翔一くんに水をぶっかけられた後、案の定風邪を引いて高熱が出て一週間寝込んだ私はやっと女友達1ちゃんに電話することが出来た。

「もしもし女友達1ちゃーん!」

「あ、名前ちゃん」

「電話するの遅くなっちゃってごめんね。ちょっと失敗しちゃって、本当ごめんね!」

「大丈夫謝らないで!寧ろそのときのことでちょっと話が、」

「あのね!大輝から翔一くんの悪い噂色々聞いちゃったからオススメは出来ないかも……」

とりあえず流石に事実を話すことは出来なかったからテキトーにごまかすことにした。
女友達1ちゃんが考えた結果を私の失敗のせいで変えたくはなかった。あの時の翔一くんのことを思い出し、少し忠告は織り交ぜておく。

「ねぇ名前ちゃん……」

「あ、ごめんね、ちょっとキャッチ入っちゃった」

私は出来るだけあの時のことは聞かれたくない。
普段電話のキャッチなんて無視するくせにこのときばかりは電話を切ってしまった。
ごめんね女友達1ちゃん、好きだからこそ翔一くんとの出来事話せなくて。


 * * *


キャッチの相手は辰也くんだった。
電話先から響いてくる声はやっぱりカッコよくて思わず顔が緩む。

「辰也くんどーしたの?」

「ちょっと名前ちゃんの声が聞きたくなってね」

「それだけ?」

「それだけって、酷いな。声聞いたら会いたくなっちゃったよ」

「あはは」

「……本気だよ」

この前会ったときみたいな冗談かと笑うと、辰也くんの声が低く色っぽくなって思わず照れた。なんというか、涼ちゃんに勝る色気に照れた。
なんと返そうかと思案していると、辰也くんが少しの間のあと言葉を発した。

「ねえ、今どこにいるんだい?会おうか」

「いま家だよ」

「都内?」

「神奈川だよー」

「じゃあそっちの方まで行くから支度しておいてくれる?」

「はっ?」

まさか本気で神奈川まで来るつもりなんだろうか。電車なら40分の距離だけど。

「もしかして嫌だった?」

「えっ、ううん」

実は私ももう一度辰也くんと会いたいと思っていたのだ。断るわけがない。
最寄り駅はなんもないからと最寄り駅から数駅過ぎたところにある栄えた駅を指定し、私は支度することにした。


 * * *


すっぴんにスエットだった私がそんなにすぐに支度が終わるはずもなく、約束の時間から少し遅れて駅についた。
待たせちゃって申し訳ないななんて急ぎながら待ち合わせ場所へと向かうと、サングラスをかけた辰也くんが壁に寄りかかって待っていた。

「遅れちゃってごめんね」

「気にしないで。女の子は支度とか色々大変だしね」

「ありがとう」

前回も思ったけど辰也くんはすごい紳士的だ。英国人なの?って言いたくなるほどには女の扱いを心得ているとおもう。
なんてことなく差し出された手を取り、歩き出す。

「俺ここら辺はよくわからないんだけど、名前ちゃんは詳しいよね?」

「うん」

「じゃあどこかアクセサリーショップとかある?」

「ごつめのシルバーアクセのブランドなら駅ビルの中に入ってるよ」

「いや、女性向けがいいかな」

彼女にプレゼントかなーなんて思いながらも問いかけることはせずに案内することにした。
途中でクレープ屋さんでクレープ奢ってもらったり、好きなマスコットキャラのデジカメケースを買ってもらったり。
そんな感じで寄り道しながらアクセサリーショップにたどり着くと、辰也くんは女物のネックレスを物色し始めた。

「うーん、これがいいかな」

私は笑って相槌を打つだけにしておいた。口開いても彼女さんの趣味はー?とかカマかけるような聞き方くらいしか出来ないと思うし。
辰也くんはピンクゴールドのハートのトップがついたネックレスをしばらく眺めてから笑みを浮かべ頷くと、店員さんにショーケースから出してもらっていた。
結構こういう系のアクセもお高いんだなー。こういうのはメッキ製でいいやなんてゴツいシルバーアクセが好きな私は一人で結論出した。

会計を終えたらしい辰也くんが紙袋を片手にぶら下げながら戻ってくると私の手を取って歩きだした。

「名前ちゃんお腹は空いてる?」

「うん、ちょっとね」

本当はすごい空いてる。今日はまだ何も食べてない。
駅ビルから出るともう陽は落ちてきていてお腹が空くのも当たり前だなと納得。
辰也くんは私の頭を撫でて言った。

「じゃあ何が食べたい?」

「お腹空いてるからなんでも美味しいと思えるよー」

「じゃあパスタでも食べようか。さっき良い雰囲気の店を見かけたんだ」

おお、すごい。歩きながら雰囲気の良さそうな店をチェックするとかやっぱり辰也くんって女の扱いを心得てる。
感心しながら辰也くんに着いて行くと、たどり着いたのは辰也くんが言っていた通りオシャレなお店だった。


 * * *


食事を終えるとやっぱり隙をついて会計を済ませていた辰也くん。
感心とかうれしいとか通り越して本当にそこらへんの男と同じ人間なのかなって思った。
辰也くんはミントのタブレットを取り出して口に入れると、私にも二粒くれた。

「三粒じゃちょっと辛いから二粒ね」

そんなことを無邪気そうな笑顔で言われた私は胸キュン。
ことごとくツボをついてくる辰也くんにデレデレしそうになってしまう。抑えるけど。気持ち悪いとか思われたくないし。

「これからどうしようか。ちょっと早いけどホテルでも行く?」

「辰也くん終電までには帰るでしょ?それなら早くないんじゃないかな」

「……泊まるつもりで来たんだけど」

「えっ、ごめん、着替えとか持ってきてないや」

まさか泊まるつもりでいたとは露知らず申し訳ない。
涼ちゃんとは泊まるのが暗黙の了解だからいつも着替えは持ってくんだけどな。
どうしようかと悩んでいると、辰也くんは笑顔で私の手を引いて駅ビルの中へと戻っていく。

「着替え、買ってあげるから俺と泊まって?」

「えっ、自分で買うよ」

さすがに奢ってもらった上に洋服まで買ってもらうつもりはない。
押し問答した末に自分で洋服を買った私は辰也くんと駅から離れたところにあるホテルへとタクシーで向かった。
このときはまだ、私はなんの疑問も抱いていなかった。
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