今日は和成くんとバーでデートしたりごく普通の一日を送っていたはずだった。
それなのになんでこうなったのか。

「おい和成、説明しろよ。言い訳したら轢き殺すぞ」

私の家で和成くんが苦笑を浮かべ、清志くんはこめかみに青筋立てて床に座っている。
私はソファーでタバコ吸いながらその光景をみて面倒くさいなって煙と共に溜息を吐いてる。
コトの発端はバーを出て和成くんの家に行こうとしたら清志くんと遭遇したのが始まりだ。
私ん家と和成くん家は近い。そんで清志くんとは半同棲状態。よく考えたら遭遇してもおかしくない。
そんでまぁ案の定怒った清志くんが私ん家に和成くんと私を引き込んだって訳だ。
いや私ん家だからね。いくら半同棲って言ってもなんで清志くんが和成くん勝手に入れてんの?
和成くん家じゃなくてラブホにしとけばよかったの?そうすればこんな面倒くさい状態にならなかったの?

「で、なんで名前ちゃんと和成は一緒にいたワケ?」

「なんでって和成くん家に泊まろうと思ったんだよー」

「は?」

「だって私ちゃんと最初に浮気するって言っておいたじゃん」

「だからってな……」

清志くんは私の言葉にショックを受けたのか額に手を当てて俯いてしまった。
最近は清志くんともいい感じだったから浮気してないとでも思ったんだろうか。
それでもいいって言うから付き合ったのに、こんな風に尋問みたいなことされるなんて話が違う。
和成くんは私たちを見て相変わらず苦笑を浮かべたまま。

「いくらなんでも俺の後輩と浮気はねーだろ……」

「この世界じゃよくあることじゃん」

笑顔で言うと清志くんは黙り込んでしまった。和成くんまで笑みを消した。
心当たりはいっぱいあるんだろう。同じ職場で働いてる子同士に色営とか。
私は最初から開き直っていた。だからこの状況でタバコも吸うし笑顔も浮かべられる。最低だなんて知ってる。

「ねえ、嫌なら二人と別れてもいいよ。てか別れよ。メンドーなのはゴメンだし」

そしていつも以上に投げやりになっていた。最近はウザい客が多くて疲れてたし。仕事だけじゃなく私生活でも疲れるなんてイヤ。
私の言葉に肩を震わせた清志くんと、顔を顰めた和成くん。

「なんでだよ、和成とだけ別れりゃいいだろ」

「えー、俺は清志さんと付き合ってても気にしないんで現状維持で良いと思いますけど」

もういいよそういうやり取り見てるだけで疲れる。この状況で大輝に会いたくなった私は紛れもなく最低な人間なんだろう。

「もう良いじゃん二人とも別れよ?なんか疲れたから早く寝たいんだけど」

「まだ話終わってねーだろ」

「相変わらずだねー。名前ちゃんのそういうトコ好き」

「お前ら轢き殺すぞ」

「まじそういうの面倒だからやめてよ。ハイ!私二人と別れた!清志くんは宿カノ見つかるまでウチ泊まってていいから、ね?」

私が手を叩いて今日一番の笑顔を頑張って作ると、和成くんは溜息を吐いた。

「別にこれからも会わないってワケじゃねーっしょ?」

「うん、付き合ってても付き合ってなくても同じような感じじゃない?」

私と和成くんのやりとりを見ている清志くんのこめかみには相変わらず青筋が浮かんでいる。

「俺は認めねーぞ」

「もう無理決定事項。これ以上はめんどくさいし。清志くんとも友達〜。今日は三人で寝る?」

「おっ、名前ちゃんナイスアイディアー」

「は?冗談じゃねーよ和成は帰れ」

「冗談だよ相変わらず清志くんって冗談通じないね……」

「怒んないで下さいよー。ちゃんと俺帰りますって」

とりあえず和成くんが帰ったあとがちょっと怖い気もするけど、なんか肩の荷がおりた気がする。
二人と付き合ってる間は結構楽しかったんだけど、やっぱり私はとーぶんフリーでいいやって思いの方が強かった。


それから数日後、宿カノは見つかったのか清志くんは渋々我が家から出ていった。
家事自分でしなきゃなのかって思ったら清志くんには住んでてもらってもよかったのかもしれない。
「二人と別れた」と大輝に報告メールを送ったらすぐに電話がかかってきて、今日会う約束をした私は家で大輝が来るのを待っていた。
大輝がウチまできてくれるらしい。なんか仕事以外で外出る気分じゃなかったし助かる。
鍵開けとくから勝手に入ってきていいよ、とメールを送ってベッドでゴロゴロする。
そんなことをしていたら眠くなってくるのは当然で、私はいつの間にか夢の世界へと旅立っていた。


 * * *


目が覚めると大輝は私の隣で頬杖ついてこちらを眺めていた。

「起きたか?はよー」

「んー、おはよ。来てたなら起こしてくれればよかったのに」

「気持ちよさそうに寝てんのに起こせねーだろ」

「きゃー大輝やさしー」

「おい、棒読み」

まじでやさしいって思ってるけど寝起きのテンションじゃこれが限界だ。
私は人に感謝の気持ちを表現するのが苦手だけど、大輝ならわかってくれるよねって勝手に思っちゃってる。あながち間違いではないと思う。

「んで、なんで二人と別れることになったんだよ」

「寝起きでそれ聞いちゃう?聞いちゃう系なの?」

そんなこと言いながらも、私はそのまま布団に潜り込んだままぐだぐだになりながら先日のことを説明した。
それを聞いた大輝は呆れて言葉も出ない様子だ。
その反応、正解。

「お前はこれからどーすんだよ」

「ん?今まで通りだよ?」

それ以外の選択肢なんてないじゃん。このままデリヘルで働いて、ホスクラ行って、バカ騒ぎして。

「それで名前は幸せなのか?」

幸せってナンだっけ。私に王子様なんて必要ないし夢なんか見ない。
いいんだ、私はずっと夜遊び?朝方遊び?するんだ。

「シンデレラにはなれないし、ガラスの靴なんて私酔っぱらってすぐ割っちゃいそうだしー」

「ガラスの靴割ったら俺が抱きかかえてやるから安心しろ」

「やっぱ大輝は頼もしいね、まさか王子サマなの?」

「どこからどう見たってお前の王子様だろーが」

ドヤ顔の大輝に思わず笑みを零すと、大輝は照れくさそうな表情で私の顔に布団を被せてきた。

私はシンデレラにはなれないけど、私の周りにはそこら辺の女Aにも優しくしてくれる王子サマがいっぱいいるからそれでいいよ。
繁華街の片隅で、ガラスの靴じゃなくて疲れきった顔に釣られる似非王子サマと恋愛ごっこするのが私にはお似合いだ。
本音なんていらない、見せない、ただ笑う私に釣られてよ王子サマたち。
そうしたら私も全力で釣られたふりをしてあげるから。
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