夜の新宿アルタ前。私は人が行き交うのを眺めながら、サイトで釣ったバンドマンを待っていた。
今日は夕方まで敦くんと遊んでいたんだけど、そのまま家に帰るのもなんかつまらない気がしたから今から会える人を募集した。
ホストのキャッチやキャバのスカウトが多くてげんなりしていると、また声を掛けられた。

「キャッチならお断りです」

「キャッチじゃねーんだけど。名前ちゃんだよな?」

名前を呼ばれたので声がした方へと視線をやると、そこには高身長のバンドマンっぽい人が立っている。
もしかしてこの人なんだろうか。

「あ、そうですけど」

「さっきメールした清志だ。よろしくなー」

「うん、よろしくね」

「とりあえず飯食いに行こーぜ」

私の手を取って歩きだした清志くんの後ろ姿を見て、あれ?と疑問に思う。
どこかで見たことある。そして清志って名前も聞き覚えがある。確か、敦くんの――思わず声をあげた。

「もしかして、LARGEのボーカル?」

「ライブで見かけたことねーけど俺のこと知ってんの?」

「あ、敦くんとちょっとした知り合いなんだよね」

「あー、敦の貢ぎ?」

「ただ遊んだりするだけだよ」

私がそう言うと清志くんは立ち止まって振り返った。
清志くんはサングラスをかけてるからどんな表情をしているかはわからない。

「あぁ、敦が噂してた子か」

「え?」

「いや、なんでもねーよ」

清志くんはまた歩きだしたから小走りで着いていく。足の長さが違うんだから速度落として欲しいなーなんて思っても口には出せなかった。
5分もそんな速度で歩いていたらさすがに息が乱れる。立ち止まった清志くんは私を見て笑った。

「体力ねーな」

「歩くの早いんだもん」

「そーか?あ、ここ入ろうぜ」

清志くんが指差したのは目の前に立っているカラオケのチェーン店だ。
確かにここはまぁまぁご飯も美味しい。私は頷いて店内へと入った。
フリータイムで受付してもらい、私が先に部屋へ入って腰掛けると、清志くんは隣に座ってきた。

「何食おっかな」

「私お茶漬けにするー」

「渋すぎんだろ」

だって今日は敦くんがお菓子バカ食いしてるところをずっと見ていたのだ。見てるだけで胃もたれしたからさっぱりした物が食べたい。
清志くんは大盛りチャーハンとラーメンを頼んでいた。また見てるだけで胃もたれしそう。

「なー、今日この後どうすんの?」

「なにがー?歌うかってこと?」

「とぼけてんの?パイナップル投げんぞ」

敦くんと知り合ってからLARGEのことを結構調べてみたりしたけど、それライブ中に言ったファンの間で伝説となってる言葉じゃないの?いいの?私に言っていいの?
清志くんは笑っていたけど、こめかみに青筋浮かんでるから怒ってるんだと思う。怒られる意味がわからない。

「え、怒ってるの?怒んないでよ」

「はぁ……もう怒ってねーよ。今日は泊まってくかって話だ。俺ん家来るか?」

「え、いいの?」

「よくなかったら言わねーから」

今日知り合ったばかりのバンギャルに家を教えてもいいんだろうか……。でもいいと言ってるし私は頷いた。
それにしても清志くんの話し方はちょっと苦手だな。なんか、話すたびに怒られてる気分になってちょっと怖い。

「で、どうすんの?来んの?」

「あ、じゃあお邪魔させてもらうね」

頷くだけじゃ通じなかったらしい。やっぱり怒ってるのかも。予定あるとでも言ったほうがよかったかな。
涼ちゃんとか敦くんとか、優しいバンドマンしか知らない私からしたら、清志くんみたいな人の家に行くのは怖い以外のなにものでもなかった。


 * * *


清志くんの家にお邪魔した私はシャワーを借りた。
今は清志くんが入っていて私はベッドに腰掛けて待っていた。ここまで来たってことはヤるってことだよね。なんかサドっぽいし殴られたらどうしよう。痛いセックスが好きなくせに、殴られたりはさすがに嫌だった。
まだ私は糞ギャにはなりきれていなかったらしい。後悔が押し寄せてくる。まだバンドマンだと涼ちゃんと由孝さんとしかヤったことない。

「お前も飲むか?」

お風呂から出てきた清志くんは、飲みかけのミネラルウォーターを手渡してくれた。ちょうど喉渇いてたしと受け取って喉に流していく。
満足してペットボトルをテーブルに置くと、清志くんの手が伸びてきた。

「ヤっていいよな?」

私を押し倒して問いかけてきた清志くんは、乱暴な手つきで私が着ていた服を脱がし始めた。

「ちょっと、待って」

「あ?待てるわけねーだろ轢き殺すぞ」

「ひっ、」

私はマジで清志くんにビビッていた。轢き殺すってなに。恐怖で思わず涙が滲む。

「ちょ、なんで泣くんだよ。ごめん冗談だから、な?」

「怒んないで」

「わかった、優しくすっからさ」

慌てているもののやめる気はないらしい。私は半泣き状態でセックスした。でも清志くんは想像してたより優しかった。よかった。泣くなんて悪いことしちゃった。
朝起きて駅まで送ってもらっている途中、清志くんは顔を顰めて言った。

「もうあのサイト使わねーほうがいいよ。俺よりこえーヤツとかヒドいヤツなんて沢山いるぞ」

「あ、うん。なんかごめんね」

どうやら忠告してくれているらしい。
清志くんが悪い人じゃないって分かったので、私たちは連絡先を交換してその日は別れた。



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