ラスト一本終了!
迎えの車に乗り込み、私はドライバーの翔くんにひたすら話しかけていた。
「ねぇねぇ聞いて!そんでさー」
後部座席の真ん中から身を乗り出すようにしてひたすら言葉を発する私はかなりウザいだろう。
斜め後ろからじゃ翔くんの表情は見えない。フロントミラーに視線を向けると、ぱちりと目があった。
そしてあからさまに視線を逸らされた。翔くんがぼそりと何かを呟いたけど、走行音に紛れて聞き取れなかった。
「なんて?」
問いかけたけど返事はない。
気になるじゃん!更に身を乗り出して覗き込むと、運転席と助手席のシートの肩部分が腹に当たって痛かった。
「ち、ちゃんと……その、あ、あ」
翔くんは話すのが苦手だ。
石垣くんたちとは何やら普通に、というか偉そうに話してたところを見かけたことがある。
話すのが、というか女が苦手なのかもしれない。知らんけど。
なんで風俗のドライバーなんてやってんだよ。キョドりすぎてて可哀想だからつっこまないけど。
これがデブ眼鏡とかなら「ちゃんと喋れよキモい」とか盛大にディスってた。でも翔くんはなんか細長い。ちゃんと食べてんのかなぁなんて心配になるくらいガリガリに見える。
最初は怖いと思った顔も、慣れれば愛敬がある。挙動不審なのもなんか可愛く見えてくる。
そんな訳で翔くんは私のお気に入りのドライバーだ。ディスったりしないし、寧ろ無償の優しさで対応している。私にしては珍しい。
「焦らないでゆっくり話しなよ〜」
「……おおきに。あ、そのな、あ、危ないで。ちゃんと、座らな」
「エッ、心配してくれたの!?うれしー!翔くん全然反応してくれないじゃん。だからつい前のめりになっちゃうんだよねぇ」
後部座席にちゃんと座り直し、フロントミラーを再度見ると、翔くんと目は合わなかった。
返事もない。返事してくれないのはいつもの事だ。
その後もひたすら話しかけ、5回に1回くらいの割合で相槌をうってくれた。やばいちょっと打ち解けてるかも。