明け方、始発もまだまだな時間の新宿は、いつもより静かだった。
昨晩急に降り出し、いまだ止んでいない強い雨のせいだろうか。
沈んだテンションをあげるために飲みに来たはずなのに、雨のせいで余計に沈んだ。傘は持っていない。

そうだ、あの曲の歌詞みたいに、雨に打たれて感傷にでも浸ってみようか。
酔っ払うとくだらない思いつきしかしない。
私は、そのまま街中を歩き出した。


***



かなり酔いが回っているからか、結構な時間歩いているのに疲れは感じない。真冬なのに寒さも感じない。
びしょ濡れになりながらこうしているのは、まるで何かの物語の登場人物になったみたいで少し楽しい。


「何をしているの?」


内心鼻歌を歌っていると、声をかけられた。
青空が直接話しかけてきたような、そんな声。アメ降ってんのにね。
振り向くと、そこには黒い傘をさした眉目秀麗な男が立っていた。

「ずっとそうやって歩いているね」

「ずっと?ずっと私のこと見てたの〜?私に一目惚れでもした?」

多分雨に打たれて化粧なんて落ちて、並の素顔が覗いているだろう。それなのにこんな自意識過剰なこと言ったのは、酔っ払っているからだ。
男は私の言葉に笑うだけで、返事はなかった。

「寒くないの?」

「んー、わかんない」

私の言葉にまた笑みを浮かべた男は傘を地面に落とし、私を抱きしめた。

「すごい冷たい。西口の方に、俺の家があるんだ。シャワー貸すけど、来る?」

こんな下心見え見えな誘いに頷いた。イケメンだったから。
雨に打たれてみたんだから、たまにはドラマチックな出会いでもして恋に落ちるとか起こればよかったのに。
現実は隙と下心と顔面偏差値で物事は進む。


男は傘を放置し私の手を取って、同じように雨に打たれながら歩き始めた。

前言撤回。少しはドラマチックかもしれない。
もうなんでテンション落ちていたかなんて忘れ去っていた。
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テーマ「人外ファンタジー」
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