※彼女視点

最近和君の様子が可笑しい。何が可笑しいのかって聞かれると答えられないけど、でもどこか可笑しい。
私が焦っているからかもしれない。まだ二十台前半だし、早いって分かっている。でも周りの子がどんどん結婚して行って、和君はそんな素振り見せなくて。だからだよね、可笑しいって感じるのは。

「ねぇ和君」

「どーした?」

ケータイから私に視線を移した和君は笑っている。私が声かけてくれただけで笑ってくれるなんて幸せだなーなんて感じた私は和君の隣へと座る。和君はわざわざケータイを閉じて私の頭を撫でてくれた。

「んー、なんでもない」

「なにそれ」

和君は相変わらず笑って私の頭を撫でてくれている。本当に幸せ。
本当は言いたいことがあったけど、やめておいた。いまのままで幸せなのだから、急ぐ必要はない。
私は和君の前に二人付き合ったことがあるけど処女だった。三年も付き合っていて和君とも一回もそういう行為をしたことがない。
最初に「結婚までとっておきたい」って言ったら笑って頷いてくれた。そしてそれを守ってくれている。
体目的じゃないんだ、私を大事にしてくれてるんだと思うと本当に幸せで、絶対初めては和君にあげたいと思っている。
でも女にも性欲はあるわけで、たまにそういう雰囲気になったときは手を出してくれないかと期待することもあるけど和君は私の言葉を守って大事にしてくれていた。
今日本当は、してもいいって言うつもりだったけどやっぱり今のままでいいと思ったから言わなかった。
もし事に至って和君との関係が変わってしまったらと思うと踏み出せない私は臆病なんだろう。

「髪染めたことないんだっけ?すげーサラサラー」

「うん、自慢の黒髪なんだ」

髪の毛を染める子ってバカだと思う。明るくて痛んでいる髪より、暗くてもキレイでサラサラなほうがいいに決まっている。
化粧だってしてるかわからない程度が一番いい。ケバい化粧とか下品に見えるし。
香水も私はつけない。人工的な香りは気持ち悪い。
そんな価値観を持った私に和君は何も言わないから、和君もそういう子が好きなのだろう。
頭を撫でられているのが気持ちよくて、幸せな気分になっていると和君のケータイのバイブが震えて撫でる手が止まった。

「ごめん、お客さんから電話ー」

「え、うん」

和君はケータイを持ってベランダへと出て行ってしまった。
別に、声出したりしないから部屋で出てもいいのに。そんなことを思いながら窓の外にいる和君を眺める。
タバコの煙を吐き出しながら笑っている和君はなんだか楽しそうだ。前までお客さんの電話は面倒だとか言っていたのに、最近は仕事が楽しいんだろうか。タバコだって何回もやめてと言っているのにやめる気配はない。なんだか和君が知らない人になっていくみたいで怖かった。


 * * *


部屋に戻ってきた和君はベッドに突っ伏した。

「どーしたの?」

「あー、お客さんの話が可笑しすぎて笑い疲れた」

「ふーん」

「なんか酔っ払って地震だと思ってテーブル潜って防災訓練したらしーぜ。しかも記憶なくて後から他の人に聞いたらしいし普通そんな楽しいことしたら覚えてるっしょ」

「ふーん」

「俺の話つまんなかった?」

和君の話じゃなくてお客さんの話が、ね。笑っている和君も理解できない。
記憶なくなるまで飲んで酔うなんて自己管理がなってないと思う。私は酔っ払ってもし他人に迷惑かけたらと思って、未だにお酒は一度も口をつけたことはない。
私が無言でいると、和君は着替えだした。

「もう暗くなるし送ってくわ」

「一人で帰れるよ?」

「いや、俺清志さんとこ行くからさ」

「また?この前もじゃなかった?」

「先輩の誘い断れないっしょー?」

仕事の一環だというのは分かっているから渋々だけど頷く。すると和君は頭を撫でてくれた。

「理解のある彼女持った俺ってマジ幸せ者じゃね?」

そんなこと言われたら、早く普通の仕事に転職してなんて言い辛くなっちゃう。
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