仕事を終えた私は、どこのホスクラへ行こうか悩んでいた。
今日女友達は仕事が休みで、一人でラブホで寝るのはナニカ出そうだし怖い。
かと言って桐皇に行きたくても担当の大輝も今日は休みなので行けない。
そこでふと、ここら辺に新しいホスクラが出来たことを思い出した。
なんだっけ誠凛?確かそんな名前だった気がする。
店の場所もよくわからないしスマホで店の情報を探していると、声をかけられた。

「お姉さん、今暇ですか?」

「なんでー?」

早朝からナンパかよ。顔を上げると、そこにはスーツを着て水色の髪をした可愛い子が立っていた。
ナンパじゃなくてキャッチか。どっちにしろ初回だし今日は誠凛じゃなくてこの子の店に行ってもいいかもしれない。

「ホストクラブに興味はありませんか?」

単刀直入だな。初回1000円だよーちょっと飲みに来ないー?とかもっと軽いノリでいいんだよ。不慣れそうだし新人なのかな。

「どこの店?桐皇なら今日担当休みだからムリ」

「誠凛です」

「あ、ちょうど誠凛への行き方調べてたんだよねー」

「そうなんですか……!僕、他の方に声をかけてもいつもスルーされてしまって……ノルマどうしようかと思ってたんです」

目の前の水色くんは眉を下げた。多分相当困っていたんだろう。
でも初回の、自分の客でもない人間にいきなりノルマの話をするのはどうなんだ。
そんな不慣れな感じがいいって言われれば確かにそうかもと思ってしまうかもしれない。

「あー、慣れてないんだ?」

「僕、最近入ったばかりなので……」

「アフター行けるんだったら今日本指名してあげるよ」

誠凛といえば最近桐皇の客が流れていっている店だ。
多分今後は大輝が休みの日以外は行かないだろうし、誰を本指名しても一緒だ。
滅多に行かないであろう店の担当を選ぶよりも、今日一人でラブホに泊まらくてもいいようにする方が重要だった。

「え、いいんですか?アフターも僕には助かりますし、交換条件にならない気がするんですが……」

どうやら水色くんは根っからの真面目人間らしい。こんなんでホストやってけるのか心配になる。
新人キラーとか女友達に呼ばれた私が気に入るのは時間の問題だった。

「あ、僕テツヤといいます」

名刺を差し出されたので受け取って自分も名乗り、スマホを取り出して連絡先を教えてあげた。
じゃあ行こうかとテツくんの腕に絡みつき、歩いていく。

「あの、アフターってどこに行くものなんですか?」

まだアフター経験もないのだろう。本当にノルマ大丈夫なのかな。苦笑しながら聞かれたので教えてあげる。

「大抵ご飯食べに行ってからのラブホで爆睡コース」

私や女友達はこれが通常運転なのだが、他の人やホストはわからない。
たまにそのままのテンションでボーリングやネズミーランドに行くツワモノとかもいるよ。
そうテツくんに教えてあげると顔を青くした。

「ただでさえ酔っているのに、そんな所にいったら吐きます」

「新人にはキツいだろーね。だから今日はなんかご飯食べたらすぐ寝よー」

ご飯食べてから帰してあげるのが一番なのだろうが、私は仕事は一日おきだし飲んだ後にすぐ電車に乗って帰るのはキツい。
ラブホで寝るはめになるのは私の担当の宿命だなと乾いた笑いが漏れた。



 * * *



店に入るとすぐにテツくんを本指名して、飲み始めてから数時間。

「モエシャンピンク入れよー!」

「え、いいんですか?」

「掛けにはしないよちゃんと払うから心配しないで〜。割るからネクターもよろしく」

テツくんとヘルプの俊くんは当たり前ながら驚いていた。
初回でなんでシャンパン入れんのバカなのコイツとか思われてそう。
私も滅多に初回でシャンパンなんて入れないが、テツくんの初々しさにやられてしまったのだ。
私が面倒みなければ。母性を擽られ(私に母性があるかは甚だ疑問だが)そんな気分にさせられる。
テツくんが内勤の子に声をかけてから一分ほど待っていると、今日は客が少ないのだろう他のホストたちも集まってくる。
シャンパンコールが始まり、騒ぎまくったりしているといつの間にか閉店時間になっていた。

「名前さん、今日はありがとうございます」

シャンパンどころか、指名も初めてだったので。そういって微笑んだテツくんは本当可愛い。
なんでホストなんてやってるんだってくらいいい子だし。まぁ、それが演技だっていう可能性も忘れてないけど。
ホストなんて騙し騙されが普通なのだ。後から騙された!と喚くバカ女は惨めだと思う。
騙されたふりをして楽しむのが一番いい。
馴染みの定食屋で朝食を取り、いつものラブホへと足を踏み入れると、テツくんは戸惑っていた。

「あの、僕はどうすれば」

「私先シャワー浴びちゃうからお茶かなんか飲んでれば?先寝ててもいいし」

私はシャワー浴びたら寝る。そういうとテツくんは今だ戸惑いながら頷いた。
眠気で朦朧とした頭でシャワーを浴び、すでに寝ていたテツくんの横へとダイブした。
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