何故か清志くんの彼女さんに謝られたりして、週1くらいでその彼女さんと秀徳に行きだした私は疲れきっていた。
清志くんに少しでも素っ気無い態度を取ると彼女さんにわき腹をど突かれ、和成くんと話していると清志くんが不機嫌になり、そして私が気を遣って清志くんに話しかけると彼女さんの視線が突き刺さり、本当に疲れ切っていた。私にどうしろと。
最近和成くんはちょくちょく指名をもらうようになったとかで、和成くんと清志くんが他の卓に行っている間ヘルプに来てくれる真ちゃんだけが癒しだった。
「真ちゃん私ツカレタヨ」
「……大変そうだな」
まだ本指名はしていない。いっそもう真ちゃん本指名しちゃおうかな。
それを真ちゃんに言うとやめてくれと言われてしまった。
「和成を指名すればいいことなのだよ」
「えー、なんか和成くん指名したら清志くんが面倒なことになりそうだし。私細客にしかなんないのになー」
「そのゴタゴタに俺を巻き込むな」
真ちゃんは溜め息を吐いてまたやめてくれと言われてしまった。
和成くんにもあんま来て欲しくないと言われちゃったし。どうやら和成くんは店外で会いたいらしい。なにそれ私育てる気なの?それとも趣味カノにするつもりなの?
なんか本当めんどくさい。もうまじ秀徳来たくない。客の取り合いは客が気付いてないとこでやって欲しい。
そんな感じでとうとう次来るときまでに本指名決めて下さいと内勤の子に言われてしまい、めんどくさいから通うのをやめた。
ちょっと遠いから帰りが面倒だけど、また桐皇通おう。私はそう決めた。
* * *
なんとか桐皇は経営維持しているらしく、最近は客の入りも元に戻ってきているらしい。
ここは一番楽しくて楽な店だから、潰れて欲しくはないので一安心する。
「久しぶりだな。なんで最近あんま来ねーんだよ」
「それがね、職場変えてさー。あ、そうそうやっかいなゴタゴタに巻き込まれたんだよ!聞いてよ!」
私は秀徳でのゴタゴタを大輝に愚痴る。聞いていた大輝は呆れていた。
タバコに火を点けてもらいながら大輝を見ると、なんだか難しそうな顔をしていた。
「つーかよ、和成ってヤツも清志ってナンバーワンも、お前のこと趣味カノにしようとしてんじゃねーの?」
「あー、かな。細客すぎるけど趣味カノにキープしとくかって感じかな」
確かに、清志くんも和成くんも私が店に行ってもあまり喜ばない。飲みに行ってんのに私を楽しませようなんて気持ちが伝わってこない。
それどころか二人とも外で会おうばっかメールしてくる。ヤリ目か。確かにそれなりにはセックスの上手さに自信あるけど。
私が納得すると、大輝は少し笑った。何故笑ったのかはよくわからなかったけど気にしないことにした。
「なー今日お前ラストまでいる?アフター行こうぜ」
「来る時は毎回アフターしてんだから別に聞かなくてもいいじゃん〜」
今日は飲みたい気分だったから家に帰らずに来たんだけど、飲んだ後に家に帰るのはダルいし一人でラブホに泊まるのは怖いし、アフターしてくれないなら桐皇まで来ない。大輝は私が来たときは絶対アフターしてくれるから大好きだ。
そしてヘルプで来た良ちゃんが「最近女友達ちゃんと喧嘩しちゃって」とか言い出したので相談に乗ってあげた。まじ私優しすぎる。
そんな感じでラストまでぐだぐだ過ごし、大輝と恒例のラブホに来ていた。
「なー、今日俺払うから露天風呂付いてる部屋にしねー?」
「金持ってんの?」
笑いながらそう聞くとムッとした表情で、「最近指名結構取ってんだよ」と手を引かれた。
珍しく私に気を遣っている大輝に疑問を抱く。いつもなら自分が金を払ったりなんてしない上遠慮もないのに。
まさか大輝のニセモノか!?なんてバカなことを考えているうちに部屋へと辿りついた。
「露天風呂はやっぱ夜入ったほうがいいよなー。明日仕事休みだろ?」
「うん休みー」
「俺も休みだから今日の夜もここ泊まってこーぜ。とりあえずねみぃから今はシャワーでいっか」
やっぱり今日の大輝は可笑しい。休みの日を客に使うなんて絶対やだとか言ってたのにどーした。
ツッコもうか迷ったけど、まーいっかと持ち前のゆるさを駆使してやめておいた。
* * *
「おい、名前起きろ」
大輝の低い声が耳元で響き渡り、うっすらと目を開けると、大輝が呆れた表情で見つめていた。
「何時間寝るつもりだよお前」
「今何時ー?」
「もう夜の9時だ」
「うっそ」
壁にかかっていた時計に目をやると、確かに9時前だった。何時間寝たんだろう。大輝といると安心するのか爆睡しちゃうなー。
ゆっくりと体を起こし、スマホを探すが見当たらない。どこに置いたんだっけ。
「あ、そういえば電話勝手に出ちまった」
「は?なんで?誰から?女友達?」
スマホは大輝が持っていたのか手渡され、着信履歴を確認する。普段人の電話勝手に出たりしないのに、本当に今日はどうした。
電話をかけてきたのはどうやら清志くんみたいで、履歴が何件も残っている。
大輝に視線を向けると、ニヤリと笑みを浮かべている。
「名前が言ってた秀徳のナンバーワンってソイツだろ?彼氏だ、もう名前に電話してくんなっつっといた」
「ん?あー、ありがと」
確かに助かる。清志くんは何故か私に執着してるし面倒くさいと思っていたのは事実だ。別に怒る理由はないので素直に礼を言っておく。
でもまさか大輝がそんなことするなんてなー。まぁ他のホストに金使われるより自分に使って欲しいというのが本音だろうけど、大輝がそういうことをするなんてビックリ。
ミネラルウォーターを手渡され、半分ほど飲み干すと大輝に手を引かれた。
「露天風呂入ろーぜー」
「寝起きでとか死ぬかも」
「大丈夫だ死にそうになったら俺が助けてやっから」
なんだか今日の大輝はいつもと違って私のナイトみたいだなと笑ってしまった。