最近は涼ちゃんだけじゃなく辰也くんとも週に一回会っている。
涼ちゃんとは気心知れた親友みたいで一緒にいて落ち着けるし、辰也くん相手だとドキドキしてまるで恋する乙女になった気分。気分、というかたぶんガチ恋してしまった。繋がっているとはいえバンドマン相手にガチ恋とかアホすぎる。
でもカッコいいし紳士的で優しいし、恋しない方がおかしいと思う。
ミュージックプレーヤーにもRinGの曲を全部入れて天帝とシャッフルしてずっと聞いてるくらいには重症。無料配布のやつとか手に入らない貴重な音源は辰也くんに頼んだら普通にくれた。
辰也くんの声を聞いてるだけでドキドキするから本当恋マジックってすごい。
そんな感じで毎日を送っていると、つい数日前に会ったばかりなのに辰也くんに呼び出された。
今週二回も会えるとかハッピーすぎる!なんて浮かれた私はルンルン気分で都内へと足を運ぶ。
本当はバイト入ってたけど当欠してしまった。たまに人手が足りてないときに出勤したりしてたからいいよね、なんて心の中で言い訳してる辺り涼ちゃんと出会う前から小心者は変わってない気がした。
待ち合わせ場所に着いて辰也くんを見つけ駆け寄ると、辰也くんは手を振ってくれた。
「名前ちゃん、急に呼び出したりしてごめんね」
「大丈夫だよ、どうしたの?」
人通りの多い駅前で申し訳なさそうな表情を浮かべた辰也くんは両手で私の手を握ってきた。
「ちょっと相談したいことがあるんだ」
「うん?私で相談に乗れることがあるなら何でも聞くよー」
「ありがとう、じゃあカラオケでも行こうか」
始終申し訳なさそうな表情を浮かべている辰也くんは私の手から片手を離して歩きだした。
相談ってなんだろうって疑問に思いながらついて行くと、すぐにカラオケ屋にたどり着いた。
* * *
ドリンクバーから持ってきた飲み物を啜りながら隣に座っている辰也くんを見上げると、辰也くんは少しこちらに体を向け直した。
「相談ってなに?」
「ちょっと重要な機材が壊れちゃって買い直すのに結構なお金必要なんだ。それで俺もバイトを増やさなきゃいけないから暫く会えないかもしれない」
「え……?どのくらい?」
「人にも借りてそれを返す分もあるから、数ヶ月、かな」
数ヶ月。その言葉にテンションが下がる。来る前のルンルン気分はどこかに飛んで行ってしまった。
いくらバンドが好きだとは言え、機材のこととかはまったく分からないからどのくらいの金額なのかも想像できない。
「そんなに会えないの……?」
つい本音を零してしまうと、涙腺まで緩んでくるから困る。
ただの繋がりに泣かれたって辰也くんも困るだけなのに。
「俺だって名前ちゃんに会えないのは辛い。だから暫く会えなくなる前にって、顔見たくてわざわざ呼んだんだ」
辰也くんの言葉はすごい嬉しいけど、数ヶ月も会えない辛さの方が大きくてやっぱり泣いてしまった。
そんな私を辰也くんは面倒くさそうな態度を取ることもなく抱きしめてくれた。
「ごめん、待っててくれる?名前ちゃんに切られたくないんだ」
「ねえあとどのくらい足りないの?」
「なんでだい?」
「ちょっと気になっただけ」
「20万くらいあればなんとかバイト増やさなくても平気だけど……」
「ねえ、じゃあそのお金なんとかするから、今まで通り会える?」
数ヶ月会えないくらいなら、私がそのお金なんとかする。
そう言うと辰也くんは眉間に皺を寄せた。
「名前ちゃんにそんなことさせられないよ」
「だって……じゃあ貸すだけ、ね?返すのはいつでもいいし返さなくてもいいし」
「名前ちゃん、」
「それならいいでしょ?」
「……じゃあ借りてもいいかい?」
辰也くんは私が押し切ろうとしていることを察したのか申し訳なさそうに頷いた。
その後は辰也くんいま大変でしょ?って無理やり押し切る形でカラオケの会計も私がした。
そのままラブホに泊まって、帰りの電車で蜜じゃないよね貸すだけだもんなんて少し不安になりながらも、RinGの曲を聞いてたらそんな思いはすぐに消えていった。