最近益々糞ギャになってきた私はまたネットでバンドマンを漁っていた。
涼ちゃんはそれを快く思っていないらしい。

「名前っちまじそのうち痛い目見るからやめときなって」

そう言われたけど、なんでかバンドマンと出会うのをやめられなかった。なんでだかは自分でもわからない。
22時過ぎ、池袋東口でバンドマンと待ち合わせをした私は待ちぼうけを食らっていた。
すでに約束の時間から20分も経っている。そんなときケータイのバイブが震えた。

「もしもし」

「さっきメールしてた者だけど……」

「あー、ハイ」

電話はちゃんと番号が表示されていたから釣りじゃないのかな。タバコの灰を地面に落とし吸殻を携帯灰皿へと突っ込みながら返事する。

「遅れてごめんね。今東口に着いたんだけどキミが何処にいるかわからないんだ」

「正面にビックカメラがあります」

「ちょっと待って。あぁ、見つけた」

ブツリと途切れたにも関わらず電話を耳に当てながら視線を彷徨わせると、横断歩道を渡りながらこちらに手を振る男が視界に入ってきた。
でも私は手を振らない。勘違いだったら恥ずかしいし。
小走りになった男は私の目の前で止まって困ったような笑みを浮かべた。

「遅くなって本当にすまないね」

「私釣られたのかと思ったぁ」

私の言葉に更に困ったような表情になった彼をまじまじと見ると気付いたことがあった。
この人私知ってる。いやでもまさかだよねー。とりあえず聞いてみることにした。

「もしかしてRinGの辰也くん?」

ライブは行ったことないけど結構有名だから曲は結構聞いたことあるしたまに雑誌でも見かける。
そしてあのニュースになった事件も私の周りで話題になっていた。

「あれ、俺の事知っているんだね。帰りたくなっちゃった?」

彼――辰也くんは苦笑しながら私の手を握った。

「大丈夫だよ、俺女の子は殴ったりしないから」

他のバンドマンを殴って一時活動休止をしていたことはバンギャルだったら結構みんな知ってると思う。
もちろん私も知っていたから、一瞬不安になったけど目の前の辰也くんを見てそんな気

持ちは吹っ飛んだ。
私は笑顔で辰也くんの手を握り返した。

「おなか空いちゃったからなんか食べに行こー?」

「そうだね、俺もちょうどお腹空いてたんだ」

初対面にも関わらず手を繋いで歩き始めた私たちは少し歩いたところにあるファミレスへと向かった。


 * * *


ファミレスで向かい合っている私たちは料理を食べながらくだらない話に花を咲かせていた。

「私もそっちにすれば良かったなぁー」

「じゃあ半分あげようか?その代わり名前ちゃんのも俺にくれる?」

料理はお互いすでに半分くらい食べ終えてたからお皿ごと交換。
辰也くんは私が知ってる人間の中で1〜2を争うほどのイケメンでちょっとドキドキする。
ちょっとで済んだのはハイパーイケメンな涼ちゃんで耐性がついてたからだと思う。

「ねえ辰也くん今カラコンつけてる?グレーっぽいねー」

「ん?つけてないよ?」

「え、ウソ!裸眼でその色とかうらやましいー」

「ウソだよ」

クスクスと笑いながらさらりと言いのけた辰也くんは私をからかったんだろう。
そもそも、日本人なのに裸眼でグレーとかありえないってちょっと考えればすぐわかることなのにアホすぎる。
そんな感じでちょくちょく辰也くんにからかわれながらも料理を食べ終えた私はトイレに向かった。
個室に入り便器に座ってケータイを開くと、涼ちゃんからの着信履歴。さっきからバイブが何回か震えてたから親かと思ったけど涼ちゃんだったとは。
かけ直すと何回目かのコールで出た。

「あ、名前っち〜。今から会わない?」

「私今都内なんだ」

「こんな時間まで?ライブっスか?」

「あー……そんな感じ」

涼ちゃんが私がいろんなバンドマンと出会うことを快く思っていないのは知っている。
だからウソは吐かずにテキトーにごまかすことにした。

「また他のヤツと出会ってんスか?」

けどやっぱ通用しなかったらしい。友達と飲んでるくらいウソ吐いても良かったかな。

「バレちゃったかぁ」

「はぁ……ちゃんと避妊だけはしてもらうんスよ。あとなんかあったらすぐ俺に電話すること」

涼ちゃんの声が若干低くなった気がするけど、気付かないふりをした。

「ハーイ」

「真面目に言ってるんスから真面目に聞いてよ」

「わかった。ありがとー」

私は電話を切った。辰也くん待たせるのも悪いし。
席へと戻ると辰也くんは立ち上がって私の手を握った。

「じゃあ行こうか」

私の手を引き、そのまま店を出ようとする辰也くんを慌てて止めると、辰也くんは笑顔で振り返った。

「会計してないよ!」

「もう払っておいたから大丈夫だよ」

「えっ」

なんというスマートさ。リアルでこんなことされるとは思ってなくてちょっと照れた。
でもここで割り勘ねとか言われたら幻滅というかショックだし自分から申し出ることにした。

「自分が食べた分は返すよ!」

「遅れちゃったお詫びに奢らせてよ」

「うーん、じゃあホテルは割り勘ね」

「今日はお金あるから全部俺が払うよ。今後会うときに困ってたら割り勘にさせてもらうけど……」

辰也くんは結構人気あるし、ワンマンでエリアとかソールドアウトするくらいにはバンドの方も人気ある。私なんかとまた会ってくれるはずない。社交辞令だと思った私は笑顔で頷いておいた。


* * *


ラブホに入ってヤることやった私たちは備え付けのカラオケで熱唱したりゴロゴロしたりとかなり打ち解けた雰囲気で過ごしていた。
辰也くんにはめっちゃお願いしてGACKTのlastsong歌ってもらった。上手すぎてなにがなんだかわからなかったよ。
声の良さと歌の上手さになんでか照れた私が枕に顔を埋めていると、カメラのシャッタ

ー音が聞こえた。パッと辰也くんの方を見るとケータイ持ってる。は。なんで。

「え、まさか撮った?」

「うん。記念にね。大丈夫、晒したりしないから安心して」

「あ、そう……」

なんで麺って出会うとギャの写メ撮るかな。いまだ晒されたことないから警戒心薄いのが撮られやすい一因なんだろうけど。

「じゃあ辰也くんの写メも撮っていいー?」

「え、それはちょっと困るな」

「じゃあ私のも消しといてね。じゃないと寝顔撮っちゃうよ」

「俺名前ちゃんが寝てから寝ることにするよ」

「消してくれれば撮ったりしないよー」

「消すのは嫌だな……」

そんな感じで私より先に寝ないって言ってた辰也くんは私より一時間くらい早く寝てた。
私は写メ撮るのはやめといてあげようと眠りについた。
たぶん起きたら撮られてないか不安になるだろうから、私の画像フォルダ見せてあげよう。
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