いい加減部屋を探さないとヤバイ。
ここ最近はトモダチの家に居候してるけど、お金払ってるとはいえさすがにお世話になりすぎな気がする。男連れ込みたいだろうに。
ということで私は部屋を探すことにした。
居候前はマンスリーマンションに住んでいたけど、受付のヤツが高確率で地雷だからもうイヤ。普通の契約(?)で住むアパートとかマンションがいい。
とは言っても私みたいなデリ嬢――給料明細のない人間は契約できない。
金はあるのにできない。なんて理不尽なの。
お金でどうにかできないこともあるんだと悟ったよね。

「もしもしー?高尾ちゃん?」

そんな現状を打破すべく、仲のいいお世話になっているスカウトに電話することにした。

「あれー?名前ちゃん?どーしたの?待機所でヒスってクビになったから新しいとこ紹介してとか?ウケんだけど!」

「違うから!あのさー部屋契約したいからアリバイ会社とかの給与明細だしてほしーんだけど」

ちなみに働いてる店に聞いたらダミー会社ないって言われた。求人のとこには書いてあんのに。この業種の求人に書いてあることは80%が嘘である。最低保障?個室待機?講習なし?なにそれ知らなーいってすっとぼける店がほとんどだ。

「じゃーあとで本名とか必要な情報メールで送ってー。てかこれから部屋探すの?手伝ってあげよっか?」

「了解。え、まじで!ぜひともお願いしたいんだけど」

「じゃー明日の昼12時とかどう?」

高尾ちゃんの声色はとても楽しそうだ。店紹介するわけでもないし金になんないのによくやるよね。スカウトの人間は何気努力してる人が多い。

「昼…昼とか起きれるかなー」

「いい不動産屋知ってるんだけど、遅い時間やってなないんだよなー」

朝早くにわりぃね。そう謝ってくれた高尾ちゃんのためにも早起きしようと誓った。たぶんむりだけど。



目覚ましのセットした時間は10時半。そんで目が覚めてケータイ見ると12時。これアウトなヤツや。
私は寝ぼけながらケータイで高尾ちゃんに電話をかけ始めた。
数秒メロディーコールが鳴ったあと、ブチッと電話に出るような音が聞こえたから声を絞りだす。

「もしも〜し、高尾ちゃん、ごめん。今起きた……」

「名前ちゃん歪みねー!こうなると思ってたからダイジョーブ、俺今優雅にスタバでコーヒータイム」

「まじごめんねええええ、とりあえず歯磨いて顔洗って寝癖直したらすっぴんでスタバまでマッハで行くから!」

「別に急がなくても平気だぜ?」

「あんがとーでも急いで行くね、じゃね!」

電話を切りながら思ったのは、高尾ちゃんは神だってこと。
まじいいヤツすぎて惚れそー!惚れないけど!
私は急いで支度してローターやら酒の瓶が転がってる足の踏み場のないきったない部屋を出た。
ちなみにローターは仕事のオプションで使うやつだから断じてセックスする相手がいないとかじゃない。デリ嬢の部屋には高確率でオプションで使う変なものが転がってる、私の周りの人間しか知らんけど。


* * *



電車に3分くらい乗ってスタバに向かうと、テラス席で高尾ちゃんはケータイ弄ってた。そんで灰皿は山盛りになってた。本当まじ申し訳ない。

「高尾ちゃんお待たせ!遅れてごめんね」

今日は私用に付き合ってもらうのに遅れるとかマジないよね。めっちゃ謝ると高尾ちゃんは笑い出した。

「名前ちゃん仕事とオフ違いすぎ!」

「仕事のときはまじ別の人間になってるから」

別の人間にならなきゃやってらんない。源氏名使ってるときは別人格。
ユンケルちゃんとキューピーコーワゴールドちゃん飲んで入れ替わるん。

「高尾ちゃんだって仕事じゃないときはそんなテンション高くないっしょー?」

「俺?俺いっつもこのテンションだぜー」

それを聞いてうわー疲れそー、周りが。なんて思ってたら顔に出てたのかほっぺ抓られた。顔歪んだら商品価値落ちるんだけど!その言葉は待たせちゃったから飲み込んだ。

「あ、急いできたから疲れたっしょ?何飲む?買ってくるぜー」

「ありがとー、私アイスカフェモカがいいー」

スカウトの人っていつもご飯や飲み代から些細なものまで奢ってくれるけど女の子紹介して店からいくらもらってんだろー。どのスカウトも教えてくれないから私の中での永遠のナゾになりそう。私と高尾ちゃんの仲なんだからそろそろ教えてくれてもいいと思う。



* * *



不動産にやってきて早二時間。なかなか気に入る物件がない。

「えートイレとお風呂は絶対別がいい!あとフローリングとエアコンも絶対!」

「この子可愛いっしょ?いいとこ紹介してやってくださいよー。危ないからできればオートロックもほしいとこだよなー」

私があーだこーだ言うから不動産屋さんの表情がちょっと疲れてきてる。
でも私の味方してくれる高尾ちゃんはやっぱり神だ。
ちなみに家賃は10万、いや8万以内が予算。駅チカでコンビニも近くがいいって駄々こねてる割には低いなって自分でも思う。

