あの日を境にテツくんとの関係が元に戻って、私も要らない感情は捨てた。
テツくんとの距離感がちょうどよくてまた一緒にいて落ち着くと思えるようになってハッピー。

「ねえテツにゃん〜。次部活ない日にどっかデート行こうよー」

「どこに行きたいんですか?」

「あ、富士急行きたいなー。前日テツにゃんの部活終わったあとホテル泊まって次の日遊び通そー」

数々の絶叫マシーンが有名な富士急は東京からじゃ少し遠い。長時間電車乗るのは嫌だし車かな。車で行っても最低二時間。遠い。でもテツくんが助手席に居たらなんてことはないだろう。

「いいですけど、僕ジェットコースターは……」

「え、まさか乗れないなんてないよね?大丈夫だよね?男だもんね?乗れないなんて女々しいこと言わないよね?」

「は、はい」

青い顔のテツくんを追い詰めると、見栄張ったのか頷いた。かわいい、テツくんちょうかわいい。
ニヤニヤとしながらいっぱい乗ろうねと言うと、テツくんは口元を押さえ始めた。
え、なんなの想像しただけで気持ち悪くなっちゃうの?ちょっと不安がよぎったものの、テツくんは頷いたわけだし乗せちゃおうとまたニヤニヤした。
そして早くも出発の日がやってきた。楽しみだなー。かわいいテツくんの写真いっぱい撮ろう。
夕方テツくん家付近の待ち合わせ場所まで車で行くと、助手席にテツくんが乗り込んできた。

「部活お疲れー」

「名前さんも朝まで仕事だったんですよね?お疲れ様です」

買っておいたペットボトルのお茶をテツくんに渡しながら頷く。
数日前にやっと仕事復帰し、久々すぎて色恋かけながらオヤジの話相手をするのは辛かった。
新規の客に「べっぴんさんだからチップあげるよ」と2000円渡されて、バカにしてんのかとキレそうになったのは、久々すぎて感覚が鈍ってたからだと思いたい。

「夕飯どうしようかー。向こうの方なんもお店なさそうだからこっちで食べてっちゃう?」

「じゃあマジバがいいです。ドライブスルーありますし」

「マジバでいいの?じゃあ久々にそうしようかな」

私が笑うとテツくんも微笑んで頷いた。
通りすがりにあったマジバのドライブスルーに入り、チーズバーガーのセットを二つと、テツくん用のバニラシェイクを頼んで、受け取った商品をテツくんに渡す。

「テツくん、私運転してて食べれないからポテトあーんして」

「はい、どうぞ」

「あーんって言いながらちょーだい」

テツくんにあーんって言わせたい。一度も言ってるとこ聞いたことない。
ちらりと視線をやると、ポテトを持って顔を赤らめていた。

「……名前さん、あーん」

「ありがとー。テツくんにあーんしてもらうといつも以上に美味しい!」

「もう言いませんからね」

自分が変態オヤジになった気分だけど満足。どうせなら録音したかった。
私がニヤニヤしているのが気に食わないのか、テツくんはハイペースでポテトを口に入れてくる。

「ちょ、速すぎ」

私を窒息させる気なんだろうか。
テツくんをチラリと見ると、また無表情でポテトを私の唇に押し付けてきた。
前にも思ったけどこの子絶対サドだ。テツくんはマゾな方が絶対かわいいと思うんだけど、踏んでくださいとか言われてもそれはそれで微妙な気がする。サドなテツくんを苛めるのが一番楽しいと私は結論付けた。





三時間かけホテルに着き、私はベッドに倒れた。
折角初めての小旅行なんだし本当はスイートとかいい部屋にしたかったけど禁煙しかなかったから、普通よりちょっといい部屋のツインにした。でも結構広いしシックな感じで落ち着くしよかったかな。
ゴロゴロとしながらテツくんを見ると、窓の外を眺めていた。

「パーク側なんですね」

富士急の傍に建っているこのホテルは、窓からアトラクションなどが見える。
テツくんは見てるだけなのに楽しそうな表情を浮かべていて、思わず顔が綻んだ。
富士山側か迷ったけどこっちにして正解だったようだ。

「明日いっぱい遊ぼうね」

「はい」

「ジェットコースター楽しみだね〜」

私の一言でテツくんの顔色が悪くなった。本当にかわいいなー。つい苛めたくなってしまう。
ニヤニヤしながら見ているとテツくんがベッドまでやってきた。

「今日は名前さんに沢山元気を貰っておかないといけませんね」

「えー、私が疲れて明日あんま回れなくなっちゃうじゃん」

テツくんが何を言いたいのかがわかった。気付かないほど純粋でも純情でもない。
男はスッキリして元気が出るみたいだけど、女は疲労感がハンパない。
まさか私を疲れさせてジェットコースターあんま乗れないようにするのが目的か。
テツくんは見た目に似合わずなかなか策士らしい。
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