて可愛らしい。
犬夜叉が胸の色づきをくにくにと遊ぶと、撫でた内腿がぴくぴくと震えた。

「どうする?」

「……最っ低……」

膨れっ面のかごめが頷くのを、犬夜叉は細めた目で見つめた。



   薄皮のたり














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