仕事に行こうと電車に乗ると、ちょうど帰宅ラッシュだったのか人詰め状態。
我慢しながら乗っていると、下着越しにケツを撫でられ始めた。うわー痴漢かよ死ねばいいのに。
多分後ろに居るヤツだろう。鼻息荒いし。私は足を思い切り踏みつけた。今日はピンヒールだから痛いに違いない。
一瞬手の動きが止まったものの、今だやらしい手つきで撫でてくるヤツに心底腹が立つ。
仕事行く気失せた、もう休む。次の駅で引き摺り降ろしてやろうと思案していると、痴漢の手が止まった。
「オッサン痴漢とか最低だな。轢き殺すぞ」
「ひ、ち、違います!」
体は動かせないので顔だけ後ろを向くと、身長の高いイケメン高校生が笑顔でオヤジの手を掴んでいた。
助けられたのだろうか。私の視線に気がついたイケメン高校生がこちらを向く。
「大丈夫ですか」
「あ、うん。ありがとー。次の駅に引き摺り降ろそうかと思ってたとこ」
生憎私は痴漢くらいで恐怖したり泣いたりする弱い人間ではない。
イケメン高校生は女が皆痴漢を怖がるとでも思っていたのだろうか。びっくりした表情を浮かべていた。
周りの人間は関わらまいとたまにチラチラとこちらを見るだけ。
駅に到着しドアが開いたと同時に、イケメン高校生はオヤジを引き摺り降ろしていったので私も後に続いて降りた。
「お姉さんこの痴漢どうします?」
「警察に突き出すかな……ねえアンタさー痴漢したかったらイメクラでも行ってなよ」
折角仕事やる気出てたのにそれを壊した罪は重い。低い声で凄むと、オヤジは「警察だけは!」と泣き始めた。
私みたいな人間が相手だったからよかったものの、他の女の子なら男性恐怖症になったり泣き寝入りしていたかもしれない。
私の言葉を聞いたイケメン高校生はオヤジの腕を引っ張り、駅員の元まで連れていってくれた。
私が警察とのやり取りが終わるまで待っててくれたり、見た目だけじゃなく中身もイケメンなんだろう。
「あ、キミほんとありがとー!お礼したいんだけどこの後時間ある?」
「いいっすよ。気にしないで下さい」
「いや気にするってー。時間ないなら後日でもいいから」
「あー、じゃあお言葉に甘えて……今日でも大丈夫っす」
「じゃあなんか奢るね。何か食べたいものある?」
「キライなモンとかないんで何でも食べますよ」
「うーん男の子だから肉系かな。焼肉?しゃぶしゃぶ?」
痴漢から助けてもらった上にイケメンとご飯食べれるんだから、どっちかというと私ばかり得してる気もするけど気にしない。
焼肉がいいと言うので、私は仕事を休むと店長にメールを入れてから近場の焼肉屋へと向かった。
* * *
イケメン高校生は宮地清志くんというらしい。
そして話しているうちにドルオタだと発覚した。ケッ、やっぱりイケメンもアイドルみたいな清純そうな子がいいんだなとかちょっと心が荒んだ。一瞬黒髪にしようかなんて血迷ったけどすぐにそんな考えは消した。
「そういえば名前さん今日どっか行く途中じゃなかったんすか?」
「仕事行く途中だったけど痴漢のせいで休んだー」
「この時間から仕事?」
「夢と楽しい時間を売る仕事ー。あと敬語じゃなくていいからね」
「あー、わかった。キャバクラとかそっち系か?」
「正解!」
私は肉を焼いてどんどん清志くんのお皿に乗っけていく。普段客相手以外にこんなことしないけど、助けてもらったお礼だしね。
清志くんはかなり食べている。私はお酒と、つまみ程度に肉を食べている。
こんだけ食べてくれると奢り甲斐がある。テツくん小食だし。私は母親が子供が食べている姿を微笑ましく見守っている心境が分かった気がした。
「てかまじ清志くん身長デカいねー」
多分大輝とか涼ちゃんくらいある。最近長身イケメンと縁があって嬉しい限りである。
「あー、バスケやってっから」
「バスケ?あー、そうなんだ」
そしてバスケ部の高校生とも縁があるらしい。
もう高校生=バスケになりそうだよ。何か見えないものに引き寄せられてるみたいでちょっと怖いわ。
私の様子が変わったことに気付いたのか、清志くんは不思議そうな顔で私を見ている。
「バスケがどうかしたか?」
「いや、最近バスケしてる高校生と縁があるなーって」
テツくん涼ちゃん大輝征ちゃん真ちゃん和成くん。
