なんか全てが面倒になってインターハイの試合を見に行くことをやめた私は、そのまま東京へ戻った。
大阪へ何しに行ったんだろう。そうだたこ焼きを食べに行ったんだ。ちゃんとその目的は達成できた。
でも大阪のたこ焼きより関東のたこ焼きのほうがウマかった気がする。なんかふわふわしてるよりパリパリしてる方が美味しい。
大阪に行ったことでの一番の収穫は、征ちゃんという美少年とお友達になれたことだろう。よくチャットアプリで絡んでいる。
そんなわけでソファーでぐだりながら征ちゃんとチャットしていると、横でテツくんがつまらなさそうにしていた。

「名前さん、久しぶりに会えたのにスマホ弄ってばかりですね」

「構ってほしいのー?可愛いなテツにゃんは」

私に寄り掛かったり、頭を撫でてきたりしている姿がとても可愛い。
しょうがないなーとデレデレしながらスマホをローテーブル起き、テツくんに寄り掛かる。

「テツにゃん日焼けしたねー。ダメじゃんちゃんと日焼け止め塗らなきゃ」

「男の僕がいちいち日焼け止めを塗っていたら気持ち悪いでしょう」

「えー、テツにゃんは白いほうが可愛いって絶対!でもまぁ練習頑張ってるんだししょうがないか」

正直私は色白な人がタイプだ。いや、色黒でもカッコイイならオッケーだけど。
でも出来ればテツくんには白くいて欲しかった……可愛さが少し減って男らしくなってしまった気がする。
テツくんの肩に擦り寄り、ちょっと残念な気持ちを押し殺す。

「あ、そういえば私も大阪行ったんだよー」

「えっ、聞いてませんけど」

「テツにゃんが合宿先大阪だっていうからさー、本場のたこ焼き食べたくなっちゃって」

でも関東のたこ焼きのほうが美味しかった。
そういうと、テツくんは「まさかそれだけのために行ったんですか?」と驚いた表情を浮かべている。
それだけのためですが、何か。普段仕事以外引きこもりがちな私がたこ焼きのためだけに大阪まで行ったのに驚いたのだろう。

「何泊かして暇だったからインターハイの開会式見てきたよー!試合も見るつもりだったけどやめて早く帰ってきた」

「もしかして黄瀬君か青峰君に誘われたんですか?」

そう聞いてきたテツくんは無表情だった。これは絶対不機嫌になっている。
ヤキモチかな可愛いー!そんなのんきなことを考えながら首を横に振る。

「テツにゃんが夢中になってるバスケってどんなモンなのかなーって」

まぁ結局試合見なかったけどねてへぺろ。私がふざけて舌を出していると、溜め息を吐かれた。
あれ、私年上なんだけどなー。

「あれー?溜め息なんて吐いちゃっていいのかなー?我名前ぞ?年上お姉さんの名前ぞ?」

「名前さん今日は一段とテンションが高いですね……ネットのノリを現実でやって恥ずかしくないんですか?」

「あれ、テツにゃんが辛辣!だって久々にテツにゃんに会えたんだもんテンション上がるよー」

こんなに可愛くて大好きなテツくんに久々に会って、テンション上がらないわけがない。なんだか恋する乙女みたいだなと嘲笑いが漏れた。
寂しかったんだよーと頬にチューすると、テツくんは俯いてしまった。

「名前さん、全然メールくれなかったじゃないですか。さっきだって久しぶりに会ったのにずっとスマホ弄って僕のほう見向きもしてくれなかったし」

「合宿大変そうだし、スマホでメールて面倒だったからねー。さっきはテツくん久しぶりすぎて上がったテンションを他の人にぶちまけてたんだよね」

さっき征ちゃんとチャットしていたのは、ほぼ私がテツにゃん久しぶり可愛いどうしよう!とかそんなくだらない内容だった。
本人に可愛いって言い過ぎると拗ねるし、征ちゃんは私のテツくんへの愛を聞いてもらうポジションになっていた。
そんな私のチャットでの荒ぶりように『落ち着け』だとか『僕に言わないでテツヤに言ってくれ』だとか律儀に返してくれるからついつい征ちゃんに送ってしまう。
だってテツくんとチームメイトだったらしいし。住んでるの京都だから会ってどうこうとかないと思うし。
普段は男に他の男の話なんてあまりしないが、まぁいっかと思ってしまったのは征ちゃんの年齢に似付かない落ち着いた雰囲気のせいだろう。
きょとんとしているテツくんを見て、そういえばテツくんにスマホ買ってあげようと思ってたんだと思い出した。

「あ、今からテツにゃんのスマホ買いに行くから今度からチャットアプリでやりとりしよー」

メールだとあまり返さないからさ。そう私が立ち上がると更にきょとんとして見上げてきた。
ほら行くよ、そう立つように促すとテツくんは戸惑いながら立ち上がった。

「僕未成年なので親の承諾書が必要なんですが……」

「私の名義で買うに決まってんじゃん。私が払うし何万も使ったりしなきゃいいよ」

通話が無料になるし、今までの通話料の金額を考えると絶対に私名義で買ったほうがいい。
基本的に人のことを信用しない私が名義を貸すなんてありえないんだけど、まぁ相手はテツくんだしいいよねーなんていう軽いノリ。
それほどまでにテツくんを気に入っていた。

「毎月の料金は自分で払いますよ」

「部活やっててバイトする暇ないでしょ?今使ってるケータイは基本料一番安いのにして親御さんの負担少なくしてあげなよ」

普通に昼の仕事をしていたら、ケータイ代は結構痛い出費のはずだ。
今までも電話は全て私がかけなおしていたし、テツくんのほうの料金が高くなったりはしてないだろうけど、私は普段より数万円高くなっていた。
それも一日や二日出勤を増やせば稼げる金額だけど。でも私は出来るだけ仕事をしたくない。
今までの通話料を一万程度に抑えられるならそっちのほうがいい。
それにケータイも私名義にしてしまえば、テツくんを更に私のモノに出来るような気がした。ただの歪んだ独占欲。

私はテツくんの親からもテツくんを奪いたかった。私が親になれたらと思うこともあった。
でもエッチも出来ない親にはなりたくない。テツくんの絶対的な存在になりたい。恋人とか親とかそんなものを超越して、テツくんの絶対的な存在に。
テツくんが他の女の子と会ってたってエッチしたってどうでもいい。テツくんは私のモノで私からは抜け出せない。
そんなことを考えているとは知らず、テツくんは申し訳なさそうな表情で、ありがとうございますと手を握ってきた。
ドロドロとした感情を心の奥底に押し込め、私はテツくんに笑いかける。

「じゃあ、いこっか」





車に乗り、20分ほどの距離にあるショッピングモールの中のケータイショップへと来た私たち。
テツくんは私の横に立って色々なデモ機を眺めている。

「なんか見てたら私も変えたくなっちゃったー。機種変しよっかな」

「僕こういうの疎くて、どれがいいのかさっぱりです」

「じゃあ私とお揃いにしよっか」

お揃いという言葉でふと頭に浮かんだサンホラの曲を口ずさみながら、デモ機を試してみる。
あ、これ持ちやすいけど画面小さいねーとか笑い合っている私たちは、端から見たらどんな関係に見えるんだろうか。
恋人?姉弟?別になんだっていい。他人なんて知ったこっちゃない。最初の頃は淫行罪でしょっぴかれたらどうしようとか考えていたはずなのに、今はもうそんなことどうだってよかった。

「ねえ、キスして?」

夏休みだから家族連れが多いのも気にせず強請った私に、テツくんはふわりと微笑んでキスを落とした。
今日はいつも以上に自分の頭がオカシイ。きっと暑いからだろう。
ハマらせたはずなのに、私がテツくんにハマっているみたいじゃないかと自分自身に失笑した。

