メールの受信音が鳴り響き、スマホを持って確認すると、すぐに溜め息を吐いて投げ捨てた。
最近テツくんは忙しいらしく、もう二週間くらい会ってない気がする。
もうすぐ夏休みだからと予定を聞くと、夏休みもほぼ予定は埋まっているらしい。旅行に連れてってあげようと思ったのにまじショック。
二週間も会ってないとなると性欲は溜まる一方で。
久々に他の男でも誘うかなんて連絡先を漁っていると、一度だけ会ったことのあるあの子に連絡してみようと閃いた。
善は急げとすぐに通話ボタンを押すと、数回コールが鳴って止まった。

「やあ、覚えてる〜?」
「えーと、名前サン?」
「そうそう、突然だけど青峰くん今日ひま?」
「暇、すけど」
「敬語いらないよ。色々奢ってあげるから遊ぼ」

一ヶ月ほど前、テツくんとご飯食べに行ったときに遭遇した青峰くん。
彼は暇らしいし今日は付き合ってもらおう。
テツヤくんが知ったらまたヤキモチ妬くんだろうなと想像して笑みがこぼれた。

「どっか行きたいとこでもあんのかよ」

敬語いらないと言った端からすぐにタメ口になるあたり、青峰くんは敬語がよほど苦手なんだろう。

「んー、買い物?」

「げっ……女の買い物とかなげーからやだ。つーか荷物持ち目当てだろ」

「バレたか。でも欲しいモノあったら買ってあげるし、付き合ってくれたら何でもいっこお願い聞いてあげるよ」

こうして今いる場所を聞き出し、すぐさまタクシーで向かった。
んー、やっぱりテツくんと会いたいのは相変わらずだけど、我慢するしかないか。





マジバで昼食をとり、私たちは近場のショッピングモールへと来た。
たまには違う系統も買ってみようと色んな店を覗く。

「ちょ、まだ買うのか……!?」

「ごめんね荷物持たせちゃってー。あとでサービスカウンターに全部預けるから、それまでがんばって!」

青峰くんはげんなりしている。ちょっと連れてくるのテツくんじゃなくて良かったと思った。
テツヤくんにこんな荷物持たせるのは可哀想だし。
欲しいものも全部買い、サービスカウンターで自宅までの配送手続きを終えると、青峰くんが私の肩へと腕を回してきた。

「なー、オレ夕飯焼肉がいい。食べ放題じゃないやつ」

「じゃあ叙々苑でも行く?あ、焼肉なら服臭くなるし着替え買っとこうかな」

「は!?叙々苑ってあれだろ、すっげー高いトコだろ?もっと安いとこでいいっつーの。てか一体なんの仕事してんだよ」

「ん?あれ、言ってなかったっけ?キャバクラだよ」

あぁ、と頷いて納得してる青峰くんに首を傾げる。なんなの今日メイクとか仕事モードじゃないしなんで納得されてんの。
問いかけるのは面倒なので、青峰くんも着替え買っとこうとメンズショップへと向かう。
ついでにウチ来たとき用にテツくんの着替えやら何やらも買っておこうかな。
メンズ服を見るのはなかなか楽しい。これテツにゃんに似合いそう!これテツにゃんに着せたい!と騒いでいると青峰くんに呆れた視線を向けられた。
そして青峰くんは、試着するときにパンツの裾を詰めなくても履きこなしていた。この身長なら納得である。

「青峰くんさー、さすがにもう成長期止まってるよね?」

「あ?まだ伸びてっけど」

ありえない、150センチ台で止まった私の敵だ。そしてテツくんもこれから伸びてしまうのだろうか。
今が一番ちょうどいいのに。これ以上成長しないで欲しいと願ってしまいなんか自分が危ない趣味に走ってしまったような微妙な心境に陥った。




まだ午後9時にもなっていないというのに飲みすぎた……。
庶民に優しい料金の(安いのにすごい美味しい)焼肉屋に行き、一杯だけと酒を飲み始めたが最後。
やっぱりというか当然というか、一杯だけに留まらず何十杯も飲んでしまった。
仕事がない日くらいは休肝日にしたかったが私には無理だったようだ。

「フラフラじゃねーか。掴まれ」

「大輝やっさしー」

差し出された腕に抱きつき、覚束ない足取りで街中を歩いていく。
焼肉屋で酔っ払って絡みまくり、半ば無理矢理大輝呼びになった。
んー、テツにゃんは部活終わって家に帰ったのかな。会いたい。

