深夜、仕事が終わり繁華街の外れにあるボロいマンションを目指して歩く。
パラパラと降る雪は、仕事前よりも弱くなっていた。
地面に積もる雪を見ても、テンションなんて上がらない。雪は嫌いだ。
多くの人に踏みしめられた繁華街の雪は、汚れていた。
ざくり、ざくり。滑らないようにゆっくりとヒールを雪に刺していく。
長靴でも履きたかったけどそんな物持っていないし、もし持っていても服には合わないと履かなかっただろう。
まだ店を出て10メートルも進んでいない。転ばないようにと変に力んでいたのかすでに足は震え疲れを訴えていた。
足元を見て慎重に歩いていると、横から声をかけられた。
「あ、静雄」
「よお」
声のした方へ視線をやると、静雄は煙草を挟んだ片手を上げて挨拶してきた。
雪が降っているにも関わらず、いつものバーテン服姿で思わず顔を顰める。
「何その格好。寒そー」
「お前も充分薄着だろ」
ミニワンピにコートを羽織った私も、他から見れば薄着かもしれないけど、静雄よりマシだ。
静雄は煙草を地面に落とし踏みつける。雪と吸い殻がグチャグチャに混ざり合った。
「お前転びそうだよな。ほら、家まで送る」
「ありがと」
差し出された手を握ると、静雄はゆっくりと歩き出した。
「でも私転ばないからね」
「ぜってー転ぶだろ」
静雄が呆れた顔でこちらを見てきたから、そっぽ向いてやった。
まだ雪は降っている。
雪は嫌いだ。
でも、好きな人と手を繋いで歩けるのなら、年に一回くらいなら降ってもいいかもしれない。