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2012/05/20
それならば喜んで:追記

両手をとられ、導かれた先はよく知る白い頬の上だった。

「やっぱり」
「うん?」

予期せず頬を包むことになった手に相手の肌のあたたかさがにじみ始める。
互いの熱がとけだしたようになじみ、次第に彼女と自分の体温の境界線が曖昧になっていく。

「室井さんの手やっぱり冷たい。冬はあったかいのに。どうなっているの?」

どうなっているのと問われても困ってしまうが、尋ねた本人も僕自身に答えを求めてはいないようだった。
不公平よねと不満を愚痴るような、それに近い気がする。

彼女が言うには、僕たちは真逆なのだという。
彼女の手は夏にはその気候に合わせるように熱くなるし、冬には冷たくなる。
けれど僕はその逆だということを最近になって気が付いたらしい。
自分では何一つ自覚していなかっただけに、いまいちそうなのだという気がしないが、彼女が言うのならそうなのだろう。

言われてみれば触れた時の彼女の頬は熱く、両手を支えてくれているその手にしても自分とは温度に差があるように思う。
さらに季節を遡って思い返してみれば、冬の彼女の手をやけに冷たく感じた気がする。
冬とは得てして冷えるものだから冷えた手に触れることにはそれほど驚きはしなかったけれど、そうか、あれは自分の手に熱が宿っていることが多かったから特にそう感じたのかもしれない。
うらやましいと呟く彼女に眉を下げた。

「私冷え性なんだー…冬なんて氷みたいだってみんなに嫌われる。私も冷たいのは嫌だけど」

いじけた様子で打ち明けるその姿が微笑ましく見え、じゃあと目尻を緩めた。

「冬はあたためるよ」

途端に瞬いた。いじけていたことなど忘れたように。
そんな彼女がますます微笑ましくなり、今度は頬を緩める。
火照りだした頬の熱さが愛しかった。

「物好き」

目を伏せて視線を横へ流す、照れた時の癖だった。

「若御院の手冷たいですねーって嫌われちゃうかも」
「いいんだ」

かまわない。
好きな人の手をあたためられることはとても幸福なことに違いないのだから。

それをできるのが自分ひとりだけというのなら、尚更。



(君と、)

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