何回か名前ちゃんと秀徳に行き、清志の機嫌は直った。
でもとうとう名前ちゃんが本指名しなきゃいけない時が来た。

「ごめんね、私和成くんのほうが気に入ってるから清志くん指名出来ないし、秀徳行くのはもうやめるよ」

本当ごめんねと謝ってきた名前ちゃんに頷く。ここまで付き合ってもらったお礼をこっちが言わなきゃいけない。
名前ちゃんは普通にいい子だった。でも清志が本気かどうかはわからないけど愛されているであろう名前ちゃんに嫉妬するのも事実。
私がこんなんだから清志は私を見てくれないんだと溜め息を吐いた。

「なぁ、名前ちゃん最近連絡取れねーんだけど」

「私も取れないんだよね。せっかく仲直りできたのに……」

清志の仕事が休みで私も休みだからと家でゴロゴロとしていると、案の定名前ちゃんの話題が出た。
名前ちゃんは自分を悪者にしていいと言ってくれたからその言葉に甘えさせてもらうことにした。
清志はスマホを弄りながらイライラした様子を見せている。とばっちりがきたらどうしようか。

「あ、俺ちょっと出かけてくるわ」

「どこ行くの?」

「名前ちゃん出勤してるっぽいからちょっと呼んでみるわ」

「お店使うってこと?」

「あ?文句でもあんのか?」

多分止めたら殴られたりするんだろう。嫌だと泣きたい気持ちを抑えて首を横に振る。
もう疲れた。いっそ清志が離れていってくれたほうが楽だとさえ思い始めた。
こんなに大好きで愛しているのにどうして分かってくれないんだろう。私を愛してくれないんだろう。


 * * *


あれから数ヶ月。毎週うちの系列店で名前ちゃんを長時間指名しているらしい。
まだ私は決心が付かない。別れたいのに別れたくない。清志を失ったら私はどうなってしまうんだろうか。
清志は最近上機嫌だ。お金使って相手してもらって嬉しそうにしている清志を見て、なんてバカなんだろうと思う。
私も必死に清志にお金を落としていた時期はこんな風に思われていたんだろうか。
私は風落ちして初めて夜の世界から足を洗いたいと心底思った。

「なぁ、お前は裏引きとかしてんの?」

「してるよ」

「ふーん。名前ちゃん普段絶対しないとか言ってたけど俺とはしてくれるっつーことは脈あると思うか?」

最近よく清志は名前ちゃんのことで話しかけてくる。名前ちゃんのおかげで会話が増えたのがなんだか余計に自分を惨めにさせる。
そしてそれって普通彼女に聞くことじゃない。昔の私ならばヒステリックに泣き喚いていたけど、もう慣れてしまった。私は笑いながら問いかける?

「金額によってはしないって子でもするからなー。一回の指名でいくら渡して本番ヤらせてもらってるの?」

「5万」

私は清志が言った金額に耳を疑った。相場は1万だ。5万って、名前ちゃんはかなりしたたからしい。
そしてなんの疑問も抱かずに自分が特別だと思っている清志は絶対バカだ。私はなんでこんな男が好きなんだろう。そしてなんで清志みたいなバカがナンバーワンなんだろう。いや、私がエースになったのがきっかけなんだろうけど。
本当のことを言ったら多分清志はキレる。私は笑ったまま嘘をついた。

「どうだろう。名前ちゃんが清志を嫌いってことはないんじゃないかな」

「マジ?もうちょっと押せば落ちっかなー」

私は頭を抱えたくなった。もうコイツはダメだ。完璧に風俗にハマってるオッサンと同類だ。
多分、名前ちゃんが清志の本カノになるなんてありえないだろう。
いっそ、そのうち捨てられるくらいなら自分から捨てたほうが辛くないんじゃないか。
私は泣きたいと思うことさえなくなっていた。

「清志、名前ちゃんと付き合えそうなら別れよっか」

「あ?そーだな。それがいいかもな」

ほら、私がいなくなっても清志は困らない。私は清志がいなくなったら困るのだろうか。わからない。

「じゃあ私も引っ越したかったし、しばらく他の客を宿カノにしなよ」

「おー」

清志はケータイを弄りながらなんてことなく返事した。
荷物まとめる気はないのだろうか。私は清志の代わりに荷造りした。

「清志、荷物まとめたから出てって」

「さっきのマジだったわけ?」

「うん、もう疲れちゃったんだ」

「ごめんな、お前に辛い思いばかりさせてたよな俺」

最後の最後になんでそういうこと言うかな。また離れたくなくなっちゃう。
涙で滲む視界の中で、清志がティッシュを渡してくれた。
荷物を持った清志が「ありがとう」と呟いて出ていった。
これで終わりなんだと思ったらもう私は何もやる気がおきなくなってしまった。

アパートを引き払い、私は地方にある実家へと戻った。店は飛んだ。辞めると連絡入れることすら億劫だった。
この先清志以上に愛せる人間なんて現れないと、寝たきりの生活になった。
母はそんな私に怒り、父は心配して毎夜様子を見に来た。
幼馴染の男も心配して毎日仕事帰りに覗きに来ていただなんて私は知らなかった。
その幼馴染が私をまた外の世界へと連れ出してくれる未来があるのも私は知らなかった。
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