涼ちゃんと出会って四ヶ月。私は自他共に認める糞ギャになっていた。
バンドマンとバンギャル用の出会い系サイトのようなもので、バンドマンを釣っては遊びまくっていた。貢ぎをするほどの余裕はないので、ただ奢って遊んだりホテル行ったりするだけ。それでもしょっちゅう元カレに奢ってた金額を考えると可愛いモノだった。
なぜこうなったのかというと、由孝さんとヤっちゃった日になんか色々と吹っ切れたから。
涼ちゃんが教えたのか、あれから由孝さんから連絡が来るようになってちょくちょく会っている。
勿論涼ちゃんとも変わらず会っている。
今の生活がすごい楽しかった。充実していると感じられてハッピー。
人見知りも治ってきた。バンドマンって実は人見知りする人が多いから、治らざるを得なかった。涼ちゃんみたいにコミュ力高い人は逆に珍しい気がする。
そんなわけで今日待ち合わせしているのは、紫髪の長身バンドマン。派手髪じゃないとパンピかどうか見分けられなかったりするので私は派手髪のバンドマンばかりを探した。

「ねえ、キミが名前ちん〜?」

新宿にあるボウリング場の前で待ち合わせしていると、横から間延びした声が聞こえた。
視線をやると、紫色の髪をした長身の人がサングラスかけて立っている。服装はジーパンにパーカーというラフな格好だった。お兄系じゃなくてよかった。

「あ、そうですー。どこ行きますかー?」

もうこのやり取りにも慣れた。いつものセリフを吐くと、紫色の人は唸ってなにやら考えている。
それにしてもこの人ホントにでかい。でかいにもほどがある。実は二メートル超えてたりして。
私の視線を急かしているように感じたのか、紫色の人はあ、と声をあげた。

「なんかお菓子食べたいんだけどー」

「お菓子なら漫喫にも売ってるし、それでいい?」

ここからすぐ傍にあるカエルがマスコットキャラになっている漫喫がある。そこに行こうと歩きだすと、すぐに追い越されてしまった。足が長いからなの?羨ましい。

「ねぇ、なんて呼べばいい?」

「言ってなかったっけー。敦だよ」

「敦くんね、了解」

人って案外簡単に変わるものだ。
つい敬語使っちゃってた私が、今ではついタメ口使っちゃうくらいには簡単に変わる。
受付でフラットタイプの席は満室だと告げられ、仕方なしにソファータイプのペア席を頼んだ。
そしてお菓子を買うのも忘れない。受付前にあるお菓子を見ていたら敦くんがお店の人を呼んだ。

「これ全部ちょーだい」

「えっ、全部食べるの?」

「ちょっと足りないくらいなんだけど」

最近涼ちゃんが、他の女に貢がせたお金を横流ししてくれるから結構余裕あるし金銭的には問題ないんだけど、明らかに一人で食べられる量じゃない。

「胃袋ブラックホールなの?」

「こんくらい普通だしー」

身長がデカい分胃袋もデカいのだろうか。レジに表示された金額に若干引きながら財布を取り出すと、敦くんが制止してくる。

「自分で払えるしー」

「うん?そう?」

私が知らないということはきっと有名ではないんだろうに、敦くんは自分で支払いしていた。
こんなのバンギャに払わせればいいじゃんなんて思ったけど口には出さなかった。
やっぱ貢ぎにお金貰ってんだろうな。
席に着くと、やっぱりというかなんというか少し窮屈だった。

「ねー、なんてバンドか聞いてもいい?」

とりあえず私がまず聞くことはこれだ。別に教えてくれてもくれなくてもいいんだけど、そこから会話が広がると結構楽。頑なに教えないというバンドマンもいれば、簡単に教えてくれてアー写とか見せてくれる人間もいる。
私の言葉に頷いた敦くんはなにやらパソコンでググり始めた。

「俺のバンドこれー」

覗き込むと、そこにはLARGEというバンド名と結構しっかりしてるレイアウトのオフィサ。
ドマイナーには違いないんだろうけど、結構人気あるのかな。私はマウスで操作してサイトを見始める。

「あ、これ敦くんだ」

「そー。化粧してないと全然違うっしょ」

いつの間にかサングラスを外していた敦くんは眠たそうな顔をしていた。いや、ぼやけた顔とか言いたいんじゃなくて、多分本当に眠いんだと思う。
化粧と表情でここまで変わるんだ。画面に表示された敦くんの画像はすごいカッコよかった。
涼ちゃんは所謂キラキラ系のバンドで、化粧も薄くてそんなにギャップがない。
やっぱビジュアル系だなと何故か納得。

「なんでこの緑の人、たぬきの信楽焼き持ってんの?」

メンバー全員で写ってる画像を見ていると、カッコいい雰囲気の中で何故かミスマッチな物体が混じっていた。

「それラッキーアイテムらしーよー。ミドちんいっつも変なモン持ってんだよねー」

どうやら小道具とかではなく緑の人の私物らしい。ラッキーアイテムだとしても、撮影の時まで持ってるってなんか可笑しい。それどころかこんなデカいものいっつも持ち歩いてるのかな。
思わず笑うと、敦くんが私の顔をガン見していた。

「名前ちんさー、いっつもこんなことしてんのー?」

「こんなこと?」

「バンドマンとこうやって会ったりしてんの?」

「んー、そうだけどなんで?」

「なんでこんな純粋そうな子がバンドマンと出会ってんのかなーって思っただけー」

純粋そうとか初めて言われた。涼ちゃんだって絶対最初糞ギャだと思って声かけてきたに違いないのに。
確かに今日は大人しめの服装かもしれないけど。なんだか敦くんの言葉に少し嬉しくなった。

「敦くんもあんまあのサイト使ってる雰囲気しないね」

「んー、俺暇なのキライだし」

敦くんはあくびを漏らしてお菓子を食べ始めた。
その後はゆったりした時間が流れて、初対面のバンドマンと会ってるのに昔からの友人と会ってるかのように落ち着けた。
お互い捨てアドしか知らなかったけど敦くんに聞かれて本アドと電話番号を交換して、その日は体を重ねることなく別れた。
たまにはこういうのもいいかもしれない。私は気分上々で帰宅した。
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