祥吾が最近荒れているらしい。
らしい、というのはケータイに電話しても出ないし、メールしても返事がこないから、実際ホントに荒れてるかどうかわからないのだ。
ここ一週間一度も学校に来ていないっぽい。
確か、バスケ部だったよね。バスケ部に祥吾と仲良いヤツいるかも。
そう考えた私は、うちのクラスで最近バスケ部に入ったと噂されてる人物ーー黄瀬に話しかけることにした。
「ねぇ、黄瀬。ちょっとさー、話あるんだけど」
「えっ、苗字さんがッスか?いいけど、場所変える?」
「別にここでもいいよー」
「うーんと、俺が場所変えたいんスけど」
「オッケー」
私が話しかけると、黄瀬は驚きながらもどうやら話に付き合ってくれるらしい。
これ、もしかしたら告白だと勘違いされてるんじゃないの。
わざわざ場所変える必要ないと思うし。
そう思いながらもめんどくさいし訂正はしなかった。
黄瀬が席から立ち上がって教室を出ようとしたので後を追いかける。
祥吾は歩幅を合わせてくれないけど、黄瀬はさすがモデル、というかモテモテだからだろうか。私のの歩調に合わせてくれていた。
「ここなら多分人来ないッスね」
たどり着いたのは最上階、屋上へ続く扉の前。
鍵がかかっているから外には出れないけど、この扉の前は結構穴場のサボりスポットだ。
私は早速話を切り出すことにした。
「灰崎祥吾って知ってる?」
「あー……うん。知ってる。苗字さんが廊下で大告白したっていうのも噂で聞いたことあるッス」
「あはは、噂になってるんだ」
「で、そんな苗字さんが俺に話って一体なんなんスか?」
「黄瀬って祥吾と同じ部活だよね?」
「そうだよ」
「最近、祥吾部活出てる?」
黄瀬は顔を一瞬顰め、またいつも通りの表情に戻った。
「いや、ショーゴ君は……部活辞めちゃったらしいッス」
「えっ」
「俺も詳しくは知らないんスけど」
「じゃあ、部活で祥吾と仲良かった人教えて」
「ウチのバスケ部仲良しこよしでやってたわけじゃないんで、ショーゴ君に限らず部員同士仲良いとかあんまないんスよねぇ」
そういう言い方をした黄瀬が、気を遣ってくれてるのは充分わかった。
祥吾はフレンドリーな部分があるとはいっても、万人受けする性格じゃない。仲良いヤツがいなくても、おかしくない。
チャイムが鳴ったけど私は質問を止めなかった。
「じゃあさ、事情知ってるヤツ誰か心当たりない?」
荒れて部活を辞めたのか、それとも部活を辞めて荒れたのかはわからないけど、聞いておいて損はないと思う。
黄瀬はそれなら、と教えてくれた。
「赤司っちか緑間っちなら知ってるかもしれないッス。絶対にとは言えないんだけど」
「赤司……あっ、そいつならわかるかもー。ありがと」
赤司って多分、一組のモテてるヤツだったと思う。
私がお礼を言うと、黄瀬は笑顔で首を横に振った。
「いえいえ。話って、これだけッスか?」
「告白だと思った?なんかごめん」
「いや、最初はなんで噂の苗字さんが!?って思ったんスけど。やっぱショーゴ君が好きなの?」
「うん、もう何回もフラれてるけど」
「こう言っちゃなんだけど、ショーゴ君のどこがいいの?」
「わかんない。けど例え祥吾が大悪党になってもデブっても、好きだと思うよ」
「性格でも見た目でもないってことッスか?」
「うーん、なんか、存在自体が好き?なのかも」
「へぇー、凄いッスね。壮大というか、上手く言えないけど」
「付き合ってもらっちゃってまじごめんね。もう授業始まっちゃってるけど、黄瀬戻る?」
「苗字さんは」
「サボるに決まってんじゃん!今戻ったらセンコーに説教されるし」
「じゃあ俺も一緒にいいッスか?」
「もちろんオッケー」
私と黄瀬は床に座り、次の授業まで喋ることにした。
「苗字さん、女の子があぐらかいちゃダメッスよ!」
「えー、いいじゃん。てか、呼び捨てでいいよ。私もフツーに呼び捨てにしてるし」
「俺女の子呼び捨てしたことないんだよね」
「えっうそ!?まじ!?」
黄瀬の爆弾発言で暫く盛り上がっていると、声が廊下に漏れていたのかセンコーに連行されて二人して説教される羽目になった。