名前という女の元に牽制しに行ってから一週間後。
かなり不機嫌そうな様子で清志が帰ってきた。最近不機嫌なことが多いから気にしないことにする。
清志は実家が少し遠いらしくほぼ私の家に住んでるも同然で、それが凄い嬉しかったりする。

「お前さー」

「どうしたの?」

清志から話かけてくれるなんて珍しい。
エースだった頃は毎日愛を囁いてくれていたのに、彼女になってからぱったりとなくなってしまったのだ。
それでも、毎日のようにここに帰ってきてくれるから私は安心していた。

「名前ちゃんになんかしただろ」

「……え?何が?」

本当のことを言ったらどうなるか。それを想像してしまい思わず青ざめる。嫌われてしまうかもしれない。
清志は自分の客に私が関わることを嫌がっていた。それもそうだろう。営業妨害甚だしい。
でも、清志は多分あの子を客にするつもりなかったじゃん。デリ呼びたいみたいなこと言ってたし。

「とぼけてんじゃねーよ。名前ちゃんがメール返してくれないと思ったらお前かよ。マジ殺すぞ」

「あの子約束破ったの!?もう清志とメールしないし指名もしないって言ってた……!嘘吐くとかまじ最低」

約束と呼ぶのはちょっと違う気がするけど、あの子が私に言ったことは嘘だったと気付いた。
清志にチクるとかありえない。最悪。頭に血が上り、思わずヒステリックになると、清志に髪を掴まれた。

「最低なのはお前だよ。名前ちゃんフリーで来ただけだし。後輩に取られそうだし嫌われそうだしどーしてくれんの?」

「痛い……!清志の彼女は私でしょ?だったらあの子なんていいじゃん!」

「はぁ?お前が名前ちゃんに敵うと思ってんの?早く名前ちゃんに弁解しておけ。わかったよな?」

私の髪を掴んでいた手が乱暴に払われ、私は倒れこむ。
今までに清志に殴られたりしたことは何回かあった。些細な事で喧嘩して、とか。
でも何回か清志の客を潰したことはあるけど、客のことで怒られたことは今まで一度もなかったのに。
あの子に心底腹が立ちながらも、「なんとかしなかったら別れっから」と言われてしまい私は頷くことしか出来なかった。


 * * *


一週間後、私はあの子が働いている店の待機所にやってきた。
あの子は仕事に行っていて原澤さんがホテルまで迎えに行っているらしく、待機所には「うちの店の名前さんが秀徳行ったんだってー」と私に教えてくれた子がいた。そもそも、この子がそんなことを私に言わなければ清志は怒らなかったかもしれない。
知らないところであの子と会われるのも嫌だとなんとか怒りを静める。
こっち来るなんて珍しいねどうしたの?と聞かれたが笑ってごまかしておく。
しばらく待っていると、あの子と原澤さんが帰ってきた。そして私を見た瞬間、盛大に顔を顰められた。

「ねぇ、ちょっと話があるんだけど一緒に来てくれない……?」

「何する気ですか?」

あの子が答える前に原澤さんが割って入ってきた。
私だってこの子を殴りたいくらいに嫌っているが、今日はそういうことで来たんじゃない。
清志に言われたことを思い出し、溜め息が漏れる。

「キレたり殴ったりとかじゃないから、ちょっと聞いて欲しいことがあるだけ」

「原澤ちゃんこの後予約入ってたっけ?」

「今日はあと一件入ってますが、まだ数時間ありますね」

「んー、じゃあ聞くだけ聞いてくるよ。殴られたりしたら警察行くし」

原澤さんに話しかけているが、明らかに私への忠告も混じっていた。この子、バカっぽいけど結構頭いいのかもしれない。
さすがにこんな話は誰にも聞かれたくない。部屋を出てビルの屋上へと着いてきてもらうことにした。

「で、話ってなにー?」

「この前はごめんなさい」

私が頭を下げるとあの子は驚いた表情を浮かべた。屈辱的だけど、こんなプライドより清志が離れていかないことのほうが大事だ。
頭を上げると、彼女は無表情になっていた。

「別にいいよ、どうでも。もう秀徳も行かないし」

「なんで……!?」

まずい、どうにかしてこの子がまた秀徳にいくようにしないと本当に清志は私から離れていってしまう。

「ハッキリ言っちゃうと、清志くんに犯されたんだよね。なんか和成くんともメールするなとか言うし、面倒だから」

だからもうマジ関わらないで。そう言われ呆然とする。
清志は私が悪いみたいに言ってたけど、自分の行いが悪いから嫌われたんじゃん……!
でもそう言ったところで多分清志は怒るだけだ。私がどうにかしないといけない。

「ねえ、清志がしたことも私が謝るから、清志にメール返すだけでもしてくれない?秀徳も、私が奢るからたまに行って!」

「そう言われても……」

「奢るだけじゃなくて、一緒に行ってくれるなら毎回お金も渡すから!」

「……いくら?」

「一回につき1〜2万くらいしか出せないけど……」

私たちが稼ぐには客のちんこを咥えなきゃいけない。それを奢りでホスクラ行くだけで手に入るんだから悪い条件ではないはずだ。
これが私が今出来る全て。
あの子は少し悩んでから頷いた。

「んー、清志くん指名しないでいいならいいけど」

「本当に!?秀徳何回行ったの?まだフリーで平気な回数?」

「まだ2回しか行ってないから、後数回はフリーで入れると思うけど」

「じゃあ限界まで誰も指名しないで清志とも普通に接してくれない?その後ならアンタが誰指名しても私も怒られないと思うし」

「あー……清志くんに怒られたんだ。あの人DVっぽい感じするけど平気なの?」

彼女は少し心配そうな表情で聞いてくれて、自分の汚さに自己嫌悪した。一番最低なのは、私だ。本当は最初からわかっていた。
私がこんなんだから清志もすぐに怒るんだろう。
大丈夫、ありがとうとお礼を言い、連絡先を交換してもらった。
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