※お友達のところの話とビミョーに繋がってる


今日はちょっと大きめのホールに来ている。
天帝にハマる前まで本命だったバンドのワンマンライブが比較的地元に近い横浜で開催されるから行くしかない!と思わずチケットを取ってしまったのは数ヶ月前のこと。チケット届くまで忘れてたよ。
そのバンド――桐皇は私が上がったあとメジャーに行ったらしく、最近は結構人気みたいで少し寂しく感じる。
よくインストとか行ったなー。懐かしいな。
今日は指定席だからテンションちょっと下がってたけど、ホールのサイトで席を確認したら下手二列目。しかも大輝ドセン。大輝本命だった私はすぐにテンションが上がった。
そして二列目と言っても最前は空席だから実質最前。数年離れてたのになにこのキセキ。見えない何かが私をファンに戻そうとしてるのかって思った。
会場に入って席に着くと、隣の人がこちらを見た。その美人さんは私を見て驚いた表情を浮かべた。

「天帝のライブでペットボトルキャッチしてた人ですよね?」

「あ、もしかして開演前に声かけてくれた方ですか!?」

隣の席の人がまさかの天帝ギャさんということで私のテンションは更に上がる。
人見知りも完璧に治っていた私は更に話しかけることにした。

「桐皇では誰ファンですかー?」

「あ、桐皇は友達にチケ譲ってもらって初めて来たんですよ」

「そうなんですかー、桐皇のライブ面白いですよ!」

もう美人さんすぎて、思わずニヤニヤしながら話しかけた私に多分引いてるんだろうけど、そんな様子も見せずに笑顔でずっと話し相手になってくれて感謝。優しい。私優しい人好き。初対面だけど好き。
そんなことをしているとSEが流れてきたので話しかけるのをやめて前を向く。

「大輝ぃー」

ドラムとベースのあとに大輝が出てきたので咲き乱れる。大輝はお立ち台の上でギターをひと舐めしたあと下手にやってきた。
近い。インスト行って握手したり話したりしたことあるし、小さい箱で最前に入ったこともあるのに、ホールの指定席からステージまでの距離を近いと思った。
もう何年も生でみてなかったからだと思う。なんかセンチメンタルになりそうだ。鬼ごっこの方じゃないよ。
最後に良ちゃんが出てきた。咲こうか迷ったけど良ちゃんだし。私はデスボでセンターへ向かって叫んだ。


「良かかってこいやー!」

他のギャたちもデスボで良ちゃんを煽っている。

「ハイ、スイマセン!皆もかかってきてください!」

良ちゃんは謝ったあと控えめにバンギャを煽った。良ちゃん煽るの下手でもその分他のメンバーやファンが煽るからつまんないライブになることはない。
隣のバンギャさんは桐皇特有のライブ風景に少し驚いていた。

「最初はサトリですよ、頭振ってください!」

良ちゃんが放った曲名にテンションカンストした私は頭と髪を振り乱す。
ちらりと見えた隣の人は手バンしていた。暴れるの苦手なのかな。

「ホラ、そこ頭振ってくださーい!」

最近ライブの行きすぎなせいかすぐに首が痛くなった私は休憩しようと顔をあげると、ちょうど良ちゃんが下手にきて私の隣のギャさんを指差して煽っていた。
するとそのギャさんは頭振り始めた。ヘドバン上手い。ヘドバンに上手い下手があるかはわかんないけど上手い。暴れギャさんだったのか。初めてのバンドで最初テンション上がらなかっただけなのかな。
首が痛い私は良ちゃんを煽ることにした。

「良頭振れー!」

もちろんデスボで中指おっ立ててやった。良ちゃんは肩を揺らしヘドバンし始める。
久々でも、桐皇のライブは体に染み付いているらしい。
そのあとも暴れまくっていたら、せっかくの最前なのに大輝見るの忘れた。なんてこった。


 * * *


隣の席だったギャさんと帰りに連絡先交換したりして数日。
私はまた涼ちゃんに飲みに誘われて居酒屋へとやってきていた。
涼ちゃん曰く「名前っちギャ除けに連れてく」らしい。じゃあなんで飲み会参加するの?って思ったけどスルーした私いい子。
そして飲み会には桐皇のメンバーも来ていた。え、なんで。私がチラチラと大輝の方を見ていると、隣に座っていた涼ちゃんが声をかけてきた。

「あれ、大輝っち気になるの?」

「違うよ……昔本命だったから」

正直私はショックを受けた。バンドマンなんてほとんどが飲み会開いたりサイト使ってセフレや貢ぎを作ってる。だけど本命だったバンドマンの見てはいけない裏の顔を目の当たりにしてショックだった。
でも赤司さまが居なくてよかった。赤司さまがバンギャとの飲み会参加してるとか知ったらショック死する。いや多分参加はしてるんだろうけど生でそんなとこ見たくない。

「大輝っち本命だったんスか!?俺、元々友達だった大輝っちがバンドやってんの見て憧れてバンドやりはじめたんスよー」

そしていらない情報ありがとう。赤司さまといい大輝といいテツくんといい、私の好きなバンドマンと友達だという涼ちゃんに少し嫉妬。
やっぱり私は涼ちゃんの隣で他の人と話すこともなく飲み始める。