「繁華街の中心でコンビニも徒歩一分以内、新築フローリング、オートロックつきでバストイレ別な物件があるんですが……」

「なんでもっと早く言ってくれないのー」

「出し惜しみはダメっすよー」

私と高尾ちゃんがぶーたれると不動産屋さんはさらに疲れた表情を浮かべた。ちょっとは悪いと思ってる。

「ですが、家賃が14万で一階しか空いてないんですよ」

「高い…」

「予算結構オーバーしてるなー」

「酔っ払って帰って階段から落ちる心配ないから一階はまぁいいんだけど」

「間取りは1DKで洋室が8畳なんですけどどうですか?」

「高いねー」

「高けーなー」

私と高尾ちゃんがハモると、不動産屋さんの表情から更に生気が消えていく。
面倒な客に捕まったとでも思ってるんだろう。ごめんまじごめん。

「他にはないんすかー?」

「ないですね……」

「んー……」

「とりあえずここが一番条件に近くてオススメなので部屋見てみるだけ見てみたらどうです!?車出すので!」

なんか不動産屋さんが可哀想になったから見てみるだけすることにした。
高尾ちゃんは「やっぱここら辺高けーなー」って呟いてた。




* * *

不動産屋さんが部屋の鍵を開けて中に通してくれたと同時、私より先に高尾ちゃんがどんどん進んでった。
洋室へのドアを開けて第一声。

「この部屋コンセント多いなー」

だった。笑った。爆笑してたら不動産屋さんも「確かに多いですね」って真顔で呟いて更に爆笑。腹筋死ぬ。

「ま、まぁコンセントはいくらあっても困らないよね…」

笑いながらそういうと高尾ちゃんは「それでも多すぎっしょ!」って追い討ちかけてきたからきっとヤツは私を殺す気だ。

「てかここ本当歓楽街ど真ん中じゃん。名前ちゃん宿カノになれるなー!」

「え、いや、カストの宿カノとかなりたくないんだけどー」

「ラブホいらねーじゃん、家に連れ込めるなー」

「いや、うん、連れ込む気は満々だけど」

「連れ込んでるとき狙って遊び来るから修羅場ごっこしよーぜ!」

「高尾ちゃん楽しそうだね」

くだらない話をしながら窓を開けてベランダの先の景色を見ると、道路を挟んだ向かい側にこの前まで通ってたホスクラがあった。

「ちょ、ここキセキのまん前じゃん」

また笑いがこみ上げてきた。なにこの偶然。通ってたときにここ住んでたら毎日担当が送りしてるときとかウォッチングできたじゃん!なんてストーカーチックなこと考える。
てかキセキがあるってことはホスクラまじで沢山あんじゃん。さすが歓楽街ど真ん中。

「キセキのキャスト窓からウォッチングする毎日とかちょっと楽しそー!キセキはイケメン多いし」

「でも14万は高けーっしょ」

「うーん、出勤する日めっちゃ偏ってるけど換算すると大体週3出勤だからなあ、これ以上出勤増やしたくないんだよねえ」

「じゃーもうちょい出勤減らして月5日くらい出稼ぎ行く?最低保障結構あるとこ紹介するぜー」

「まさか高尾ちゃん、不動産屋さんとグル!?」

「んなワケねぇから!」

いやだって高い部屋紹介されて出稼ぎ先紹介されてってなったらそう思うよ誰でも。たぶん。
そんな感じで他にいいとこないしお高いこの部屋を契約することにした私は初期費用の話をいろいろ聞いた。
初期費用は10万らしい。その分家賃がちょっと高いらしい。そして一年は住まないと違約金取られるらしい。
なんかケータイ電話の契約みたいだなーなんて思って高尾ちゃんに言ったらウケてくれた。
初期費用めっちゃ安かったから家賃高くても問題なかった。かなり時間無駄にしたなーなんて思いつつも不動産屋さんには感謝。

「名前ちゃん悪い、飯でも奢ってやりたいけど俺これから用事あるんだよなぁ」

「おー、いってら!」

「なんか他の子が金ないらしくて二万でいいから貸してって言ってきたから貸しに行ってくるわー」

お金貸してあげるなんて高尾ちゃん優しすぎ!なんて思った矢先、高尾ちゃんから盛大にゲスい言葉を頂いた。

「担保になるようなもん持ってねーらしいから、ハメ撮りしてくるわー」

あ、だからなんかいつもより荷物持ってたんだそれ撮影道具ですかって察した私。
ハメ撮りって売るといくらになるんだろうって気になったのに高尾ちゃんは「これで飯でも食ってよー」なんて一万くれて爽快に去って行った。
一万は軽々あげるのに二万はハメ撮り担保にするんだ……。

「俺風俗行くと痛客になんだよー、昨日はピンでアナル舐め強要してきた」とか言っちゃうゲスい高尾ちゃんでも私にとっては神である。
たとえピンサロでアナル舐め無理強いするような地雷客でも神…である。
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