仕事を終えアパートの前までたどり着くと、自分の部屋のドアの前にしゃがみこむ人影があった。
誰だかなんて、一目見ればすぐにわかる。
ヒールの音が鳴り響かないように、慎重に歩き近付き声をかけた。

「祥吾、なにしてんの?」

「お前、おせーよふざけんな」

しゃがんだまま、顔を上げて私を見つめる瞳は力強い。
約束なんてしていなかったし、睨まれる筋合いなんてないんだけど。っていうか久しぶりくらい言ってくれてもいいんじゃないの。
祥吾はダルそうに立ち上がり、早く鍵を開けろと急かしてきた。

「ムッカつくー」

「いいから早くしろよ。さみぃだろーが」

バッグからキーケースを取り出し、鍵穴に差し込んでいる最中も祥吾は悪態混じりに急かしてくる。
施錠解除した瞬間、祥吾は私を押し退けて我が物顔でズカズカと部屋の中へと入っていった。
本当、なんなのマジで。ため息しか出てこない。
白い息を吐き出しながら、鍵を抜いて自分も部屋の中へと入った。

部屋の電気をつけると、祥吾はコタツに潜りこんでいた。
電気もつけないで真っ先にコタツの電源入れたのかな。
デカい図体してるし、多分コタツの中にある体は窮屈な体勢になってると思う。ウケる。

「お前どこ行ってたの?彼氏んトコかぁ?」

「……仕事だったんだけど」

「ふーん、あっそ」

祥吾の、興味なんてありません的な態度は今に始まったことじゃない。けど、お疲れ様くらい言ってくれたっていいよね。やっぱムカつくー。

「祥吾は?いつからウチの前いたの?」

「あー、多分1時間?とか2時間前くらいじゃね」

「はぁ!?バカなの!?」

「うるせぇよバカにバカとか言われたくねぇわ」

「そういうことじゃなくてさー」

「あー。お前に会いたかったんだからしょうがねーだろーが」

祥吾が当たり前のようにそんな事を言うから、反応が遅れた。

「何?照れてんの?どんだけオレのこと好きなんだよ。ホントかわいー女だな、お前」

自意識過剰すぎ、なんて言えなかった。
ティーンエイジャーを抜け出した今も、私はどうしようもなく祥吾が好きらしい。いつまでも鎖に繋がれたまま。

「つーか、お前も待ち伏せしてたことあっただろ」

「そーだっけ」

本当は、覚えてる。祥吾に関する出来事は、なんでも鮮明に思い出せる。だけど忘れたふりをした。まさか祥吾が覚えてるとは思わなかった。嬉しさが顔に出ていないだろうかという心配はいらなかったらしい。
祥吾は「忘れてんのかよヒデェ」なんて言ったあとらすぐに話題を変えた。

「早くヤりてぇからとりあえず風呂沸かしてこいよ。寒くて動けねぇ」

祥吾がただヤりたくて私に会いたがってただけだとしても、それでも他でもない私を選んで会いに来てくれた。寒い中長時間部屋の前で待っていてくれた事実だけで幸せなのだ。
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