「涼太、久しぶりだなー」

しばらく飲んでいると、大輝が歩いてきて涼ちゃんの隣へと座った。私はパニくりそうになった。

「大輝っち!まじ久しぶりッスねー」

「お?確かアンタこの前のライブ来てなかったか?」

こっちをジーっと見ている大輝から視線を逸らす。確実に私に話しかけてる。勘違いだと思いたいけど無視はできないから目を見ないようにして答えた。

「あ、ハイ……」

「やっぱりな」

あーもう消えたい。まじ消えたい。涼ちゃんのバカ。なんで私のこと誘ったんだ。ギャ除けなら他の子誘えばいいのに。
私は瀕死になりながらも涼ちゃんの服を引っ張った。

「ねぇ、私帰ってもいいかな……」

「名前っちが帰っ」

「は?何言ってんだよ一緒に飲もうぜー」

涼ちゃんの言葉を遮った大輝は涼ちゃんを押しのけて真ん中に入ってきた。そして涼ちゃんが泣き真似を始めた。カオス(私の心情が)ってこういうことを言うんじゃないだろうか。

「涼太ほら飲めよ」

「もう飲んでるッスよ!」

「何怒ってんだ」

なんだか二人で盛り上がり始めたから私はケータイを弄ることにした。そんな私を気にすることもなく飲み続ける二人に安心する。これ以上大輝に話しかけられたら私の気力がなくなる。
赤司さまのブログをストーカーの如くロムっていると、肩を叩かれて思わず隣へと向いてしまった。

「わりぃ、涼太潰れちまった」

その言葉に視線の先を見ると、涼ちゃんがテーブルに突っ伏していた。
どうしたらこの短時間でこんなになるまで潰れるんだろうか。

「あ、じゃあ連れて帰ります」

「ちょっとくらい放っておいても平気だろ。飲もうぜ」

「いや、」

「ほら、飲めって」

口に無理矢理グラスを押し付けられ、水割りが咥内へと流れ込んできた。
やっぱりというべきか、勢いがよすぎてかなり零れてしまった。

「つめたっ」

「あー、わりぃ。拭いてやるから」

大輝は新しいおてふきで私の口元や首筋を拭くと、谷間におしぼりを突っ込んで拭き始めた。その顔は笑っている。

「おっ、やっぱおっぱいデケーな」

私の頭は真っ白だ。今まで見てきたステージ上の大輝はMCでもあまり喋らずストイックなイメージがあったから、そのギャップに唖然。
そんなギャップいらないよ。もうまじ私の夢壊さないで!なんて思いながら曖昧に笑うことしか出来ない。

「なー、ちょっと抜けねー?」

「でも涼ちゃんが」

「あと数時間は皆ここにいるはずだし大丈夫だろ」

「大丈夫じゃ」

ない。そう続けようとしたら、大輝に手を引っ張られ立ち上がらせられた。
そのまま連れていかれそうになったからバッグを急いで手にする。
引き摺られるように外に出され、すぐ側にあったラブホへと連れ込まれた。

「なんで抵抗すんだよ」

ラブホの室内へと入った大輝は眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。
来たくなかったから抵抗したのに、わからないのだろうか。

「あ、もしかして良か翔一サンのファンだったか?」

「いや……」

「じゃー俺のファン?」

「ハイ……」

「だったらいいだろ。おらベッド行くぞ」

ファンだから嫌なんですけど!って言いたいのに言えない小心者な自分を呪いたい。
また腕を引っ張られてベッドへと座らされた。
そしてキスされたりなんだりして、結局流されてヤってしまった。


 * * *


情事後、私は自己嫌悪で死にたくなっていた。
一時期ちょっと繋がりたいとか思ったこともあったけど、まさか本当に元本命麺とヤってしまうなんてありえない。
夢が壊れた。さらば私の青春の思い出。どんなに好きでも本命麺とだけは繋がったらいけないって気付いた。楽しかった思い出の一ページが汚れたよ。今日のこと思い出しそうだからもうライブ行けない。この先桐皇の曲聞くたびに思い出さなきゃいけないのかな。キレイな記憶よ永久にさようなら。
半泣きになりながらベッドに突っ伏していると、大輝が私の頭を撫でた。

「わりぃ、泣くほど嫌だったとは思わなくてよ」

「私の中の大輝が汚れた。桐皇が汚れた」

「あー、まじわりぃって」

「もうやだ……」

「なー、連絡先教えてくれよ」

大輝は話を逸らすことにしたらしい。無気力になった私は力が出ない腕でなんとかバッグの中からケータイを取り出し、プロフィールページを表示して大輝へと差し出した。そしてすぐにまたベッドに顔を埋める。

「俺のも登録しとくからいつでも連絡してこいよ」

私は返事もしなければ頷きもしなかった。
この数年後、桐皇の曲をカラオケで歌ってみたら案の定夢が壊れたこの時のことを思い出して号泣することになる。
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