真ちゃんと和成くんはメールでバスケしていると言っていた。
こう考えると本当にバスケ少年率が高い。
「バスケしてるヤツなら結構知ってるヤツ多いけど、どんなヤツらだよ」
「なんか影薄めの子とモデルと色黒とオッドアイとチャリアカー」
私が皆の特徴を挙げていくと、清志くんは噴き出した。米粒が少し飛んでる。
「なんか全員知ってる気がするけど気のせいだと思いてぇ。特に最後」
「チャリアカー?」
「いやありえねー名前さんと緑間とか接点すっげーなさそうだもんな」
なにやら清志くんはブツブツとぎりぎり私に聞こえる声でつぶやいている。ちょっと怖い。
でも緑間って確か真ちゃんの苗字だよね。アドレス帳を確認すると緑間真太郎と登録されていた。
「真ちゃんと同級生?」
「いや、轢き殺してーくらいクソ生意気な後輩」
「あー、真ちゃんちょっと生意気な感じするね」
そこが可愛いけど。私が笑っていると清志くんは顔を顰めた。
「ちょっとどころじゃねーよ。まあ、バスケの才能はすげーと思うけど」
生意気とか言いながら清志くんは真ちゃんを認めているらしい。男の上下関係って結構いいモンなのかな。私は思わずニヤニヤしてしまった。
「で、名前さんはなんで緑間と知り合いなんだよ」
「なんかコンビニ前で真ちゃんに頭可笑しい人間扱いされたー」
「ブッ……」
私を見て肩を震わせてる清志くんにムカっときたからからかって遊ぶことにする。
「ねー清志くん彼女いるー?」
「いねーよ」
相変わらず肩を震わせ笑うのを我慢しながら返事をされた。ひどい。
「じゃーこの後ラブホでも行くー?」
「は?いや、何言ってんだよ」
清志くんは明らかに動揺している。顔も赤くなっている。この初々しい反応最高。かわいい。
「痴漢助けてくれたお礼と、私清志くんのこと気に入っちゃったから」
「でも、そんな付き合ってもないヤツと行くとか良くねーだろ」
「清志くんて結構おこちゃまなんだー」
私は小馬鹿にしたように笑った。すると清志くんは眉間に皺を寄せた。
「あ?ちげーよパイナップル投げんぞ」
「こわー。でも違うなら行けるよね?」
「当たり前だろ」
売り言葉に買い言葉だったんだろう。肯定してから清志くんははっとした表情を浮かべた。扱いやすくて助かる。なんだか大輝みたいだ。
清志くんが食べ終わると私は会計を済ませて、メンズ服が売っているショップへと清志くんを引っ張っていった。
* * *
流石に制服のままってワケにはいかず、ショップで買ってあげた服に着替えさせラブホへと連れ込むと清志くんは明らかに動揺していた。
「清志くん入り口に突っ立ってどうしたの?お風呂入る?」
「あー、先入っていいぞ」
明らかに挙動不審だ。初めて来たのかな。そういえばテツくんとは普通のホテルは行ったもののラブホには行ったことがない。今度連れて行こう。そんなことを考えていると楽しくなってきて、鼻歌を歌いながらお湯を張りに行った。
部屋に戻ると、大きい体を小さくさせてソファーに座っている清志くんがいて、思わず笑ってしまった。
「何笑ってんだよ」
「べっつにー。ねえお風呂一緒に入ろうよ」
「ぜってー嫌だ」
なんかこんなようなやりとりを大輝とした気もする。まさか大輝ほどの絶倫じゃないよね。私はあのときのことを思い出してちょっと頭が痛くなった。
「なんで?」
「恥ずかしいだろ言わせんなよバカ」
「えー、大丈夫だよ」
とりあえず私は強引にベッドへと引っ張っていった。
* * *
清志くんは枕に顔を埋めて何やら負のオーラを出している。
うわー、どうしよう。警察行かれたらどうしよう。
でも高3っていったら多分18歳だよね?大丈夫だよね?それとも高校生はアウトか?
とりあえず謝ることにした。
「ごめんね、清志くんイケメンだったからつい」
「ついじゃねーよ……轢き殺すぞ……」
枕から離れ睨んできた清志くんの顔は赤い。この様子だったら警察行かないと思いたいよ。
私は清志くんの頭を撫でながら笑った。
「照れてんのー?かわいー!」
イケメン高校生清志くんはなんか思ったよりも初心だった。ギャップ萌えって三次元でも適用されるんだな。かわいい。
半ば無理矢理清志くんから連絡先を聞き出して一緒にホテルを出た。