あの後私はとりあえずシャワーを浴びて膣の中まで洗おうと思ったけど、涼ちゃんに抱き締められて動けなかった。
結局起きたのはお昼すぎで、シャワーを浴びて急いで涼ちゃんの家を出た。
涼ちゃんには一緒に住もうってお馴染みの冗談を言われたけど、今日ばかりは冗談に聞こえなくていつものように返せなかった。。
そして私は涼ちゃん家の最寄り駅近くの公園のベンチに座り、辰也くんへと電話をかけた。
「名前ちゃん、どうしたの?」
「ねえ辰也くん、どうしよう……!」
涼ちゃんに言われた辰也くんのこととか、中出しされたこととかを思い出して思わず泣いてしまった。
辰也くんには少し不信感を感じ始めてしまったけど、今他に誰を頼っていいのかわからない。
「泣いてる……?どうしたの、言ってごらん」
「っ、中出し、された」
「……誰に?名前ちゃんピル飲んでなかったよね?今どこ?」
泣きながら場所を伝えると、辰也くんはわざわざこっちまで来てくれると言ってくれた。
きっと涼ちゃんの勘違いなんだよ。辰也くんこんなに優しいのに騙したりするはずない。
とか思ってるくせにRinGのバンドスレとか辰也くんの個スレは怖くて見れないんだから笑える。
ショックを受けすぎたのか、辰也くんが声をかけてくるまでボーっとしていたらしい。
いったい何時間ここに座ってたんだろう。
辰也くんは心配そうな表情で私の顔を覗き込んできた。
「名前ちゃん、誰にやられたの?」
「知り合いの、バンドマン」
「……そう。俺と病院行こうか。アフターピル貰えば多分大丈夫だから、ね?」
私は辰也くんの彼女なはずなのに、なんで他のバンドマンと会ってたって聞いてもなにも言わないんだろう。
ふと、翔一くんに言われた言葉を思い出した。
『名前ちゃん自分がバンドマンの間で有名なの知らんやろ?』
『カイジョウの糞麺涼太に蜜横流しさせるほどの名器持った名前ちゃん、やろ』
……違うよね、涼ちゃんからお金貰ってるの知ってて何も言わないんじゃ、ないよね。
病院で先生に「ゴムが破れちゃって」と説明してくれた辰也くんにやっぱり優しさを感じた。
病院が混んでて長時間待ったせいか、もうすでに外は暗くなっていた。
「ごめん。一緒に居てあげたいんだけど、これからスタジオで練習があるんだ」
「大丈夫、私もちょっと都内の方行くし大丈夫だよ」
「じゃあ途中まで電車一緒だね」
どこに行くのか、なんて聞いてくれなくてまた嫌な考えが頭を過ぎる。
電車に二人並んで座って、下北沢の駅で私が降りると電車の中からずっと手を振っていてくれた。
もう今日は飲んで嫌なことを忘れたい。病院ではお酒飲んじゃダメとは言われてないし平気だろう。
とはいえやっぱ不安だから一応ケータイでググってみたら大丈夫みたいで安心した。
何回か行ったことのあるバーに足を運び、タバコを吸いながら半泣きでお酒を飲んでいると肩を叩かれた。
ちょっと、といった声に聞き覚えがあってまさかねなんて振り向くと、そこにはやっぱり見覚えのある人物が立っていた。
「貴女、握手会で征ちゃん相手に号泣してアタシたちをスルーした子よね?」
「え、え、レオ姉?」
「そうよぉ〜!こんな可愛い子が一人でヤケ酒なんて危ないわよ?」
まさかのまさかだった。まさかここで本命バンドのメンバーに遭遇するとは思っていなかったから涙が引っ込んだ。
「アタシでいいなら愚痴でも相談でも聞くわよ〜?ただし、次のライブも来て全力で暴れて楽しむのが条件よ!」
「でも……」
本命バンドのメンバーに愚痴れるような内容じゃない。
私が悩んでいると、レオ姉は綺麗な笑顔で言った。
「貴女征ちゃんが本命でしょう?聞いたことは誰にも言わないからどーんと話しちゃいなさい!」
その表情と言葉にレオ姉なら信じても大丈夫だと私は相談することにした。
* * *
ぐずぐずと泣きながら事のあらましを話すと、レオ姉は自分のことのように怒り出した。
「まったく、あの子たちは本当ダメね!」
「涼ちゃんと辰也くんのこと、知ってるの?」
「ええ、少し交流があるのよ。でも、辰ちゃんの方はやめておいた方がいいと思うわ。名前ちゃんもなんでお金なんて渡しちゃうのよ!お金の関係だけにはなっちゃダメよ。それ以降名前ちゃん自身がお金としか見てもらえなくなっちゃうのよ?」
「でも、辰也くん困ってたから……」
「恋する乙女は強くなれるけれど、時として判断力を鈍らせちゃうのよねぇ…わかるわぁ…じゃなくて!涼ちゃんはアレね。避妊しないなんて男の風上にも置けないわね」
なんだかレオ姉と話していると自分の気持ちを代弁してもえたような、そして第三者目線で信憑性のある指摘をしてくれるから、なんだか気持ちが楽になった気がする。
「レオ姉、ありがとう」
「いーえ、いいのよ!それで、これからどうするつもり?」
「うーん、好きなままで離れるのは辛いから、とりあえず様子見しようかなって。ひどいことされて嫌いになれたら別れられると思うし……」
「そうねぇ……それが名前ちゃんにとって一番いいのかもしれないわね。涼ちゃんの方はどうするつもりなのかしら?」
「そっちが全然思いつかなくて……」
そんな私の言葉にレオ姉は呆れたような表情を浮かべた。
レオ姉と話してる最中もちょっと考えたけど、全くといっていいほどどうしていいのか思い浮かばなかった。
「アタシが思うに、涼ちゃんは名前ちゃんのこと好きなんじゃないかしら。いくらオキニだとしても蜜を横流しするなんて普通はしないし相当惚れ込んでると思うわよ」
「最初のころ、一瞬そんなことも思ったけど自惚れみたいで嫌だから考えないようにしてた」
「謙虚なのはいいことだけど、それじゃ涼ちゃんもちょっと可哀想よ?」
「……うん」
「ちゃんと自分のことを愛してくれてるのが誰なのか考えて結論を出すのよ?もうアタシたちは友達なんだから、何かあったらさっき教えた番号にいつでも連絡してきていいんだからね?わかった?」
なんだかレオ姉は本当にお姉ちゃんみたいで、優しい言葉に今日初めて心の底から笑った気がする。
今日はもう他の男と会うのはダメよ!だなんて釘を刺され、バーの前で別れて私は一人でラブホに泊まった。
女友達1ちゃんは私に相談してくれたんだから、私ももうちょっと落ち着いたら相談させてもらおう。