「よし、テツにゃん呼んで一軒いこー!」

「あ?酒飲めねーしテツもオレも未成年だから居酒屋も入れねーよ」

「大丈夫二人とも成人に見える見える」

だから行こうよー。さらにきつく腕に抱きつき問いかけると、溜め息を零された。私年上なのにひどい。

「オレはいーけど、テツは部活で疲れてんじゃねぇの?」

「大輝もバスケ部じゃん」

「ほとんど練習サボってっから」

「部活に励むのも青春だけどサボるのも青春だよねー」

私なんて学生時代学校に行くほうが珍しかったし、皆で騒いでバカやってた楽しい思い出がある。サボりこそ青春。
説教されんのかと思った。そう私を見下ろし目を丸くしている大輝の表情にウケた。

「説教とか逆にやる気なくすだけじゃん?」

軽く笑うと大輝もニヤリと笑みを浮かべ、しょうがねーからもう一軒付き合ってやるよと乱暴に頭を撫でられた。




あの後さらにもう一軒付き合ってもらい、へべれけ状態になった私とシラフな大輝はラブホの一室にいた。
もちろん大輝に無理矢理連れてこられたなんてことはなく、逆に困惑する大輝を私が引っ張り込んだのだ。

「焼肉くさいからシャワー浴びて着替えよー」

家に焼肉の匂いは持ち帰りたくない。それに家まで帰るのもだるいから泊まって行くことにした。
昼間買った着替えが入った袋とバッグを持って洗面所へと向かうと、大輝が後ろからついてくる。

「ねえちょっとお湯溜めといて。あ、バブルバスのやつ入れといてね。先に化粧落としちゃうから」

おっぱい星人なくせにこういうことに慣れていないのか、困惑した表情を崩すことなくバスルームの中へと入っていった大輝を見て思わず顔がニヤける。
なんか初々しい子って本当いいよなあ可愛くて。
コンタクトを外しゴミ箱へと投げ捨て、アメニティーのクレンジングオイルで化粧を落としていく。
すると、バスルームから出てきた大輝が声をあげた。

「うわっ、顔真っ黒じゃねーか」

「マスカラとアイラインのせいだよ」

女ってそんなんで化けてんのかよと呟き部屋へと戻って行った大輝を横目で見つつ、蛇口からお湯を出し洗顔を終えると、私も部屋へと戻った。
大輝は私の顔を見ると、弄っていたケータイを閉じた。

「名前サン化粧濃いからスッピンブスだと思ってたけど……」

童顔でカワイーじゃん。そういった大輝に思わず笑う。
スッピン褒められて嫌な女はいないだろう。
隣に腰掛け、寄り掛かりテレビの電源をつけた。

「あ、大輝AVでも見る?」

チャンネルを変えていくと巨乳白ギャルのハメ撮りが流れ始める。
すると明らかに大輝の視線が泳ぎだした。

「あれ?見たことないの?」
「あ、あるけど、女と見たことねーし」

そういってソワソワしだした様子を見え笑いが堪えられない。見かけの割りには可愛い反応だ。
酔っ払いの私は大輝に絡む。そこまでするかというほど絡む。

「照れてるー!カワイー。ほら、ちゃんとみよーよ」

ムスッした表情になってしまった大輝に飽き、お風呂溜まったか見てくるねとその場を立ち去り、バスルームまで移動するとスマホのバイブが震えた。
どうやらメールだったようで確認すると、それはテツくんからで『今日は部活終わるのがいつもより遅くて疲れてしまいました。もうそろそろ寝ようと思ってるんですけど名前さんはまだ起きてるんですか?』という何気ない内容だった。
これで大輝と一緒に居ると言ったらどんな反応が返ってくるんだろうか。
すでにお湯は止まり、ふわふわの泡が浮かんだバスタブを見て部屋へと戻ろうとすると、部屋の方から大輝の声が聞こえてきた。
多分電話でもしているんだろう。気にせずスマホの画面をニヤニヤ眺めながら戻ると、ヒートアップしているようだった。

「テメェはオレの母親かっつーの。ババアには言ってあんだからいちいち口出しすんじゃねーよ」

ダルそうな表情を浮かべる大輝は私が戻ってきたのに気付いたのか、ちらりとこちらに視線をやった。
電話長くなんのかなー。まぁいいやテツくんになんて返信しようか。相変わらずスマホと睨めっこしていると、着信を知らせる画面に変わった。
マナーモードにしてあるし客なら無視しよう。着信相手の名前を確認すると、黒子テツヤの文字。
すぐさま洗面所に移動して電話に出ると、心地よい声が聞こえてきた。

