彼氏(一応)はあれから何回も連絡してきたけど全て無視した。
だって、ちゃんと付き合ってるかも分からないのに別れようなんて言葉は言えないし、自然消滅する他に選択肢はないと思った。
そして涼ちゃんとは週1くらいのペースで会っていた。
初めての日にホテル代を払おうと思ったけど断られ、それからも涼ちゃんが出してくれている。
涼ちゃん曰く「他の女の子に貢がせてるから平気ッス」らしい。
でも所詮ドマイナーバンドなのだ。バンギャルに貢いでもらってると言ってもたかが知れてると思う。
でも私はお言葉に甘えることにした。フリーターで普通のバイトをしている私が稼げる金額もたかが知れてる。
よく彼氏(一応)に奢らされていたんだけどそれがなくなった今、少し余裕が出来たくらいだ。

「今度皆で飲みするんだけど名前ちゃんも来る?」

いつものホテルで情事後ゴロゴロとしていると、涼ちゃんが私の頭を撫でながら問いかけてきた。

「知らない人と話せないし、お金も余裕ないし遠慮しとく……」

多分バンドマンや繋がりが来るんだろう。糞ギャになってやると思ったけど別に涼ちゃんに紹介して欲しいわけではない。
私が断ると涼ちゃんは眉間に皺を寄せた。

「お酒入れば大丈夫ッスよ。飲み代はうちのメンバーの貢ぎが全部支払うし」

何故その子が全部支払うことになったのかとても気になるんだけど。
でも聞いていいのかな。思わず無言になってしまっていると、聞く前に涼ちゃんが教えてくれた。

「なんか俺目当てでメンバーの貢ぎになって、紹介してって言われたらしいんスよねー」

「じゃあ尚更私行かないほうがいいんじゃ?」

「いや、その子すっげーブスらしいんスよ……可愛い子いなきゃ飲む気起きねーし」

「私行ってもブス増えるだけだよ」

「ブスだったらこんなにしょっちゅう会ってないッスよ」

涼ちゃんは笑いながら唇を重ね合わせてくる。
彼氏(一応)が他の子ばかり褒めていたからどうやら卑屈になっていたらしい。でも植え付けられた感情はなかなか消えない。
ブスからちょい普通にレベルアップしたと思うことにした。

「じゃあ、バイトのシフト調整するから日にち教えて?」

「来週の日曜ッス。てか名前ちゃんなんのバイトしてんの?」

「コンビニだよー」

「うっそ。キャバだと思ってたんだけどよく考えたらその人見知り具合だと無理ッスね」

涼ちゃんはなんか大爆笑してる。失礼な。でも私にキャバで働けるわけがないからそんな言葉はいえない。
この口下手さだとお客さんが怒って帰ってしまいそうだ。
そんな感じでいつも涼ちゃんはコトあるごとに私の外見と中身のギャップに笑っていた。


 * * *


飲み会当日、私はお嬢系の服を着て髪の毛をゆる巻きにしてメイクもいつもよりかはナチュラルにして涼ちゃんの隣に座っていた。
それは涼ちゃんが「大人しめの格好で来て」と言ったからだった。
普段の服装で来てキャバ嬢だと勘違いされて、他のバンドマンに貢ぎにされそうになるのを回避したかったらしい。
でも私の格好を見た涼ちゃんは盛大に顔を顰め「全然大人しめじゃない」と軽く頭を叩かれた。
居酒屋の中で、知らない人に囲まれて俯いている私を見兼ねた涼ちゃんが、お酒をいっぱい飲ませてくる。

「名前ちゃんまだ酔わないんスか?」

涼ちゃんと飲んだのはこれが初めてだったから酔わないことに驚いていた。
ちょっとの量じゃ酔わないし、いっぱい飲んでも後から一気に来るタイプだから涼ちゃんは私が酒に強いと思ったのだろう。
ちょっとふわふわするけど、顔色には出てないから涼ちゃんは気付かず、私のお酒を何回も注文している。
そんなことをしていると、肩を叩かれた。

「ねぇ〜、席交換しよぉ〜」

振り返ると姫系ファッションの子が立っていて、この子が涼ちゃんを狙っているギャだと気付く。
言っちゃ悪いけど本当に私よりブスだった。顔を引き攣らせながらバッグを持って立ち上がる。

「いいですよ」

「私が座ってたトコあっちだからぁ〜」

明らかにぶりっこっぽい喋り方と仕草でお礼を言った彼女にまた顔を引き攣らせる。
別にぶりっこが悪いという訳ではない。それだけ異性に可愛くみられたいと思う女の習性だ。
だけど、なんだろう。どうしてもぶりっこが似合う顔ではなかった。正直ドン引きしてしまった。
言われた席まで行く途中、恨めしそうに私を見ていた涼ちゃんと目が合って苦笑。
お邪魔しますと言われた席に座ると、隣の人が私をガン見してきた。

「キミ、もしかしなくとも涼太の繋がりだろ?同じバンドの由孝って言うんだ。ヨロシク」

「あ、名前です」

「キミみたいな可愛い子が隣に来てくれて嬉しいよ!本当に可愛いねすごい可愛いずっと会ってみたいと思ってたんだこれはもう運命としか言いようがない」

「えっと」

黒髪イケメンの由孝さんになぜかマシンガントークで褒め称えられ、運命とまで言われてしまった。
あまり褒められ慣れていない私は苦笑することしか出来ない。そして、なぜ私の存在を知っているんだろう。

