頭がガンガンする。
目を開けるのも億劫で、暗い視界の中なんでこんなに頭が痛いのかを思い出そうとすれば、記憶はすぐに掬いあげれた。
確かテツくんに会いたいと言われて、だけど数日前征ちゃんに付けられた傷跡を見られたらなんて言おうかと考えてるうちに面倒になって断ったんだった。
そしてなぜか自分に嫌気が差して神奈川のホストクラブに酒を浴びに行った。いや、浴びに行ったっていうのは比喩だけど。本当に浴びたわけじゃないただ浴びるように飲んだだけ。
確かトイレで吐きまくった気がする。あの状態でどうやって家に帰ったんだっけ。そもそもここは家なのか?
飲みすぎるとよく知らない場所で目を覚ますという、酷すぎる酒乱さは自分がよくわかっていたので、重たい瞼を上げた。
案の定、目の前は知らない天井。

「あー、喉かわいた」

自分が発した声は酷く掠れていた。酒やけか、もしくは胃液でやられたか。
体を起こそうとすると全身が酷く痛み、起き上がれない。どうしよう。小さく溜め息を吐くともそりと隣で何かが動く気配がした。
視線をやると、そこにはうっすらと目を開けた金髪。

「あれ?名前さん起きてたんッスか?」

確かコイツは、テツくんの友達の涼ちゃん。
あんま覚えてないけど多分そうだ。チャットアプリでのやりとりだけで、会ったことがあるのは一回なので覚えてないのもしょうがないと思う。

「涼ちゃん、だよね?なんでいるの?」

掠れた声を喉から絞りだし聞いてみると、酷いッス!と泣き真似をされた。
うざい。男が泣き真似とかうざい。酷いことを思いながら冷たい視線を向けた。最近の私は荒んでいると思う。
それにしてもなんで涼ちゃんと一緒にいるのかがわからない。ホストならわかるけどなんで涼ちゃん?

「名前さんが電話してきたのに!俺焦ったんッスよ?」

「なんで」

素っ気無いのは許して欲しい。頭も体も痛いし、倦怠感が酷くて人に優しくしてあげる余裕はないのだ。
私の態度の酷さにか、涼ちゃんは一瞬だけ無表情になったあと、困ったような笑顔で言葉を発した。

「名前さんからの電話出たら、痛い死んじゃうー!って泣きながら言われてすっ飛んで来たんッスよ」

「覚えてないや、ごめんね」

「いや、居た場所がタクシー使えば近い距離でよかったッス。名前さん頭から血流れてんのに病院嫌がるし」

涼ちゃんは苦笑しながら私の隣に腰掛け、私の後頭部へと視線を移した。
頭から血?自分の頭を触ると、包帯が巻かれていた。鏡確認しなきゃ本当に包帯かわかんないけど。

「どっかにぶつけたかな」

「本当に覚えてないんスか!?俺が着いたときには、一緒にいたホストのオニーサンはうろたえてるし、名前さんは病院ヤダー救急車呼んだら死ぬー!とか泣き喚いているし。なんかビルの二階から飛び降りたらしいッスけど……」

そう言った涼ちゃんの表情は険しい。
ええええええ。なにそれ覚えてないし飛び降りるとか自分でドン引きなんだけど。
頭がガンガンと痛いのも、体中が痛いのもそのせいなんだろう。

「なんかまじ迷惑かけちゃったみたいでごめんね。タクシー代と迷惑料払うわ」

しかも素っ気無い最悪の態度を取ってしまった。
感謝の気持ちを表すのは苦手なので、お金を払おうと申し出ると断られた。

「大丈夫ッスよ。それにその……ヤったのは覚えてます?」

「覚えてないけどいいよ、うん」

「俺、中に出しちゃったんスよね……」

「あー、それはあまりよろしくはないね」

涼ちゃんはめっちゃ申し訳なさそうだ。まぁピル飲んでるから大丈夫だろうが、酔っぱらってしかも怪我してる人間に中出しってどうなんだ。
まぁ多分セックスしたがったのは私の方だろうし、でもピル飲んでるからいいよと少し笑みを浮かべて告げた。





見覚えのないこの部屋は、涼ちゃんが一人暮らししているマンションらしい。
征ちゃんも涼ちゃんも、高校生のくせにマンションで一人暮らしってどうなの。
私もアパートからマンションに引っ越そうかな。でも高校生に対抗して引っ越すっていうのもちょっと癪だな。
骨などは折れていないみたいで、なんとかリビングまで歩き現在はソファーで寛いでいる。
人の家でも気にせず寛ぐのが私クオリティー。
涼ちゃん宅は私の家より片付いていて、なんだか女として終わっていると言われてる気分になった。最近被害妄想が激しい。

「名前さんしばらく泊まってったらどうッスか?その体じゃ家帰るのも辛いでしょ」

「うーん、いいの?」

「いいッスよー。名前さん俺に惚れたりしなさそうだし」

先ほどのようにまた一瞬無表情になったと思ったら、今度は人懐っこい笑みを浮かべた。

「あー、惚れたりは確実にないかな」

「やっぱり。名前さんって俺と同じ匂いがするんスよね」

多分涼ちゃんも私も、恋愛に本気になったり出来ない人間。
私も最初に会ったときから涼ちゃんは同種なんだと感じていた。
だから好みじゃないというか、テツくんと出会って趣味が変わったから涼ちゃんに興味を持たなかったんだと思う。
イケメンなんだけどね、初々しさがないというか。

「じゃあしばらくここで引きこもらせてもらおうかな」

私がそう言うと、涼ちゃんはよろしくッス!と私の手を握ってきた。

「あ、でも病院は行かなきゃだめッスよ」

涼ちゃんの言葉に苦笑を浮かべながら私は頷いた。
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