「こんばんは、今平気ですか?」

「うん、出先だけどちょっとなら平気だよ〜」

「出先、ですか……」

「どうしたの?」

少し低くなった声に気にせず話を促す。

「寝る前に名前さんの声が聞きたくて」

「テツにゃんかわいー!チューしたい〜」

「もしかして酔っ払ってますか?」

「あれ?いつもと同じようなことしか言ってないのによく分かったねー」

「テンションが高いので」

「電話か?」

テツにゃん可愛いなぁなんてニヤけてると、突如後ろから声をかけられた。
私が電話中声かけないように気遣ったのに大輝は出来ないのか。つーか移動した意味ないし。もし電話相手が客だったらまじ営業妨害。
振り向き口元に人差し指を添えると、電話先から更に低くなった声が聞こえた。

「……誰かと一緒にいるんですか?」

ここで青峰大輝くんと言ったらどういう反応をするんだろうか。好奇心が働いたものの、面倒くささが勝り思いとどまる。

「お客さんと店外デート中ー」

お客さん。その言葉に目の前にいる大輝は眉間に皺を寄せた。

「へぇ。今、どこにいるんですか?」

「今は飲み屋のトイレの前だよー」

「あぁ、だから静かなんですね」

テツくんはなかなか勘と洞察力が鋭いらしい。周りが静かな事に疑問を感じていたんだろう。

「じゃあね、時間空いたら連絡ちょうだい。おやすみ〜」

なんだかまた大輝が空気を読まず声を出しそうだったので、早々に電話を切ると大輝は方眉を上げ見下してきた。

「オレ客じゃねぇし」

「テツにゃんヤキモチ妬いちゃうからさー」

「電話テツだったのかよ」

つかさっきまでテツ呼ぶとか言ってたじゃねぇか。その言葉に肩を落とす。

「テツにゃん部活で疲れてるみたい」

「ふーん」

てかテツくんが会えるんだったら大輝を誘ってない。
でも電話くれて嬉しいなあとニヤニヤしながら大輝を見据える。

「さて、一緒にお風呂はいろっか〜」

私の言葉にぎょっとした表情で私の肩を掴んだ大輝は眉間に皺を寄せている。

「は?先入っていーから」

「何言ってんの?一緒に入るんだよ」

「いや、アンタが何言ってんだよ」

一緒とか無理に決まってんだろ!と部屋に戻ろうとする大輝の腕を引き寄せ私の服の裾を持たせた。

「なんで連れてきたと思ってんの〜?私の頭と体洗ってもらうんだから」

酔っ払っているときはいつも以上に洗髪などが面倒に感じるのだ。だから連れてきたというのに、大輝は固まっている。
ほら早く〜、と急かしても動かない。テツくんも最初は恥ずかしがってたけど今はウチに来るたびにやってくれてるというのに!

「酔っ払いを一人でお風呂に入れるつもりー?」

「そんだけ意識はっきりしてたら溺れねーよ」

「はぁ……まったくもう」

痺れを切らした私は大輝の首に手を伸ばし引き寄せると、深い口付けをする。身長差ありすぎて体勢キツいな〜。
大輝は肩をびくりと揺らし、そして私を抱きかかえてズルズルと座り込んだ。その動作のせいで唇が離れ、視線が交わう。

「酒くせーよ」

「早くお風呂入ろーよー」

「……一緒に入ったら、ヤりたくなんだろーが」

そういって頭を抱えこまれ大輝の胸板に顔が埋まり、クスリと笑みが零れる。
そりゃそうだ。一緒に入ったにも関わらず勃たなかったら「インポなの?」って聞きたくなる。
分かっていて誘っているのに。見かけによらず純粋なのかなカワイー。

「シたくなっちゃったら、ちゃんと責任とってあげるよ」

笑いながら大輝の服を脱がしにかかり、バスルームへと連れ込んだ。




ベッドの上でお互い息を乱し、何回もキスをする。
もう何回ヤっただろうか。大輝はテツくんよりも体力も精力もあるらしい。まさに絶倫という言葉が当てはまる。
備え付けのゴムだけじゃ足りず、備え付けの小さい冷蔵庫のような自販機で買った。
ピル飲んでるからナマでやってもいいっちゃいいのだが、ナマでヤらせてあげるのはテツくんだけにしようと黙っておいた。

