いつものようにラブホのベッドで涼ちゃんとぐだぐだと過ごしていると、そういえば言わなきゃいけないことがあったんだと思い出した。

「そういえば、私夜もバイトしようと思ってるから会う暇なくなっちゃうかもしれない」

「は?え?なんで?」

私が告げると涼ちゃんは困惑していた。
あまり会えなくなるのはちょっと寂しい気もするけど、掛け持ちしないとお金が足りない。
今度天帝のツアーがあるから、やっぱファンとしては全通したい。でも貯金もあまりない私はバイトを増やすしかない。
涼ちゃんは私を抱き締めてきた。

「もしかして俺のこと切るつもりッスか?」

「違うよ。お金必要だからバイト増やさないと」

バンギャルはお金がかかる。いくらあってもいくら働いても足りないくらいにはお金がかかる。
私は苦笑しながら涼ちゃんを抱き締め返した。

「夜にバイトって何する気なんスか?」

「居酒屋かキャバクラで……」

「絶対ダメ。名前っちにはキャバとか風とかやって欲しくないんスよ」

「でも、」

「俺が貢ぎから貰った金名前にあげるから、今まで通り会おう」

「いやそれは……」

さすがに貢ぎの子が可哀想だ。キャバやるよりそっちのほうが人間として良くないと思うんだけど。私が断ると涼ちゃんは食い下がってくる。
それから30分くらい涼ちゃんは私を説得し続け、とうとう折れてしまった。

「え、じゃあ悪いけど……お願いします」

「いいんスよ。どーせ貢ぎか稼いだ金なんだし名前っちが気兼ねする必要ないよ」

そういうモノなんだろうか。納得してしまった私は涼ちゃんに毒され始めていると気付かなかった。
頷いた私に涼ちゃんは笑った。


 * * *


次の週、涼ちゃんとラブホへ入ると、紙袋を手渡された。

「名前っち、これ貢ぎがくれたんで売るなりなんなり好きにしていいッスよ」

受け取って中を見てみると、新品だろうスーパーブランドのバッグとサイフが入っていた。

「え、涼ちゃん使わないの?」

「別に俺そこのブランド好きじゃないんスよねー」

「でも使ってなかったら貢ぎの子が怪しむんじゃない?」

「どうしてもお金に困って質に入れたとか、勿体無くてなかなか使えないとか言い訳なんて色々あるじゃないッスか」

涼ちゃんが笑って言ったから確かに言い訳なんていくらでもあるなと納得。
私がお礼を言うと涼ちゃんは嬉しそうに笑った。そして封筒も渡された。

「それ20入ってるんで、好きに使って」

涼ちゃんは単位を言わなかったけど、バンドの世界での数字はほとんどが万のことだ。5000円だったら0.5。だから多分この封筒には20万が入っている。

「涼ちゃんの生活費は大丈夫?」

「今貢ぎ8人で月10ずつくらい貰ってるから余裕ッス」

単純に計算すると80万。なにそれバンドマンも貢ぐ子も怖い。
涼ちゃんはそこ貢いでまでして一緒にいたいほどの価値があるのか。私にはわからなかった。

「そのお金は臨時収入なんでホント気にしないで。飲み会に来てたブスな子わかる?あの子どうしても俺とヤりたいらしくて『今日20くれるんなら考えとく』っつったらくれたんスよね」

「す、すごいね……」

「でもあの顔じゃ勃たねーし。しつこいから切り時ッスかねー」

私はいつか涼ちゃんが刺されるんじゃないかと心配になった。絶対女の恨み買ってるよ。
でもありがたいから貰っておく。

「ありがとう」

「いーえ。また貢いでもらったら名前っちにも渡すんで。あ、名前ちゃんキャバとかやってないッスよね?」

「やってないよ。コンビニだけ」

「足りなかったらバイト増やしたりしないで俺に言ってよ」

頷くと満足そうな表情で涼ちゃんは抱き締めてきた。
どうして涼ちゃんはここまでしてくれるんだろう。



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