「タバコ吸いたいねー」

「ねー、もうヤニ切れ」

女友達1ちゃんとシンクロして駅前の喫煙所へと向かう。
あとちょっとで喫煙所だというところで、前方に見知った影が二つ見えて思わず足を止めた。
その影の正体は、こちらに手を振る辰也くんと、不機嫌そうな表情でダルそうに立っている涼ちゃんだ。
なんで。なんで二人が一緒にいるの。

「お疲れ様」

辰也くんはサングラスを外しながら穏やかな笑みでそう言った。
だけど私は声が出ない。なんで、なんで、なんで。それだけが頭の中でグルグルしている。
女友達1ちゃんだってこんな状況訳がわからないはず。辰也くんはこっちの様子に気づいてるのか気づいてないのかはわからないけど言葉を続ける。

「関係者の方に誘われてたからね。偶然涼太とも方向一緒だったし、ね?」

辰也くんの問いかけに涼ちゃんは反応しなかった。
でも今はそんな事気にしてられない。
やっぱり辰也くんと涼ちゃんは知り合いだった。それなら、私と涼ちゃんが繋がってることは?涼ちゃんを紹介をしてこないあたり、知ってたに違いない。
そう気付いて私は二人を視界に入れる気力もなくなって俯いた。

頭の中が真っ白で何も考えられずに俯いたままでいると、急に手を掴まれ引っ張られた。
条件反射で足が動いてしまい、視線を上げると、そこには涼ちゃんの後姿。
辰也くんじゃないことにちょっと落胆はしたけど、大きなショックは受けずに済んだのはいい事なのかな。
多分辰也くんは追って来てくれないと思う。私は期待を持つことを諦め、涼ちゃんに着いていくことにした。


 * * *


駅でも電車でも涼ちゃんは不機嫌さ丸出しで無言だった。
でも切符買ってくれたり、涼ちゃんの地元駅に着いたら私の好きなブレンド茶を買ってくれたり、やっぱり優しさは健在。
私も一度も喋ることなく涼ちゃんの部屋まで移動した。
涼ちゃんの部屋へ入ると、黒とシルバーで統一された家具は相変わらずで、私が来なかった間も何も変わってなかったことに少しの安堵感。
例え涼ちゃんが無言でも落ち着くって思えるくらい懐かしい空間。
涼ちゃんは着ていた上着を床に脱ぎ捨ててローソファーに座った。
私もバッグをそこら辺に置いて涼ちゃんの隣へと体育座りした。
そこからはまた静寂。何か喋らなきゃ、なんて思いは一切沸いてこない。
涼ちゃん相手だったら会話のない空間でも苦痛じゃない。多分辰也くん相手なら気まずくてめっちゃ話しかけると思うけど。
例えこんな状況でもやっぱり涼ちゃんは私にとって唯一素でいられる人間なのだ。

「……辰也サン追いかけても来なかったッスね。名前っちだってもう気付いてんでしょ?」

「……なにを?」

「辰也サンに騙されてるって」

涼ちゃんがやっと口を開いたと思ったらやっぱり話題は辰也くんのこと。
頭を撫でられたけど私は前を向いたまま。涼ちゃんも前を向いたまま。目の前にあるテレビの真っ暗な画面にシルエットが映っているだけでお互いどんな表情をしているのかはわからない。

「金銭関係の話題出されたときから、利用されてるって薄々気付いてた」

気付かないフリして、そんな気持ちには蓋をしたけど。
テレビ画面に私の方を見る涼ちゃんが映っていたから私も涼ちゃんの方へと顔を向けると、涼ちゃんは顔を歪めてた。

「じゃあ、なんで」

「辰也くんは完璧な王子さまだったから」

私の理想そのものだった。あの日と今日までは。

「でももういいんだ。演技でもなんでも今日追いかけてきてくれれば、まだ信じてられたのに」

そして涼ちゃんに中だしされて泣きついた日も、せめて私を叱るとかもっと感情的に怒るフリとかしてくれれば良かったのに。そしたらまだ私は夢を見ていられた。
もう信じようとすることも、信じるフリも、疑いを押し殺すのも、疲れてしまった。

「じゃあ俺と一緒に住もう?今辰也サンの家いんでしょ?」

「涼ちゃんはなんで私にそこまでしてくれるの?」

「……名前っちと体の相性がいいんスよ。あと俺のタイプだし、それだけッス」

もし好きだなんて言われたら、涼ちゃんのことも切るつもりだった。私は辰也くんのことは当分諦められないだろうし、ここまで良くしてくれてる涼ちゃんに申し訳ないから。
でもその必要はなかったみたいだ。
仲直りッス!なんて笑った涼ちゃんに頷いて、私は涼ちゃんと住む事に決めた。


 * * *


お互いシャワーを浴びて、電気を消してベッドに入る。
ライブで疲れてるし、今日は色々あったから何も考えたくない。
目を瞑って暫く無心で過ごしていると、背後でもそりと動いた涼ちゃんの腕が私の体に回ってきた。

「名前っち、起きてる?」

その問いかけに私は応えなかった。なるべく寝息っぽく息を吐いたり吸ったりの繰り返し。
正直、まだ寝れないけど今日はヤる気分じゃないから狸寝入り。
私が寝てると勘違いしてくれたんであろう涼ちゃんは、私の首筋に顔を埋めてきた。それでも私は寝たフリ。

「名前……好きだよ」

耳元で涼ちゃんの声が響いた。
けど私は寝てるから、涼ちゃんだってきっとなんかのノリで言っただけだから。
私は何も聞いてない。
首筋に生暖かい液体が垂れてきたのに気付かないフリをして、私は眠りに着くことに集中した。
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