今日は真ちゃんと和成くんと店外している。何気に真ちゃんと遊ぶのは初めてなんだけど楽しい。楽しいというか面白い。
「和成、絶対取るのだよ取れなかったらわかってるな」
「真ちゃん人に頼んどいて……まぁしゃーないか」
怖いくらい真剣な表情で見つめる真ちゃんに和成くんは苦笑していた。
現在駅前のゲーセンにいる。そして大人三人がクレーンゲームの前で真剣に目の前の――某教育番組のキャラクターである犬のぬいぐるみを取ろうとしてる。ただのアホだ。
真ちゃんはどうしてもあれが欲しいらしい。あのキャラクターが好きというわけではなく、たまにおは朝占いのラッキーアイテムとして紹介されているらしい。
いつも変なもの持ってると思ったけど、キャラ付けというわけではなくおは朝を妄信してただけっていう。
それにしてもおは朝は他局のキャラクターをラッキーアイテムにするなんて何考えてんの。
私はちゃんと和成くんが取れるのかドキドキして見守っていると、四回目で取り出し口へと落ちた。
「和成くんすごい!天才!」
「人事を尽くしているからなのだよ」
「和成、俺の真似をするな!」
「うわー真ちゃん取ってもらっといてひどい和成くん可哀想ー」
「名前ちゃんやっさしー」
「……ありがとう。そしてイチャつくなら他に行け」
和成くんが抱きついてきたので撫でて慰めていると、真ちゃんは顔を顰めた。
でも私も和成くんもイチャついているつもりはない。これがいつものノリだ。
他にはどんな景品があるのかと店内を回っていると、私が大好きな漫画のキャラのフィギュアを見つけた。
欲しい欲しいと騒いでいると、和成くんが近づいてきた。
「名前ちゃんどれ欲しいのー?って、コレ……」
「私の愛する人だよー」
私は二次元に愛を注いでいる。それは和成くんも知っている。和成くんはしかめっ面で私の肩を抱いた。
「名前ちゃんには俺がいるっしょー?」
「和成くん戦っても勝てないんでしょ?」
「あー、勝てねーな……なんだよチクショー」
和成くんはサイフを取り出し、なぜかフィギュアを取ろうとしていた。
私がヲタクなのをあんまり良く思ってないっぽいのに取ってくれんのかな。
和成くんが何を考えているのかわからなかったから私は喫煙所にいた真ちゃんの元へ行った。
「和成はどうしたんだ?」
「私が好きな漫画のフィギュア取ってるー。あ、ライター見当たらないや火貸して」
ライターをせがむと、職業病なのか癖になってしまっているのか真ちゃんは火を点けてくれた。
「真ちゃんタバコ嫌いそうなのに結構吸うよねー」
「客に『吸わないヤツと飲んでも楽しくない』と言われて吸い始めたのだよ」
「あ、そのお客さんの気持ちすっごいわかるわ」
そんなくだらない会話をしていると、フィギュアの箱を抱えた和成くんも喫煙所へとやってきた。
「やべー全然取れなくて3000円も使っちまった」
「ねー払うからちょーだい?」
「いや、コレ折るし」
据わった目で言い放った和成くんは結構怖かった。というか折るって……私の愛するキャラに何するつもりだ。
「はっ!?やったら怒るよ!?」
「だって名前ちゃんがコイツ好きとか気に食わねーし。フィギュアだったら俺でも勝てるっしょ」
「いやマジやったら怒るからね」
私の鬼の形相に顔を引き攣らせた和成くんは「冗談だって」と笑い始めた。いやさっきの絶対冗談じゃなかった顔がマジだった。
真ちゃんは仲間だと思われたくないのか私たちから少し距離を取って呆れた顔をしていた。
* * *
三人でファミレスで夕食を取っていると、ドサリとソファーの横が沈んだ。
真ちゃんと和成くんが驚いた表情をしていたのでなんだと横に目を向けると、そこには清志くんがいた。
「なー、三人で何やってんの?」
清志くんはまぶしいくらいの笑みを浮かべて問いかけてきた。こめかみに青筋が浮かんでるけど。
真ちゃんと和成くんは「いや、あの」とかしどろもどろになっている。なんでよしっかりしてよ店外してるだけじゃん。
私は溜め息を吐いて清志くんを見る。
「清志くんこそどうしたの?」
「暇だから飲みにでも行こうかって外歩いてたら名前ちゃんたちが見えたんだよ」
「そうなんだー。私たちは遊んでただけだよ」
「俺とは店外してくんねーじゃん。毎週お前の店通ってんのに」
清志くんは笑みを消して顔を顰めた。そして和成くんと真ちゃんはまた驚いていた。
多分清志くんが私の店に通ってるって知らなかったんだろう。
清志くんは私の手首を握り締めてきた。力が強くて地味に痛い。
「ねえ痛いから離して」
「お前ら、名前ちゃん連れてくから二人で飯食ってろ」
「え、なんで勝手に決めてんの」
清志くんはサイフから諭吉を一枚取り出し、乱暴にテーブルへと叩きつけると私を引っ張った。
和成くんが立ち上がったけど真ちゃんが座らせようとしている。
そのまま引っ張られてファミレスの外へと連れ出された。
「しょっちゅう和成と会ってんのか?」
「私も忙しいしたまにだよ」
「そのたまにを俺に使ってくれる気はないワケ?」
「だって清志くんも忙しいし休み合わないじゃん」
こうは言ったけど清志くんと店外したいとか一度も思ったことがない。毎週毎週来てくれてるわけだし別に嫌じゃないけど、清志くんはイケメンすぎて連れて歩く勇気がなかった。釣り合わないとか周りの人に思われてたら死ねる。今だってこうやって一緒に外にいるのはちょっと嫌だ。
「連絡寄越してきたら店くらい休む」
「ラブホ集合だったらいいよ」
「あ?それじゃいつもと変わんねーだろ。どっか遊び行ったりしてーんだよ」
店通さないんだから変わるじゃんという言葉は飲み込んだ。
しょうがないから私は頷いた。私がもっと可愛くなれるように釣り合うようにと努力すればいいことだ。
前までなら納得させるためにと嘘ついて、結局店外したりはしなかった。清志くんに情が沸いてしまったと私はまだ気付かない。
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