「名前さん、どれにしますか」

テツくんと向かい合って、テツくんの服を掴み見つめながらボーっとしていたらしい。
テツくんは困ったように笑う。本当に可愛いなぁ。

「んー、じゃあ評判のいいコレにしようかな」

何事もなかったかのように振る舞い、新型のスマホの見本を手にとって店員に声をかける。
契約書などに記入を終え、手続きが完了するまで一時間かかると言われたのでショッピングモールをぶらつくことにした。雑貨屋さんでスマホのカバーやお揃いのストラップを買ったり、スポーツショップでテツくんに新しいボールを買ってあげたり。
いつもと同じように接したはずだったと思う。
私の家に戻り、新しいスマホを二人で寄り添いながら弄っていると、テツくんはスマホを置いて私の肩へと腕を回してきた。

「名前さん、今日はどうしたんですか?」

「んー?何がー?」

「なんかいつもと違います」

「そー見えるー?いつもと一緒なんだけどなー」

久々に会ったからそう感じるんじゃない?そう笑った私の笑顔は完璧だ。テツくんにいつも見せているようなちょっとだらしのない笑顔。完璧なはずだ。
私が貼り付けた仮面に気付いた人間なんて今まで一人もいない。

「違いますよ」

私の顔をまっすぐな瞳で見つめられたが、動揺するほどバカな女じゃない。
本当にいつも通りじゃないと気付いているのか。だったらなんで騙されたふりも出来ないの。テツくんにイラつきそんな風に心の中で逆ギレ。つくづく私は最低な女だな。

「ねえ、エッチしたくなってきた」

テツくんの頬に手を添え口付ける。深く、深く、深く。
そうすればほら、テツくんは私を押し倒してきた。
男を黙らせるには、やりとりが面倒なときには、その気にさせればいいだけ。
その後はいつもより激しく、何回も求められた。多分しばらくヤっていなかったから溜まっていたんだろう。
情事後に狭いソファーの上で抱き合いながら、テツくんは何か言いたげにしていた。
でも聞き出そうなんて許さないし、本当のことを話してなんてあげない。






本当は征ちゃんにテツくんのことなんて送っていない。普通に仕事モードかよというくらい知識をフル活用してモーションかけていた。今度京都に行く用事があるからと会う約束を取り付けた。
本当はインターハイを見に行った。試合が終わったあと、テツくんも来ていたのか桃色の髪をした女の子と仲よさげに話しているのをみかけた。私なんかより全然若い、肌も心も綺麗そうな女の子と話しているのを。
本当は暑くて頭がオカシくなったんじゃない。嫉妬で気が狂いそうだったのだ。
私のテツくんが、私の知らないところで私が知らない女と話しているのが許せなかった。
ペットみたいに思っている年下のテツくんに嫉妬する自分も許せなかった。だって私はテツくんに恋愛感情は抱いていないのだから。
勿論それに近い感情は持っている。可愛いと思うしエッチしたいと思うし手放したくないとも思う。でも近くはあっても恋愛感情ではない。
もっと、私ががいなきゃ生きていけないくらいハマってくれればいいのに。寧ろ私を愛しすぎて殺してくれればいいのに。

「本当はね、テツにゃんに会えなくて死にそうなくらい寂しかったんだ。だから変に感じたのかもー」

「……!嬉しいです」

顔は見えないが嬉しいのだろう。更に力を込めて抱きしめてくれた。
私は本心を隠して、テツくんを弄ぶ。

恋愛をしてもどういう終わりを迎えるのか私は知っていた。永遠なんて存在しない。
だから私は本気で人を愛したりしないし、テツくんのことも本気で愛したりしない。
ハマっているのはテツくんだけじゃなく、私もだということを認めるわけにはいかなかった。
だからごめんね、テツくんは私のモノだけど私はテツくんのモノになったりはしないんだよ。
本気にならないよう、いろんないい男と遊んで、ヤって、愛を囁いて。

今日も歪んだ愛を押し込めてテツくんが逃げないように蜘蛛の巣を張り巡らせた。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -