テツくんと一緒に家へ帰ってきたものの、涼ちゃん家を出たときから一言も言葉を交わしてなかった。
あちゃー、怒ってんのかな。チラリとソファーの隣に座り小説を読んでいるテツくんを見やる。

「テツにゃーん」

「何ですか?」

小説から視線も離さずに素っ気無く返されてしまった。まじで怒ってんのかな。でも私悪いことしてないし機嫌取る必要はないよね。
素っ気無い態度にムカっと来た私はスマホを弄ることにした。
チャットアプリの通知が何件か来ていたので開くと、涼ちゃんから「ちゃんと家帰れたッスか?」と来ていたので返信しておく。征ちゃんからも来てたので返信。既読にしたまま返していなかった大輝にも久々に送ることにする。
それが終わるとスマホですることも思い浮かばず、私はシャワーを浴びて寝ることにした。
テツくんも帰りたくなったら新聞受けに鍵を入れて勝手に帰るだろう。
シャワーを浴び、寝室へと戻ろうと横を通ってもテツくんの視線がこちらに向くことはなかった。
なんでだろう。いつからテツくんとの間に溝が出来てしまったんだろう。
でも離れて行くのならもうそれでいい気がする。面倒だったり疲れたりするコトは嫌いだ。だったら自分の感情を捨てたほうが楽。
まだ濡れている髪も気にせずにベッドへと横になる。そろそろ仕事復帰しなきゃいけないし、本当面倒くさいなー。もう一生寝ていたい。目を閉じ、無心になろうと頭を空っぽにしようとする。
それからどれくらい時間が経ったのかはわからないが、寝室のドアが開く気配がした。

「名前さん……」

テツくんの声がすぐ側で聞こえる。まだ帰ってなかったんだ。もう帰ったのかと思ってた。
ギシリとベッドが沈み、温かくて落ち着く体温に包まれた。
抱き締められていると気付いたけど、目を開くことはしなかった。寝たふり。テツくんはもしかしたら私が起きてることに気付いているかもしれない。
でもなにを言えばいいのかわからない。私ってこんな人間だったっけ。もっと気軽にテキトーにすればいいだけなのに。





いつの間にか寝ていたらしい。カーテンの隙間から光が漏れて来ないからもう夜なんだろう。
今だテツくんの腕が私の体に纏わりついていたので起き上がれなかった。
腕を外そうと試みると、目の前のテツくんが身を捩る。

「名前さん」

薄っすらと瞼を上げたテツくんとぱちりと目が合う。
見つめ合うのは久々で、こういう時にどうすればいいのかが思い出せない。ヤリマン糞女と言われている私が笑ってしまう。そうだ、どうしていいかわからない時はキスすればいい。
私はテツくんに顔を近付け唇を重ねた。テツくんは嫌がる様子も見せず、寧ろ私の頭を手で押え付けている。

「この一ヶ月間、僕は名前さんに会いたくて気が狂いそうでした」

名前さんはどうでしたか。そう問いかけられて一瞬言葉に詰まる。
私だって会いたかった。でもそれを言っていいのだろうか。だって遠ざけていたのは私だから。
もう自分が何をしたいのかわからない。言葉の代わりにまた唇を重ねる。

「どうしても僕のモノにしたいんです」

唇を離すとテツくんは悲しそうな表情をしていた。

「……私がテツくんのモノになったとして、テツくんは私のモノになってくれるの?」

どうせ無理なくせに。私以外に大切なモノがいっぱいあるテツくんには絶対無理。
頭の中でふと桃色が掠め、眩暈がした。
私が嘲笑うとテツくんは顔を歪めた。ごめんね。私が普通の性格だったなら、そんな表情させなくて済んだのに。

「今のままじゃダメなの?」

出てきたのは何回もテツくんに言った言葉だった。
今の距離感が一番丁度いいんだよ。これ以上近付いたらテツくんが壊れてしまう。私も可笑しくなってしまう。そして待ち受けているのは別れのみだから。
テツくんを抱き締めると背中に腕が回ってきた。

「なんでそこまでして拒否するのか聞いてもいいですか?僕のこと好きじゃないからですか?」

「そういうのじゃないよ。私、付き合ったら束縛しちゃうから」

今まで私の束縛癖が酷くて何度もダメになった。それで私はちゃんとした付き合いをすることを諦めた。この異常なまでの執着心と独占欲はメンヘラ病院に行っても治らなかったし。結局傷付きたくないから都合のイイ関係に逃げた。来る者拒まず去る者追わずが一番楽で楽しくて、精神状態も安定する。
相手が一人だけだと、結局その人を束縛してしまうから私にはヤリマンが似合っている。

「名前さんになら束縛されてもいいです」

「今までのヤツらも皆そう言ったけど、絶対続かなかった」

「僕は大丈夫です」

「じゃあさ、バスケやめれる?私以外に大切なものがあるなんて許せないから」

私はテツくんからバスケを奪いたくない。でも、きっとテツくんが私のモノになったらバスケに夢中なのが許せなくなると思う。私以外にいらないでしょなんて思ってしまう。
それでやめてくれないなら、きっと浮気する。浮気してる罪悪感で相殺してなんとか我慢する。そんな自分の性格は自分が一番分かっている。
テツくんへの想いを認めたら、テツくんは離れていく。そんなのは絶対嫌だ。

「それは……」

「無理でしょ?だから今のままが一番いいんだって」

俯いたテツくんに笑いかける。
テツくんからの好意だけで私のモノだと満足出来ている今が一番いい。
お願いだからもう私の心の中を乱さないで欲しい。抑えられなくなったら、嫌な思いをするのはテツくんなんだから。

「でも、名前さんが他の男といるのは耐えられないんです」

「バスケ一番なテツくんにそんなこと言われる筋合いはない。私にこんなこと言わせないでよ」

私のキツい言い方にテツくんは肩を揺らした。つい怒ってしまった。だから嫌なんだ。こうして傷付けることしか出来ない。
こんなやりとりばかりしなきゃいけないなら、もう離れていって欲しい。
考えるのも面倒だし疲れた。

「名前さんごめんなさい。このままでもいいので、側に居させて下さい」

テツくんにこんなようなことを言われたのは何回目だろう。いつも同じことの繰り返し。
私には楽しいことしか必要ないから、もうこういう話題は二度と出さないで欲しい。
今にも泣き出しそうなテツくんの表情が頭にこびり付いて離れなくなった。
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