「なぁ、もっかいいいか?」

「え、さすがに疲れきっちゃったし腰痛いんだけど」

「責任とるっつったのはそっちだろ」

ゴムを付け替え、また大輝のモノが宛がわれた。
さすがにこんなに元気だとは思わず、息を吐く。
ぐちゅり。どんどんと侵入してくる大きいソレに声が漏れる。

「キッツ……普通何回やってもガバガバになんないモンなのか?」

「あっ……知らな……待って、まじもうムリ」

大輝の肩を強く圧すと舌打ちが返ってきて睨まれ、ナカに入っていたものが引き抜かれた。

「なぁ、今日付き合ったらなんでも一個願い聞いてくれるっつったよな」

「え、うん。覚えてたんだ」

「そこの自販機で欲しいモンあんだけどいいか?」

「へ?別にいーけど」

何買うつもり?その問いかけを発する前に大輝は私の上から退いて、いつの間にか自販機を覗き込んでいる。
まじで何買うつもりだ。コレとコレにするか。そう呟く大輝の声が聞こえ、買うの一個じゃないのかよと溜め息を漏らす。
まぁお金的には気にしなくてもいいんだけど。
ぼんやりとしているうちにすぐ戻ってきた大輝の手元を見て、血の気が引いた。

「まさか、それ使う気?」

銀色に鈍く光る手錠。それと茶色い瓶に入った液体。コンタクトもしておらず眼鏡もかけていないのでラベルになんて書いてあるかは見えないが、なんとなく察しはついた。そちらはまぁあまり効果などないことは知っているのでいいのだが、手錠されたら大輝が満足するまで開放されないだろう。
ベッドを見た時には気にしなかったが、ベッドの頭上部分には手錠でプレイする為に鎖を通せるようになっている。最近のラブホすごいと現実逃避気味に考える。
大輝は私に馬乗りになり、手錠で私の腕を頭上で拘束し、茶色い瓶の中身を口に含んだ。それを口移しされ、素直に飲み込んだ。

「ちゃんと飲んだな」

「これ媚薬でしょ?こういうの思い込みだから効果ないよ」

特に飲むタイプは、飲んでも飲まなくても変わらない。塗るタイプならばまぁ効果はあるのだが、それは黙っておこう。
私の言葉に大輝は眉間に皺を寄せた。

「まじかよ……まーいいや」

そう言って躊躇いもなくナカへと大きいモノが突っ込まれ、抵抗しようとする。

「あぁっ……!」

腕を引っ張るが、手錠が外れるわけもなくただ痛いだけだった。本当ムリだ。腰はすごい痛いしこれ以上ヤられたら本当に死にそうだ。
私の胸を愛撫しながら突いてくる大輝の表情を見上げると、すごく楽しそうだった。




ヤりすぎて気絶なんて経験のない私は、今回も気絶はしなかった。
だが、途中で疲れすぎて眠くなっては腰の痛みに思考を引き戻されを繰り返し、大輝が満足したと同時に深い眠りへと落ちた。
あぁ、今何時だろう。
イきすぎて頭が痛いのか、二日酔いで頭が痛いのかは分からないが、酷く痛む頭を押えながら枕元へと手を伸ばす。
手錠はいつの間にか外されていたらしい。スマホを引き寄せ時刻を確認すると同時に視界に入った手首を見て顔を顰める。
アザになってるし。仕事のときどうすんのコレ。隣へと視線をやると、大輝がもぞりと動いた。

「あー、ねみぃ。今何時?」

眠そうな顔してこちらを見つめた大輝に「もう昼間の三時だけど」と告げるとまた寝始めようとしやがった。テツにゃんと違って可愛くない。

「もう帰ってゆっくりしたいしお風呂はいろ」

「あ?風呂入ったらまたヤりたくなっちまうけどいいのかよ?」

体中痛いのにヤれる訳がない。洗ってもらおうと思ったのにと不満顔を隠すこともせずベッドから降りた。
なんだよ一人で入んのか?その言葉にんー、と気のない返事をし、痛む体を引き摺ってバスルームへと向かった。

「あー、一週間くらい仕事休も」

こんなに痛む体で仕事なんて出来るはずない。私が休んだら売り上げが減って店長は困るだろうが決めた。絶対休む。
なんとかシャワーを浴び、新品の下着や服に袖を通す。昨日着てた服は置いてっちゃおう。
ボサボサの髪をブラシで整え、歯磨きしてバッグの中からサングラスを取り出してかける。家に帰るだけなんだから化粧なんて面倒くさい。
部屋へと戻ると大輝も服を身にまとっていた。

「シャワー浴びないの?」

「あー、ダリィし家帰ったら入るわ」

じゃあ行こっか。部屋の出口にある自動精算機で支払い、フロントでタクシーを呼んでもらいラブホをあとにした。
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
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