「私のこと知ってるんですか?」

「涼太にハメ撮り見せてもらったんだ」

What?一瞬なんのことを言っているか分からなかったけど、すぐに思い出す。
涼ちゃんが「晒したりしないからお願いッス!」と頼み込んできて動画撮影されたことを。
確かに晒されてはいないけど、メンバーに見せたんだ……恥ずかしいよりも顔面蒼白だ。
由孝さんはそんな私を気にもせず、話しかけてくれたりお酒を頼んでくれたり、料理を取り分けてくれたりした。
流石にこれだけの量を飲まされたら酔いが回ってくる。トイレ行ってきますと覚束ない足取りで席を立つ。
視界の隅で、私の様子に気が付いた涼ちゃんが席を立とうとしていたが、あのブスな子に引き止められていてげんなりした表情を浮かべているのが目に入った。

「ごめん、飲ませすぎちゃったかな」

女性用トイレから出ると、壁に寄り掛かっていた由孝さんが私の腰に腕を回してきた。

「だいじょーぶだよー。由孝さんは酔ってないのー?」

アルコールが回りきって陽気になった私は、人見知りすることなく普通に喋れた。タメ口な辺り普通以上に喋れる。

「フラフラしてるよ。ちょっと酔い覚まそうか」

由孝さんは私の顔を覗き込んできて優しく笑ったあと、何故か男性用トイレの個室へと私を連れて入る。
でも酔っ払っているから、疑問を抱けないのはしょうがない。
便器のフタの上へと座らせられると、途端に由孝さんの舌が咥内へと侵入してくる。

「一回名前ちゃんとヤってみたいって思ってたんだ。ちゃんとゴムつけるからいいだろ?」

耳元で囁かれ、ゾクリと鳥肌が立つ。すでに理性のカケラも残ってなかった私は頷いてしまった。

「いっぱい苛めて」

「本当に可愛いね。あの涼太が気に入ってるわけだ」

首を絞められながらキスされ、何も考えられなくなった私は快楽を求め続けた。


 * * *


由孝さんにバックで突かれていると、トイレに誰か入ってきた気配がした。
それでも私の声は漏れるし、由孝さんもやめようとはしない。

「……名前ちゃん?」

トイレにやってきたのは涼ちゃんだったらしい。個室のドアの向こうに気配がする。

「涼ちゃ、あっ……!」

由孝さんは気にしていないのか、動きを止めてはくれない。それどころかまた私の首を絞めてきた。

「涼太、今イイトコなんだから邪魔するな」

「あー、由孝クンだったんスかー。どーすっかな。早く名前ちゃん返して欲しいんスけど」

「じゃあ涼太も混ざるか?」

首から手を離され咳き込むと、今度は顔を埋められ首筋を噛まれまた喘ぎ声が漏れる。

「いや、もうそろそろお開きッスよ」

「じゃあ急ぐから席で待っててくれ」

「……わかったッスよ」

ガチャリとトイレのドアが閉まる音が聞こえ、由孝さんは更に激しく動き出した。
激しすぎて痛いけど、その痛さが気持ちいいと思う私には問題がなかった。
ゴム越しに欲を吐き出され、私は崩れ落ちそうになる。すかさず由孝さんが抱き留めてくれたおかげでトイレの床に接触することは避けられた。
後処理をしてもらってる間、私はボーっとバカなことを考える。
首絞めるのは涼ちゃんのほうが上手いだとか、噛むのに遠慮なくていいのは由孝さんだなとか。
衣服の乱れを直してもらい、トイレを出て歩こうとするけど上手く歩けない。
酔いを覚ますどころか余計にアルコールが回ってしまったらしい。
支えられながら席へと戻ると、涼ちゃんが駆け寄ってきた。

「名前ちゃん、大丈夫ッスか?」

「んーだいじょーぶじゃなーい」

涼ちゃんを狙っている子がいることも忘れ、由孝さんの隣から抜けて抱きつくと涼ちゃんは溜め息を漏らした。

「俺が連れて来ちゃったせいッスね。ごめん」

「なにがー?」

「気にしてないならいいんスけど」

頭を撫でられていると、さっきの涼ちゃん狙いの子が近づいてきた。

「涼太ぁ〜この後どっか寄ってかない?」

「あー、明日バイトあるんで無理ッス。ちょっと飲みすぎちゃって辛いからタクシー代もくれない?ダメ?」

私を席に座らせた涼ちゃんはその子に顔を近付けてお願いし出した。
バンドマン怖い。貢がせる瞬間を見たのは初めてでちょっと引いた。
相手の子は、不満そうな表情を浮かべながらも嬉しそうに財布から万札を十枚近く出して涼ちゃんに渡している。
それでいいの?え、あげちゃうの?まだまともと言える範疇にいる私には理解のできない世界だった。

「あとー、その子からちょっと飲み代もらいたいんだけどぉー」

「じゃあ一万返すからそれでこの子の分払っといて欲しいんスけど」

怖い目つきで見られ、どうしようかと思っていると涼ちゃんがすかさず割って入ってきてくれた。
よかった。払ったら今月あまり余裕なくなっちゃう。酔っ払っている私は、自分が涼ちゃんと同類だとは気付けない。

「えっ。それ涼太のタクシー代だしいいよぉ〜じゃあその子の分も私が払っといてあげるねぇ」

そう言ってるけど更に睨まれた。怖い。女って怖い。
涼ちゃんは奢らせ女の子を楽しませるわけでもなくテキトーに飲んだだけでお金をゲットしていた。バンドマンはホストよりえげつないと言われているだけある。ホスト行ったことないからホストがどんなんだかわからないけど。
居酒屋を出て冷たい風が体を刺激し、震えていると涼ちゃんが上着を肩にかけてくれた。

「今日ここら辺のホテル泊まってこっか」

「明日バイトはー?」

「あんなん嘘に決まってるッスよ。俺バイトなんてしてねーし」

今日金いっぱいあるからいい部屋泊まれると喜んでいる涼ちゃんを見て、少し優越感が沸いて出てきてしまった。
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