目が覚めるとまだ名前ちゃんは寝ていた。
しばらくその様子を眺めてると、視線に気付いたのか単に目が覚めただけなのか、名前ちゃんの目が開いた。
「名前ちゃんおはよ、なー、寝る前のこと覚えてる?」
「うん」
「本当ゴメン、俺が悪かった」
「いつも、覚えてなきゃいけないことは覚えてないのに、覚えてなくていいことは覚えてんだよね」
「ゴメン」
「いいよ別に」
名前ちゃんはいいよって言ってくれたけど心なしか不機嫌そうだった。
俺はまた謝る。
「本当ゴメン」
「いいってばしつこいなー。はぁ、ラストに入った客といい和成くんといいなんなの。嫌がる女犯すのが流行ってるワケ?」
名前ちゃんのその台詞になんで寝る前まであんなに名前ちゃんが飲んでたのかがわかった。
マジ俺最低すぎる。
「名前ちゃん本当ゴメ、」
「傷つかないで不機嫌になるだけの私が相手でよかったねー。他の子なら泣き寝入りかもよ。めっちゃ痛かったし。謝るくらいなら最初っからすんなっつーの」
また謝りそうになったけど名前ちゃんの台詞からして謝って済む問題じゃないらしい。
どうしたらいいの俺。どうしたら許してくれんの。どうしたら今まで通りに戻れんの。
「まだ和成くんはイケメンだからいいけどさー、クソ客とかデブでブッサイクで気持ち悪いしあの体重で押さえ込まれて窒息しそうだしまじありえなかったちんこちょん切ってやろうかと思った」
名前ちゃんは無表情に淡々と毒を吐く。客に向けてなのは会話の流れからわかるけど、自分が責められてるように感じた。最後の台詞とか冗談に聞こえないのが怖い。思わずタマが縮んだ。
名前ちゃんに初めて恐怖を抱く。でもこんな風に毒を吐くだけで平気みたいな顔して、傷つかないって言ってたけど本当は傷ついてるのかもしれない。怖いなんて思う資格なんて俺にはない。
「あ、和成くんはイケメンだから許してあげる」
「え、は?」
「痛かったけど。めっちゃ痛かったけど。なんなら今もちょっと痛いくらいだけど」
痛い痛い連呼する名前ちゃんはちょっとだけニヤけてた。絶対わざと言ってる。でもそれくらいで許してくれるならいくらでも責めてくれていい。
「名前ちゃんマジでゴメン、俺に出来ることならなんでもするし。して欲しいことなんでも言って、な?」
「んー、これと言って和成くんにして欲しいことはないんだよねー……」
「じゃー連れてって欲しいとことかは?」
「特にない……」
「んじゃー欲しいモンは?」
「今持ってるやつよりおっきいテレビか今持ってるやつよりおっきいヴィトンのバッグ」
ここぞとばかりに高額なものばかりを挙げ始めた名前ちゃんに頭痛がした。
食事とか飲みに行ったりとか奢れるだけの金は稼いでるけど、さすがに高額なものをポンと買ってやれるほどは稼げていない。買わなきゃ多分今後会うどころか連絡も取れなくなるかもしれないまじどうするよ俺。
そんな俺を見て名前ちゃんは「冗談だよー」なんて楽しそうに笑った。その笑顔が可愛かったチクショー。
「あー、でも清志くんと別れる前に買ってもらえばよかったなー」
そんなことを言う名前ちゃんを見て、なんで俺昨日清志さんの名前出ただけでイラついたんだと溜息を吐いた。先輩に対して悪いけど清志さんは重要じゃなかった。きっと大輝ってヤツのせいに違いない。
「あ、じゃあ水族館連れてってよ。たまには普通にデートっぽいのして恋する乙女気分味わいたいし」
「水族館?そんなんでいいの?」
「うん。遊園地は大輝と行く約束してるんだー」
名前ちゃんは俺がレイプ紛いのことした原因を覚えてないらしい。そこも記憶あったらさすがに他の男の名前出さないはず。それとも覚えててまた俺が暴挙に出ないかどうか試してるのか。
いつもなに考えてるのかわかんない名前ちゃんの思惑なんて俺にわかるはずがなかった。
「思うんだけどさー、水族館に刺身とか海鮮料理のレストラン作ったほうがいいと思わない?」
いや大事なことは覚えてない的なこと言ってたし単純に考えてきっと記憶すっ飛んでるだけだ。多分。こんな何も考えてなさそうな子だ。そう思いたい。