私は辰也くんと会った翌日からすぐにキャバクラで働き始めた。
赤司さまと喋る緊張感に比べたら客と話すくらいどうってことないとか思ったおかげか、なんとか接客はサマになってきたと思う。
たった一週間で20万も稼げてびっくりしたのと同時に、最初は辰也くんに貸す分だけだと思っていたのがこんなに簡単にお金が手に入るならコンビニのバイトを辞めてこっちを本職にしようかとまで考え始めた。
でも涼ちゃんにバレたらどうしよう……というところまで思考が働いてふと疑問に思う。
涼ちゃんは私にとってどんな存在なんだろう。そして涼ちゃんにとってどんな存在なんだろうって。
別に付き合ってないんだから私がどんな仕事をしようが涼ちゃんに口出しする権利はないハズ。
口出しするならお金出し……てって思ったけどすでにお金くれてるから口出しする権利はあるのかな。どうなんだろう。
私は涼ちゃんのことをどう思ってるのかが自分でわからない。考えないようにしていたらわからなくなってしまった。
私たちの今の関係はイイオトモダチだよね?友達に隠し事のひとつやふたつくらい普通だよね?間違ってないよね?
私は札束封筒の入ったバッグを持って電車に乗り込んだ。


 * * *

言われた通り、辰也くんの家の最寄り駅までいくと、改札前で辰也くんが待っていてくれた。
私に気付いた途端笑みを浮かべて手を振ってくれてやっぱ好きだなぁなんて顔が綻ぶ。
私が改札を通ると辰也くんが近寄ってきてバッグを持ってくれた。やっぱ優しい。

「じゃあ俺の家行こうか」

「辰也くん家初めてー」

今日は辰也くんの家にお泊りだ。たぶん隠し切れないほどワクワクしてると思うよ今の私。
手を繋いで10分くらい街中を歩いているとごく普通のマンションの前に着いた。

「ワンルームだから狭いけど、平気?」

「全然平気だよ!」

そんなやり取りをしながらエレベーターに乗って6階で降りると辰也くんはドアの前で鍵を取り出した。
鍵についていたキーホルダーがRinGのグッズでなんか微笑ましくなった。
お邪魔しますと部屋に入ると、10畳?12畳?そのくらいの広さの部屋がすぐにあってびっくりする。
ワンルームって何気に初めて見る。

「狭くて驚いた?」

「ううん、ワンルームって結構広いんだねー」

だってベッド置いてあってソファーも置いてあるのに狭くなってない。
どこに座ろうかと悩んでいたら辰也くんがソファーに座ったから私も隣に腰掛けることにした。

「あ、辰也くんバッグありがとう」

「俺が持ったままだったね、はい」

辰也くんからバッグを受け取ると、中から茶封筒を取り出して渡す。

「これ、どうぞ」

「……本当にいいの?」

「大丈夫だよ。辰也くん困ってるの見るのヤダし!」

本当は騙されてるんじゃないかとちょっと悩んだりもしたけど、もしそうなったらそのとき悩もうって決めた。
辰也くんの優しそうな表情がニセモノだなんて思いたくない。
申し訳なさそうな表情でお礼を言った辰也くんが、騙すわけないよね。
お金を渡した後は一緒にスーパーに行ってご飯を作ったり一緒にお風呂に入ったりしてセックスして、抱き合って寝た。
ほら、お金を渡したあとも優しいんだから大丈夫だと自分に言い聞かせた。


 * * *


目が覚めると、辰也くんはすでに起きていたみたいでじっと私を見ていた。

「名前ちゃんおはよう」

「おはよー……起きてたの?」

「名前ちゃんの寝顔がかわいいからつい見惚れちゃったんだ」

「あはは」

「冗談じゃないよ」

辰也くんが薄く笑っておでこにチューしてきて思わず照れる。
顔洗っておいで。そう言われて頷き、まだちゃんと動かない体に鞭を打って洗面所に向かう。
水を出して顔を洗いタオルで拭いていると、鏡に写る自分を見て驚いた。

「これ……」
首元に、一度見たことがあるピンクゴールドのネックレスがぶら下っていてパニックになる。
前に辰也くんが買ってたやつだよね。なんで。
一人で百面相していると、くすくすと笑う声が聞こえた。

「驚いた?」

「これ、なんで?」

「名前ちゃんにあげようと思って買っていつ渡そうか悩んだんだけど、サプライズしようかなって」

「驚いたよ……嬉しい」

まさか好きな人にこんなことしてもらえるなんて思わなかった。
元カレはアレでこんなことしてくれなかったし、本当に嬉しい。
涙腺が緩んで泣きそうになっていると、辰也くんが近寄ってきた。

「名前ちゃん泣かないで。笑った顔が見たくてプレゼントしたんだから」

辰也くんの言葉で笑おうとしたけど、やっぱり嬉し泣きしてしまった。
大丈夫、大丈夫。私は騙されてなんかないよね。
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -